移転してクオリティが劣化した、南蛮銀圓亭

月刊誌「めしとも」の洋食特集で取り上げるつもりで訪問しましたが、評価が芳しくなかったことやテーマである「ハレの日づかい」に合わないという理由などで掲載を見送った銀座の洋食店。移転後初めて訪問したのですが、頼んだ料理はすべて疑問の出来でありました。移転前はシチューなど煮込み料理で有名な店だったはず。「小川軒」や「胡椒亭」の流れを組む店で、店名も「西洋御料理 銀圓亭」だったはず。並木通りのビル7階に移転して「南蛮銀圓亭」と変な2文字が加わりました。あくまで友里の推測ですが、資本が変わったのかもしれません。
カウンターとテーブル席の簡素な内装。小林亜星氏のグループがいましたが、客入りは6割程度。
人のこと言えませんが年配客が多いのは洋食のお約束でしょうか。
この店は夜に洋食屋の定番「ハンバーグ」、「オムライス」、「ハヤシライス」を提供しません。売り上げ増を狙っているのか、3つのコースを主体にしています。前菜が何皿かついてメインが魚だと8000円。ビーフシチューで9800円、ステーキだと1万2000円であります。洋食屋なのにコース主体で価格設定も高い。これではこの不景気に客が殺到するはずがありません。洋食屋で魚やステーキを食べたくないと考え、我々はアラカルトをオーダーしました。

グリーンサラダ(800円)はヴィネガーが足りないのか酸味を感じません。オイルと胡椒の割に後味が悪いのが気になります。海老コロッケ(1800円)は衣がヌメッとしていて揚げたてのサクサク感なし。外が柔らかくて逆に中身が堅く、塩も足りなくまったく美味しくなかった。
海老グラタンが品切れということで頼んだ魚介のグラタン(3000円)は、ベシャメルソースがスープのように緩く味はすっぱいだけ。海老は冷凍物と見紛う質でどう見てもオーブンで再加熱したとしか思えない食後感でありました。野菜たっぷりのビーフシチューも4000円超はあまりに高過ぎではないか。ツメが緩い、そして温いとこれまたダメ出しです。

ワインの値付けも高く、安めのボルドーもの(8500円)を飲んで2名で2万台半ばの支払いは、この食後感では最悪に近い。移転と店名変更でクオリティがかなり劣化した有名洋食屋と判断します。

奇を衒っただけの多皿料理、Fujiya 1935

「ミシュランガイド 京都・大阪版」で見事2つ星に輝いたスペイン料理店。ヨイショ系ライターの前評判が高いため、味のわからないミシュラン調査員なら星をつけると推測し、この夏先手を打って訪問しておきました。
洋食屋の息子が後を継いで「エルブジ風」のスペイン料理店に変更したとか。東京では代替わりしてフレンチにした洋食店がありますが、一時の勢いがなくなった「エルブジ」の模倣でこの先何年も大丈夫なのか。答えは数年後には出るでしょう。
完全お任せ多皿コースは8800円。まずは「モヒートのシャーベット」でスタートです。シャーベットと言っても泡だけ。何だこりゃ。ウニと鮑はチャコリ(白ワインベース)とバルサミコのソースでしたが、ポーション小さすぎで何食べたかわからない。「鮎の化石」というネーミングの料理には笑ってしまいました。なんと鮎の骨のフリット。中身はどうしたか気になっていたら、登場してきたのが「無脊髄の鮎」。残った鮎の中身なのですが、スポイトに入ったソースを垂らさせるパフォーマンスは時代遅れではないでしょうか。その他記憶に残らない小皿がいくつも出てきてメインに当たる鰻と豚で〆となります。
鰻のソテーは黄ピーマンのソース。この日唯一の「まずまず料理」でありました。かろうじて許容範囲。南の島豚は低温調理のようですが、色の割に火が入りすぎており、食材の質も悪いからかショッパイだけで旨みを感じなかった。デザートが2皿でコースは終わりとなりましたが、全部で12皿は出たと思います。
ワインはスペイン産の他、イタリアや日本ものがあり、5000円くらいから揃えているので頼みやすかったのが唯一の救いでありました。
ネーミングの凝り過ぎというか、変化球ばかりの奇を衒っただけの料理の連発。サプライズで一世を風靡した本家「エルブジ」も、さすがに息切れしたのか最近さっぱり評判を聞かなくなりました。
料理だけではなく何事も「基本」が第一。奇抜な手法とポーションの小ささで客の目を、食材の質や調理技術からそらせる戦略なのでしょうが、こんなことがいつまでも続けられるほど世の中甘いと思えません。基本に戻って質と腕でリピート客を増やす努力をしないと、本家同様早晩行き詰まると私は考えます。

料理が凡庸な有名洋食店、たいめいけん

伊丹十三監督の映画「たんぽぽ」が切っ掛けではないと思いますが、立地も良いのかこの不景気でも集客が順調なのが日本橋の洋食店「たいめいけん」。元は屋台の「ラーメン店」だったと地元の老婦人から聞いた記憶があります。月刊誌「めしとも」の洋食特集でこの秋3回訪問しての結論は、まったくの「名前倒れ」でありました。
料理は傑出したものを感じないのですが、特に1階は2階より価格設定をかなり安くしているのでオープンと同時にいつも行列が出来ています。価格なりの食後感(満腹になるだけ)なのですが、何も考えない一般客を引きつけるこの「ブランド力」には脱帽です。
今回は2階店に限定。実際の普請は別にして1階よりゴージャス感を出しており値付けも結構高い。でも忙しい客には有り難いことに、2階は昼でも並ばずに飛び込みで食べることが出来るのです。1階の店前に並んでいる行列客を横目で見ながら、その脇を通って2階へ上がっていけるわけですから、上から目線の客や優越感に浸りたい客の接待にはもってこいかもしれません。特に味わいに無頓着な客ならば、その時点で接待は成功です。
料理は価格に見合うかと言うとつらい普通レベルの洋食。その中でも高額(3400円)のビーフシチューは、ドゥミグラスソースがあまりに甘酸っぱすぎて私の好みではありません。肝心の肉も脂の塊で原価をケチっているとしか思えない。ハヤシライス(2400円)も同じく甘酸っぱさが際立っている代物。薄切り肉や野菜の量はまずまずながら、添え物のラッキョウがわずか3ヶはケチりすぎではないか。タンポポオムライス、伊丹十三風と銘打った名物料理でありますが、玉子の使用量が多いだけで、中身のチキンライスにプロの調理を見ることが出来ません。普通のオムライスより300円高い(2700円)のは、いくらトロトロ玉子とは言えふっかけ過ぎと判断します。最悪だったのが蟹コロッケ。蟹のツメ付きで素人客を喜ばせる演出のようですが、何気にツメ部分を触ってビックリ。冷たいではありませんか。造り置きして冷凍にしていたと推測します。洋食の定番ハンバーグもヌメッとしていて限りなくレトルトに近い食感。支払いは立派な高額店ですが、実態は限りなく「ファミレス」に近い店です。