オープン当初から前途多難、タテル・ヨシノ 銀座 2

入居ビルの外観がゴーストビルに見えると先週のコラムで書きましたが、このレストランも訪問した日は我々2名だけの貸し切り状態。これまたゴーストレストランの様相でありました。
アプローチのパイロンは「赤から白に変えてもらった」とスタッフが言っていましたが、そんな程度の修正では集客にまったく貢献しないようです。
コンサルタントだった山本コテツ氏が頼った銀座の夜景も最悪。ホールからの借景は「かに道楽」、「SB」、「白鶴」の電飾看板が目立つのみ。高級フレンチとはまったく相反するものでかなりの違和感を覚えます。地代だけではなく夜景までと、ここまでコンセプトを外したコンサルタントも珍しいのではないか。コースはメインが和牛、鴨、スッポンの3種しかないのでアラカルトにしましたが、前菜と肉料理(いずれも7000円前後)も5種と選択肢のないグランメゾンであります。
都内3店で吉野氏が一番力を入れていると言われているだけあって、食後感は予想外に良かった。
アミューズで出た喜界島の子ヤギのカルパッチョ
と南仏ピザ風タルトはまずまず。前菜のパテ・ステラマリス風(鴨のフォアグラ)とメインの仔羊の岩塩蒸しはどちらもしっかりした味付けで悪くありません。連れが頼んだ鮪(前菜)と和牛(メイン)も美味しかった。猫も杓子も飛びついている「低温調理」が少ないもの評価できるというものです。
ただしワインの値付けは安くありません。ノンヴィンのシャンパーニュが1万1000円と大台を超えております。ブルゴーニュ(赤)の地方ワイン(村名より下のランク)も1万円を超えており手が出しにくい。反面ボルドーは安い値付けのものがありましたが、1947年のペトリュス(77万円)をこの店で頼む客がいるとは思えません。
支配人は別にして、ソムリエや若いメートルは頑張っていて、サービス面での不満がまったくなかったのは救いであります。
ビル入り口(エレベータホール)がわかりにくく、客も少ないので、二人の世界に没頭したいカップルやお忍びデートには利用しやすいフレンチレストランではないでしょうか。
「自称飲食店コンサルタントの助言で流行った験しなし」の定説を今回の経験で考えついた次第です。

オープン当初から前途多難、タテル・ヨシノ 銀座 1

デビュー直後からお世話になっている「日刊ゲンダイ」関係者から銀座に建築中のビルのテナント募集の相談に乗ってやれと頼まれて、ビルオーナーである大阪の化粧品会社の本社ビルへ訪ねて行ったのが3年前の4月下旬。このプロジェクトとの関係(すべて無償)の始まりでありました。
自称空間プロディーサーの山本コテツ氏にテナント募集含めビル計画のコンサルを依頼したがレストラン招致に苦労しいるというのが私への相談内容であります。しかしこのコテツ氏、バブル時代の一時的な成功体験から抜けきれなかったようで、なんと最上階(12階と13階)に吹き抜けのレストランスペースを計画させておりました。銀座の夜景をウリにすれば坪7万円も夢ではないとの触れ込みで設計した100坪を優に超えるフロア図面を見て私はひっくり返ったのです。銀座で夜景をウリにしても客が入らないのはシャネルとデュカスのコラボ「ベージュ」が証明済みのはず。最上階の吹き抜けにまともな頭の経営者が興味を示すはずがないと計画変更を提言したが時既に遅し。それではと「ロオジエ」のパクりとなりますが、親会社(化粧品会社)のイメージ戦略で採算度外視の高額レストランを自主運営したらとの提言も、さすが大阪の会社、まったく興味を示さなかった。坪単価ダンピングでやっとオファーが来た中に、あの小山薫堂氏が関与したと言われる「ジャン・ジョルジュ」(マンハッタンの3つ星フレンチ)がありまして、日本初上陸が話題で流行る可能性があると強く推したのですが、提示条件が厳しいと蹴っ飛ばし、更に中国料理店のオファーも退けて、最終的に選んだのが東京で3店目と新鮮味のないこの「タテル・ヨシノ」であります。
すべてが裏目というか、現在もビルは1階から6階くらいまでテナントは入っておらず、アプローチにはパイロン(当初はなんと赤色)を置いて通行人を寄せ付けません。まるで差し押さえられて工事中断したゴーストビルの様相。せめて1階に自社のショールームでも入れてこの異常な雰囲気を隠せば良いと思うのですが、オーナー側の無策か未だに放置されっぱなしであります。
何回も大阪へ自腹で通っての提言がまったく生かされなかったこのビルのレストラン、詳細は来週月曜をお楽しみに。

京料理どころか和食でもない業界人料理、ます多

放送作家など業界人が3つ星確実と騒いでいる京都の創作和食店。結論から言わせていただくと、業界人が泣いて喜ぶ高級食材(質を問わず)を盛り込んだだけの「賄い料理」。京料理でないどころか、和食でもなく単なる「業界人料理」です。
のカウンター8席の小さな店で、お任せコース1本であります。
まずは由良の赤ウニが小さな箱毎出てきます。ミーハーにはウケるパフォーマンスですが、烏賊と海苔と一緒に食べるこのウニ、どうってことない質です。続く酢味噌で食べるトリガイもまったく凡庸。そして造りはトロ。京都の和食屋でトロを喜ぶ関東人は業界人くらいではないか。フランス人が東京で出るブルターニュ産オマールを喜ばないというのをご存じない。関西では東京に敵わない白身が沢山あるのにもったいない話です。薄造りは「あまて鰈」と言われましたから島根産の真子鰈のことか。東京では常磐ものが有名ですが、この日唯一満足するものでした。鮑は生の薄切りを七輪で炙って肝ダレで。嬌声を上げる業界人の姿が目に浮かびますが、夏でない時期、和食で鮑を食べたいとは思いません。
竹の子は湯がいただけのシンプル調理。長岡産とのことでしたが、上質のものと比べかなり固い。琵琶湖の稚鮎はスタッフが七輪で焼きますが、焼きが甘いというか小さすぎて蒸し焼きみたい。風味もまったく感じなかった。ここからはこの店が得意とする「濃い味」攻撃が始まります。鯛の子の次は伊勢エビと竹の子の煮付け。出汁は濃いだけではなくかなり甘かった。生節を挟んで再び伊勢エビが煮込みで登場。これまた甘いだけの出汁ですが、その後のタケノコにふられた花山椒が全然利いていないのはいかがなものか。業界人が泣き叫ぶ料理はまだ続きます。大トロの炙り見て私は「出た?」と思わずつぶやいてしまった。シャトーブリアンをわざわざカツするセンスも問題ですが、深みのないドミグラスをキャベツがべちゃべちゃになるほど掛けて食べるのも気持ち悪い。トドメは〆にでた辛いだけの鮑入りカレーで支払い額3万円台後半。あまりに高過ぎです。
質を問わない偏った高級食材を使用しただけの濃い味賄い料理の連続。これで星がついたら、ミシュラン調査員も業界人レベルの舌しか持っていなかったと言うことです。