この13日に催された「ミシュランガイド 京都・大阪版」発売記念パーティに、「瓢亭」主人、高橋氏が出席したことに驚いた人は多いのではないでしょうか。
京都料理界の重鎮として人望高いと聞く高橋氏、京都でのミシュラン発刊に否定的で「京都吉兆」の徳岡氏や「菊乃井」の村田氏のようにミシュランに尻尾を振らず、堂々と取材拒否(写真撮影拒否)を貫くと思われていたからです。ところが写真撮影を許可するどころか、タレントのようにパーティに三星シェフの1人として出演。落胆した常連客も多かったと推測します。
漏れ聞くところ、ミシュランサイドから「瓢亭」へのコンタクトは2年前からで、「3つ星」を条件に協力を要請してきたとか。当初は拒否していたのになぜ最終的に承諾したのか。それは3つ星シェフのステータスと集客事情によると考えます。
最近「瓢亭 本店」を訪問しましたが、盛況には見えませんでした。大女将がほとんどへばりついていたのに驚いたものです。また3つ星になると世界の3つ星シェフと交流ができるそうで、最近本を出した和食店主も喜んでパリの3つ星店を訪問していると聞きました。
ミシュラン総責任者のナレ氏の発言「掲載拒否しても載せる」、「同じ土俵に上がれないなら廃業して転職しろ」は傲慢だと批判を浴びましたが、方針を変更したい(拒否から容認へ)「瓢亭」など料理人達の「変節」を隠す高度な戦術だったと私は考えます。あの独立したばかりの「緒方」(連日盛況の若手2つ星和食店 )でさえ拒否しているのに、高橋氏はミシュランに転んで更なる集客をとった単なる商売人であったと言うわけです。
コースは3万5000円。拘って常時出す鯛の造りや鮪節を使った出汁の鱧松椀は悪くないですが、言われるほどの傑出さを見いだせません。八寸に出た有名な「瓢亭玉子」、単なる味付け温玉ではないか。唯一鰻、鮑、海老、百合根などを使った炊合わせに感心しただけでした。子持ち鮎の焼き物、松茸ご飯とアイテムだけはありましたが、設備も含めてまったく不満。客単価が4万円以上なら、TVに出る前に「蚊対策」(コンセントがなく蚊取り線香で煙い)や何10年も昔の壊れかけたクーラーのリニューアルが先だと思うのは私だけではないでしょう。
ミシュランに媚び売ったのか、瓢亭 本店
オールマイティな洋食店、資生堂パーラー
洋食屋というと、下町や住宅街にある古い一軒家とボウタイに着古して表面が光ったタキシードを着た年配スタッフを思い浮かべますが、この店はまったく別物です。銀座の一等地のビルにあり、スタッフは男女とも若く制服も光っておりません。
天井も高く、テーブル間隔も充分にとった贅沢な空間の店であります。
場所柄一番の客筋は同伴カップルでしょう。フレンチやイタリアンと違って洋食は誰でも知っている料理で種類も少ない。短時間で食べ終わることが出来るので同伴には最適です。内装も垢抜けていてデートにも可、買い物帰りの家族連れのちょっとした食事にも向いているし、価格設定も高いですから簡単な接待にも向いていると使い勝手が非常によい店です。
この店で一番目立つ料理は、他の洋食店には珍しい「シーザーサラダ」。スタッフが目の前で大きなボウルを使用してマヨネーズから造りあげるパフォーマンスに、私は思わず目を奪われましたが、同行したJ.C.オカザワは、調理している女性スタッフに目が釘付けになっておりました。最近はライター仕事の依頼が少ないと聞いていたけど、異性にも飢えているとは知らなかった。このサラダ、頼むとかなり目立つので他の客の視線を熱く感じ、自己顕示欲強い人には特にお勧めです。
料理はいずれも平均点以上のものばかり。資生堂だけあって安定した洋食料理が楽しめます。
蟹グラタンは純粋なペシャメルソース(ホワイトソース)ではなく、トマト味。掟破りの感がありますが、たまには変化球として面白い。クラブ クロケット(蟹コロッケ)はクリーミーなタイプではないですが、蟹肉もたっぷりで贅沢なコロッケです。ビーフシチューはちょっとツメが緩いと感じましたが、ハヤシライスやハンバーグも他の洋食店と比較すると勝るとも劣らないレベルであると思います。ただ、私の連れの女性を気に入ったオカザワが、彼女の歓心を買おうと頼んだビーフカツレツ、8000円前後とかなり高額なので見栄を張りたい方には注意が必要です。
ワインも値付けが安くはなく、酒飲みだと客単価は数ある洋食店の中で最高になる可能性があります。経費で落とせる同伴はさておき、デートや家族連れの場合は、メニュー選びに気をつけてください。
客入り不振からコンセプト変更か、レヴェランス
山本益博氏が「おとなの週末」で絶賛していた天現寺近くの小さなフレンチ。オーナーソムリエの店で、雇われシェフの才能の原石がきらりと光りフランス料理の理解者は応援しなくてはならないとまで書いていました。
マスヒロウオッチャーである友里、そこまで褒めるなら検証せねばと訪問したのは夏の盛り。客入りはマスヒロさんの時と同じく、我々一組の寂しい夏の夜でありました。
客入り不振の理由は簡単。料理が美味い、不味いという前にまったく選択肢がないのですから話になりません。お任せコースでしかも高い。皿数を減らした1万500円コースもありますが、多皿の1万3650円が主体。満腹感を出すためデザートが2皿ついているけど、
コーヒー(チーズも当然)は別料金。これでは実質1万5000円と同じではないか。しかもその日の肉料理は「仔鳩」でした。食材や調理法が選べないだけではなく、好き嫌いが分かれる偏った食材しかないのでは客の楽しみは半減します。現在は「セミ・プリフィクス」として前菜、魚、肉と2種の食材から選べ、価格も1万3800円(食後のコーヒーが含まれるようになった)の下は8600円となっております。客入り不振で営業方針を変更したようですが、こんな事は最初からわかっているはず。オープンから無駄な9ヶ月だったと考えます。
当時の料理は当たり外れが多かった。古代米のフリットはビールのツマミなら良いが、アミューズとしては疑問。身を開かずに焼いたホッキ貝は火が入りすぎて表面が固い。仔鳩も薫香をつけすぎて食材自体の風味を消していました。反面、鮑のサラダは肝とシェリーのソースが面白く、フォアグラと鰻の炭火焼きはこの日一番の皿でありました。
ネットでは「さすがオーナーソムリエ」と提供されるワインの絶賛書き込みが目立ちますが、リストのワインはこの規模なら決して安くはない値付けでラインナップも少ない。例えばブルゴーニュの赤。コート・ド・ニュイのワインが21種なのにコート・ド・ボーヌはわずか5種。20万円を超えるDRCを置くくらいなら、CPがよいボーヌのワインをもっと増やすべきでしょう。
料理のネーミングや調理法に凝る前に、才能があるならズバッと直球調理で勝負して貰いたいと私は考えます。