同じ銀座内に移転して価格が上がり、CPが劣化したと聞いた元人気フレンチのマノワール・ダスティン。今年になって2回訪問しましたが、いずれも寂しいホールでの食事となりました。
まずこの店はサービス(特にワイン)がダメ。ワインサービスはソムリエールが居る時は彼女しか担当しません。彼女が接客中はリストを見て頼もうとして他のスタッフを呼んでも誰もテーブルに来ません。説明を聞くのではなくオーダーするだけなのにこの杓子定規、まったく使い勝手が悪い。2回目の時は運良く?ソムリエールが休みだったので、他のスタッフが当意即妙に対応してくれストレスを感じませんでした。ワインがある程度わかる方は、ソムリエールが休みの日が狙い目です。
この店は食材を目の前で見せるパフォーマンスをします。その日のオススメ食材(例えば岩牡蠣、白アスパラ、天然車エビなど)をカートに乗せて持ってくるのですが、このカートがボロなのか車輪がガタゴトと非常にうるさい。せっかくのパフォーマンスが興醒めです。
料理はコースもありますが、2回ともスペシャリテを中心にアラカルトにしました。アミューズは有名なブーダンノワール。
しかし一口タイプで物足りない。スペシャリテの人参のムースは、コンソメジュレが色の濃さの割に深みなく、甘さが強い人参とバランスが悪い。岩牡蠣は一度火を入れてから冷やした調理。海苔のムースと海水のジュレで味付けしていますが、クリームが強すぎて塩が足りない。岩牡蠣自体がクリーミーなのでもっとアクセントをつけるべきではないか。鮎と鱧のマルミットは、鮎と鱧が出がらしのようにパサパサでしたが、添えられたスープは出汁が利いていて美味しかった。仔羊はまずまずながら、子豚はイマイチ。ロースト後にアロゼして皮をカリカリにした料理ですが、シューシーさがなく、甘い味付けでワインがまったく進みません。豚本来の旨みを感じないのです。
ワインは値付けが安くはないものの高くもない。でも1万円弱のワインを頼んでの支払いが一人2万円前後はこの寂しいホール、イマイチなサービス、そして普通レベルの料理ではCP悪いとしか言いようがありません。五十嵐シェフも過去の人になってしまったと感じた2晩でありました。
この店も移転が失敗か、マノワール・ダスティン
馴染み客が一巡したあとが心配、ヒロソフィー
3年前に世間を騒がせたイタリアンの雄、山田宏巳氏。最近の酒井法子被告ほどではないですが、業界に与えたインパクトは大きかった。しばらく消息を聞かなかったのですが今年になって麻布十番に新しい店を出したと聞き訪問したのです。
ピーコック向かいのビルの2階。入り口には「龍吟」の店主・山本氏からの祝いの蘭がありました。山本氏の幅広い人脈ときめ細かい配慮に脱帽です。
料理はお任せ1万5000円のコース1本。山田氏は厨房に入らず、料理を運ぶなどホールサービスに徹しておりました。
まずはテーブルに福島産バターの大きな塊を持ってくるパフォーマンスでスタート。でも卓上に出されたものは塩バターともポーションはわずか。温前菜は宮崎産水牛モッツァレラを中心に10種ほどの野菜。味付けがかなり甘く感じる一品です。続いて鰺、真子鰈、石鯛、真鯛がわずか1片ずつのカルパッチョ。真ん中には鯛の出汁で造ったアイスが添えられています。鯛の味がしない甘いだけのアイスは完全なミスマッチで、刺身には味塩が振りかけられているような後味にも驚きました。
次の料理にも唖然。骨壺に似た器に生シラスのスパゲッティが入っているのです。山葵を利かせた蕪の葉や紫蘇まで入れた味付けも奇抜。器が深くてフォークでは食べにくい単なるパフォーマンス料理でありました。オマールとウニのリゾットもウニが冷たくてイマイチ。魚料理は蓋をとるとスモークが出てくる仕掛けですが、厚めに切ったカルパッチョはほとんど生感覚でありました。これまた一味と味塩をかけているような不気味な味付けです。最後の肉料理も見た目は「生」。スチームコンベクションで真空調理したという仔羊ですが、この日最悪の出来でありました。
創作イタリアンと言うより「奇抜」なだけの料理の数々に滅入るばかり。「リストランテ ヒロ」の総料理長時代は、もっとまともなイタリアンを提供していたはずで、3年のブランクでなぜこんな料理になってしまったのか私には理解できません。
同じ時期に訪問した元常連客も愛想を尽かしたこの「奇抜料理」、付き合いで仕方なく訪問する馴染み客が一巡した後、まともな舌の持ち主がリピートするのかどうか。才能がある料理人だけに、非常に残念です。
この店も過大評価で過大人気店だ、山玄茶
昨年講談社のポータルサイトで「招福楼 東京店」に関して厳しい評価を下した時、東近江市八日市の本店から独立したこの店をコメント欄で紹介され、はじめて訪問したのが今年始めでありました。
「祇園さヽ木」の移転前の店をほとんど居抜きのままでオープンした「山玄茶」、1万1000円から1万5000円まで3種あるコースから一番高いものを選びましたが、食材の質と調理、そしてCP感にまったく傑出したものを感じなかった。時期が悪かったのかと7月に再訪したのですが、口コミサイトの高評価がまったくあてにならないことを再確認した次第です。
この日も最高値のコースを予約。入り口にはこの店をベタ褒めしているヨイショ系ライター・関谷江里氏が著した「京都 美味案内」が山積みされておりました。
まずは炙りトリガイ。バナーで直接炙るからトリガイを乗せたバットが変色してひん曲がっています。見た目も汚い。お椀は葛まんじゅう(葛をうったアコウダイ)でしたが肝心のタネ、葛が剥離しています。茄子も炙っているから焦げ臭があり、黄ニラも入っていて和食の味わいではない。この価格ならこの時期、鱧のお椀を出すべきではないか。薄すぎて味がわからない目板鰈、2名で1ヶのサザエ、そして蛸の造りの後、バットで保管していた造り置きの「鱧の焼き霜」がわずかに1切れでてきます。この時期ならつまらない造りを減らしても鱧をもっと出すべきではないか。近江牛の握りも不気味。醤油出汁で煮た肉(治部煮みたい)の握り鮨なんですが、ぬるぬるで気色悪いだけです。八寸にマスカロポーネがあるのも不思議。経験不足な観光客も引いてしまいそうです。白味噌ベースの伊勢エビ(一人半尾)も甘いだけでまったく美味しくない。続いた岩牡蠣は良かったですが、これが京和食と言えるのか。主人が好きだという「島らっきょう」も京都ではミスマッチと考えます。甘鯛蓮根蒸しに乗せられていたフカヒレも小さ過ぎてわざわざ出すようなものではありません。質や調理のレベルを問わない観光客が喜ぶ食材を多用するだけの和食店と判断。〆の白飯が岩牡蠣と並んでこの日1番の皿というのも悲しく、日本酒4本飲んで2名で4万円弱の支払いでは、私の三度目の再訪は考えられません。