オープン当初から集客不振の交詢ビルのレストラン群、その中でも「逸喜優」という鮨屋は特に厳しかったのではないか。その鮨屋を任されていた鮨職人が昨年末に独立したのがこの「鮨 太一」。料理店紹介雑誌に効率的に露出したのが功を奏したのか、すぐに人気店になりました。
鮨屋の人気は鮨職人の腕とは関係ないのか。閑古鳥が鳴いていた店の雇われ主人が独立した瞬間に人気になるのですから世の中不思議であります。私は交詢ビル時代に何回か行っておりスルーしていたのですが、たまに行く鮨屋の主人から評判を聞き興味を持ったのです。主人曰く、何よりの特徴は「値付け」とのこと。銀座としては安めでCPが良いというのです。
まずは3月になって昼にチャレンジ。何と「お決まり」は2520円(当時握り8ヶ)からあるではないですか。11ヶで5250円、お任せで8400円でありました。友里流で昼から酒を頼んでツマミからスタート。白魚、カスゴ、赤貝など可もなく不可もなし。握りは、赤酢の酢飯ながら店の個性を感じず煮ハマ、赤身、中トロ、コハダ、サヨリも普通でしたが、穴子や煮ホタテ、茹で海老が美味しかった。1万数千円の支払いは、飲んだ酒量を考えると確かにお安かったです。
夜に訪問してから評価せねばと酒飲みの知人を連れて再訪したのが秋の初め。ツマミが8種あるのは良いですが、ジュンサイのシジミ出汁や甘エビの昆布〆などミスマッチな仕事にはガックリ。毛蟹が出てきた時は、J.C.オカザワが好む「海鮮寿司屋」へ間違って入ったかと思ってしまった。ビールや酒のお供としてかろうじで踏みとどまったツマミの後に握りを13ヶ食べましたが、一番印象に残ったのは「鯖」だけでこれは美味しかった。シンコ2枚付、蒸し鮑、燻しカツオ、カスゴなど江戸前鮨ネタも揃っていたが、いずれも印象に残らなかったのです。
しかし最後の支払いで大きなインパクトがありました。連れたちは大酒飲みで日本酒をかなり飲んだのですが、支払いは一人当たり1万8000円前後と予想外に安かったのです。普通の酒量の方なら、1万5000円前後で終わるのではないか。最高のタネでも仕事でもない鮨店でありますが、銀座でこの支払いで文句を言っては罰が当たると考えます。
価格設定がウケた銀座の人気鮨店、鮨 太一
あの店は今・・・ 野田岩
景気の回復が滞っているこの時期にこれほど繁盛しているとは思いませんでした「五代目 野田岩」。丑の日のある7月は、昼は行列、夜は満席で予約が入りません。平賀源内が煽っただけで旬でもない時に食べる必要はないと8月になって昼にフリで飛び込みをはかったところ、簡単に出来ました。暑い中、行列までした「野田岩信者」にはご苦労様と申し上げたい。
デビューして6年、友里はこの「野田岩」に対し一貫して「天然偽装」をやめるべきだと指摘してきました。「吸い物の肝や肝焼きに釣り針が入っていることがある」と箸袋で注意を促し、店主が「天然鰻に拘っていて4月から12月までは天然鰻を、それ以外の時期は養殖鰻を出している」と発言していたら、純粋な客は冬以外の鰻は全部天然だと勘違いするではありませんか。しかし冬だけではなく春、夏、秋も仕入れる鰻の大半は養殖鰻なのです。天然鰻なんて1日に何匹もでません。それは仲居さんに天然鰻を注文したら、都度厨房へ確認しに行くことから誰でもわかることなのです。
さてこの日、メニューを見てビックリ。「白焼き」は今まで100%天然と言っていましたが、不漁の際には養殖を使うとの明記に変更。逆に天然鰻を意味する「中串」や「筏」がメニューから消えています。箸袋の「釣り針記述」は健在でした。
まずは霞ヶ浦の天然鰻という「白焼き」をオーダー。いつもより身が厚かったですが、風味や旨みがまったくない。ただの柔らかい「蒸し魚」であります。続いて違いを確かめるため、養殖と天然の蒲焼きを両方頼みましたが、やはり蒸しすぎで柔らかすぎです。天然鰻は風味(悪い意味での「臭み」)があるが味が薄い。同伴者にも確認させましたが、ブラインドで食べたらこの「野田岩」では、「養殖」の方が脂も乗っており美味しく感じるのです。私は世にはびこる「天然鰻神話」に物申したい。天然なら何でも美味しいというのは嘘。時期、産地(川)、場所(上流か下流か)と行き先(上りか下りか)に加えて、個々の個体差で味はまったく異なると。産卵で海へ帰る前の下り鰻(河口付近で餌を沢山食べた大きなもの)で当たりの鰻を「直焼」で食べたら、「野田岩」が仕入れる小さ目の「蒸しすぎ天然鰻」なんて食べる気がしなくなることを広く知っていただきたいのです。
あの店は今・・・ 本湖月
以前から「過大評価店」の典型例と友里が主張してきた大阪の人気店「本湖月」。今回の再訪で主人の性格の悪さも半端でないことも再確認しました。
予約時にコースは1万5000円、2万円、2万5000円の3種と言われ、私は後で文句を言われないように最高値を選択。ところが、訪問した祝日でも満席のカウンター客全員が、私と全く同じに見える料理を食べていたのにちょっと引っかかったのです。後の友里掲示板の書き込みで、どのコースを頼んでも内容はほとんど一緒、2万5000円コースは観光客専門の価格、とあって私は納得しました。なんだ、「3コース偽装」の店ではないか。そして主人の性格の悪さを示すダメ押しの場面に遭遇したのです。主人は隣の常連カップル客に「平日は接待が多く味がわからない客が多いので、祝日はやりがいがある」と言うではありませんか。平日の接待客をたぶらかして儲けている店の主人が「それを言っちゃ?、おしめいよ」。
山芋豆腐、ウニ、タイラガイの先付けは味付けが濃すぎて食材の旨みを消し飛ばしています。高額和食で毛蟹が出てきたのにも驚きました。お椀はこの時期旬の鱧ではなくアコウでがっくり。造りはバットから取り出した造り置きの「鱧の焼き霜」です。既に骨切りしているどころか、炙り置きでカウンターではサクから切り分けるだけでありました。しかもクラッシュアイスに直置きし、ご丁寧に鱧の上にもカキ氷がかけられてベチャベチャ。あまりにひどい食感です。産地を言わない鮎は奥で串打ちされてカウンター内で焼かれます。7月下旬にしては骨抜きしないで食べられる小さな鮎に魅力を感じる人がいるのかどうか。主人が「日本一贅沢」と言っていたトウモロコシのかき揚げ。バチコの細切れを衣にまぶしているのでそう表したようですが、居酒屋であるまいし客単価3万円の店で「トウモロコシのかき揚げ」はないでしょう。トマトのすり流しに入れられたジュンサイとソーメンも、ガスパッチョもどきで大衆受けの味ですが、これも高額和食で出す料理なのか。出汁たっぷりの濃い味な炊き合わせの後、〆は土鍋の白飯でありました。1万5000円でも割高に感じるこのコースが、2万5000円とはあまりに暴利。性格の悪い料理人の店へ行ってはいけないという典型例であります。