馴染み客が一巡したあとが心配、ヒロソフィー

3年前に世間を騒がせたイタリアンの雄、山田宏巳氏。最近の酒井法子被告ほどではないですが、業界に与えたインパクトは大きかった。しばらく消息を聞かなかったのですが今年になって麻布十番に新しい店を出したと聞き訪問したのです。
ピーコック向かいのビルの2階。入り口には「龍吟」の店主・山本氏からの祝いの蘭がありました。山本氏の幅広い人脈ときめ細かい配慮に脱帽です。
料理はお任せ1万5000円のコース1本。山田氏は厨房に入らず、料理を運ぶなどホールサービスに徹しておりました。
まずはテーブルに福島産バターの大きな塊を持ってくるパフォーマンスでスタート。でも卓上に出されたものは塩バターともポーションはわずか。温前菜は宮崎産水牛モッツァレラを中心に10種ほどの野菜。味付けがかなり甘く感じる一品です。続いて鰺、真子鰈、石鯛、真鯛がわずか1片ずつのカルパッチョ。真ん中には鯛の出汁で造ったアイスが添えられています。鯛の味がしない甘いだけのアイスは完全なミスマッチで、刺身には味塩が振りかけられているような後味にも驚きました。
次の料理にも唖然。骨壺に似た器に生シラスのスパゲッティが入っているのです。山葵を利かせた蕪の葉や紫蘇まで入れた味付けも奇抜。器が深くてフォークでは食べにくい単なるパフォーマンス料理でありました。オマールとウニのリゾットもウニが冷たくてイマイチ。魚料理は蓋をとるとスモークが出てくる仕掛けですが、厚めに切ったカルパッチョはほとんど生感覚でありました。これまた一味と味塩をかけているような不気味な味付けです。最後の肉料理も見た目は「生」。スチームコンベクションで真空調理したという仔羊ですが、この日最悪の出来でありました。
創作イタリアンと言うより「奇抜」なだけの料理の数々に滅入るばかり。「リストランテ ヒロ」の総料理長時代は、もっとまともなイタリアンを提供していたはずで、3年のブランクでなぜこんな料理になってしまったのか私には理解できません。
同じ時期に訪問した元常連客も愛想を尽かしたこの「奇抜料理」、付き合いで仕方なく訪問する馴染み客が一巡した後、まともな舌の持ち主がリピートするのかどうか。才能がある料理人だけに、非常に残念です。