周辺雰囲気とのギャップで過大評価だった、大羽

銀座コリドー街近くにあった時は、典型的な「立地の妙」の繁盛割烹店。ラーメン屋の看板を見ながら汚い路地に入り、綺麗ではない建屋の1階突き当たりに、客単価2万円近いカウンター割烹があるとは初訪問の人には想像できなかったことでしょう。高架下の焼鳥屋に匹敵するディープな環境ながら、店内は別世界とまではいきませんがこざっぱりした内装。カウンターに並べられた「おばんざい」はじめ刺身や焼き物などが単品注文できる使い勝手の良い店でしたが、いつの間にか足が遠のいて10年あまり。最近8丁目に移転したと聞いて再訪しました。

場所は「ホテルコムズ 銀座」隣のビル3階。店主と女将はいつの間にか松井秀喜選手の東京での「お父さん」と「お母さん」になるなどスポーツ関係者にも常連を増やしています。8席のカウンター上には8皿の「おばんざい」(煮もの)が健在でした。
左右の常連客は連れに「この店はみんな美味しい」、「フグ皮やコロッケが最高」と吹聴しており「進行性サロン化症候群」を確認。まずは突き出しの穴子の煮こごりを食してこの店が「濃い味調理」であることを思い出しました。頼んだ刺身は、昆布〆して質がわかりにくいヒラメ、〆過ぎで旨みを感じない鯖、カツオも旬にしてはあまりに淡泊。他の客が全員食べていたポン酢味の「フグ身皮」、これがこの日1番の料理でありました。松茸が岩手産と聞いて土瓶蒸しと焼き物を頼みましたが、鱧の出汁が利いていない、松茸の風味が弱い、と満足できるものではない。ウリであるコロッケは人参と胡瓜を和えた自家製ポテトサラダをそのまま揚げたものですが、常連が自慢するほどのものを感じません。〆に頼んだ親子丼(ハラスとイクラのコンビ)、ご飯が熱過ぎ。比較するのは酷ですが、「京味」のハラス飯とはかなり食後感が違いました。

「お椀」の用意がないこの割烹店、突き出し以外はフグ身皮にせいぜいコロッケを頼んで、8種の「おばんざい」でお腹を満たすのが賢い利用法だと常連を見て知ったのは〆のご飯を食べ終わった時点で手遅れ。なぜか日本酒が進まないのに、松茸が利いたのか支払いが一人2万円を軽く突破してしまいました。料理に評判の傑出さをまったく感じず、友里の再訪はまた10年はないでしょう。

本当にオーナーシェフの店なの?イル・マンジャーレ

3つ星フレンチ「カンテサンス」などを擁する多店舗展開会社「グラナダ」が運営する「キオラ」グループの総料理長だった鵜野秀樹氏。2年前に白金のイタリアン「ボスケッタ」のオーナーシェフに就任したとマスコミが発信していましが、今年再びオーナーシェフとなり独立してオープンしたのが麻布十番の「イル・マンジャーレ」です。
オーナーが独立?実は前店「ボスケッタ」はガラス食器販売会社が経営していて鵜野氏はただの雇われだったのです。今回は本当に独立なのかとこの店を訪問した友里ですが、再び「オーナー疑惑」を感じてしまいました。

場所はユニマットビル6階。ホールは大箱で天井からは変なカーテンが垂れており、テーブル、グラス、カトラリーは安っぽい。一番の違和感は男性スタッフ2名。慇懃無礼な接客だけではなく外観はどうみてもやっと独立したオーナーシェフの店に勤務するカメリエーレに見えません。ちょっと見ホスト風。そういえばこのビルの階上には、アマンリゾートを目指す過剰サービスがウリなだけのレストラン「カシータ」系列の店が3フロアありました。カーテン幕ふくめて内装はバリ風で、客も真の外食好きには見えない若い客が多いのも不思議。本当にオーナーシェフの店なのでしょうか。

鵜野氏はいつの間にか集客力を磨いたようで、「ボスケッタ」時代と比べて客はほとんど満席。この店の料理を一言で表せば「シェフの個性を抑えた無難な料理」。イタリア郷土色を隠し、野菜を多く使った量の多い万人向けの日本アレンジイタリアンと言えるでしょう。
バーニャカウダ、シーザーサラダとも野菜の量は多いのですが、肝心の味にキレがない。パスタ類も具の量はたっぷりあるのですが、生ポルチーニ、イカスミなど記録はあるけど良い意味でも悪い意味でも印象に残らない料理が続きます。メインの肉料理もそれなりでした。

厨房スタッフはバスボーイ入れて6名と大所帯なのですが、それぞれが自分の担当を黙々とこなしているだけで、オーナーシェフの店に見られる「緊張感」やシェフの「存在感」を全く感じない「イル・マンジャーレ」。「キオラ」時代は好きだった鵜野氏には、もっと「オーナー色」を出した店を再独立してオープンすることを期待しております。

パリ在住の人以外は行ってはいけない、あい田

今秋の欧州旅行、パリでは3つ星フレンチ「ランブロワジー」が昼しか予約が入りません。仕方なく話のタネにと夕食に選んだのが、和食では初めて1つ星をとったこの「あい田」です。
内装はチープでカウンター8席とテーブル2卓の小さな店。鉄板焼き嫌いの友里、入店直後に主人から「フランスの食材を使った鉄板主体の和食」だと聞いて事前の調査不足を後悔したのです。
ノーマルコースは140ユーロ。魚(その日は鱸)の替わりにブルターニュのオマールにすると160ユーロと聞き、これが最初で最後だとオマールコースに決定しました。

ウニの茶碗蒸しは梅のしょっぱさだけで出汁が全然ダメ。先が思いやられた瞬間です。乳飲み仔牛のタタキはポン酢のジュレがかなりしつこい。スペシャリテというカリフラワーを練り込んだ葛の鉄板焼き。御手洗団子の餡のような物がかかっており味濃いだけの一品です。柿の胡麻和えは擂りゴマが泡仕立てですが、柿は千切りで胡麻泡が酸っぱくこれもダメ。
造りは縁側付きのヒラメ。色が暗く見た目カレイかと思いました。ベチャベチャで縁側生臭すぎです。梅ベースのタレがかかった〆鯖も梅が濃すぎ、鯖が〆過ぎで肝心の鯖の味わからず。添えられたトマトが一番美味しかった。蒸し物としてジロール茸と出てきた青首鴨の団子がこの日一番の皿でした。

ウリのオマール(勿論鉄板焼き)は一人半尾。バターが強く掟破りの「唐墨」の大量振り掛けでこれまた濃い料理。質が悪くないだけにオマールは違った調理法で食べたかった。ここから鉄板料理の連続です。バターに醤油の牡蠣、これまた質が悪くなく調理が悪いだけ。根菜とフォアグラ(既に切り置き)はバルサミコと唐墨のタッグ攻撃に辟易。不味すぎです。トドメはシャトーブリアンのステーキ。これまた切り置いた肉は一見質の悪い鮪と思いました。鉄板上は油だらけでバター味も強く、細かく切った肉はまったく旨みを感じません。〆の栗ご飯や赤出汁も当然美味しくなかった。隣客の鱸の調理を見ていると、低温でかなりの時間鉄板に晒し続け、最後はやはり唐墨の大量投入。こんな唐墨大量使用の鉄板料理が「日本料理」と海外で勘違いされて良いのでしょうか。東京版だけではなく、本場のフランス版もいい加減というか、罪が重いと考えます。