こんな鰻を海外で披露するな、野田岩 パリ店

海外でわざわざ和食店を訪問することは滅多にないのですが、今秋のパリ訪問で図らずも和食店2軒に行ってしまいました。
イタリアはピエモンテ州でバターやクリームたっぷりの料理を昼晩食べ続けて胃が弱ったのでしょうか、パリへ到着して無性に和風味、特に「鰻」が食べたくなったのです。そこで真っ先に思いついたのが「天然偽装」と私が昔からやり玉に挙げている「五代目 野田岩」。パリに直営店があることを思い出し昼に行ってしまいました。

サントノーレ通りとオペラ座通りが交差する近くにあるビル1階。店内は正に「鰻の寝床」のように細長かった。店内には日本人以外に外人客もいて8割方埋まっていましたが、不景気で客が減ったのか蒲焼き定食を除く定食物(鰻丼や鰻重)が2ユーロ引きのセールをやっています。ただし鰻の重量(130g?410g)で16?45ユーロと高く前菜や茶碗蒸しがつくコースは55ユーロ以上と破格。でもランチコースは21ユーロからありました。

まずはビール(5ユーロ)を飲みながら単品メニューの煮凝り(8ユーロ)でスタート。ねっとりし過ぎて生臭いだけで美味くない。出てくるのに15分はかかった肝焼き(9ユーロ)はまるで茹でたみたいな代物です。日本ではとてもお金を取れるレベルではない。これはたまらんとツマミ類を諦めてすぐさま「蒲焼き定食」(36ユーロ)をオーダーしました。

千寿(1合12ユーロ)をゆっくり飲みながら残った不味いツマミを完食しようと思っていたら、なんとオーダーから10分もかからず蒲焼きが出てくるではありませんか。パリでもその場で捌いて始めろといった野暮は言いませんが、焼き置きを二度焼しているどころか、焼かずに温めただけではないか思うほど皿出しが早いのです。恐る恐る食べようと箸でつまむとすぐ崩れてしまうほど柔らかく、まるで鰻の煮物。蒸し過ぎとか言うレベルではなく、冷凍パックをチンして出したような食感でありました。

肝焼、蒲焼きと不思議な食感。考えてみれば、パリのど真ん中の小さなビルの厨房で、炭火を使った焼き場の設備が設営出来るものなのか。この鰻を実際に試食して平気な顔して提供し続けているとしたら、野田岩五代目の「性格」は友里の想定以上の悪さであります。

大阪で星付けから外すには無理がある、ラ・ベカス

大阪のフレンチで3つ星がつくならまずこの店だと発売前に確認に行ってきたのですが、見事ミシュラン未掲載。渋谷シェフは調査員が来た形跡がないと言っていましたから、「プレリスト」に最初から載っていなかったのかもしれません。
移転してかなり大箱になりました。レセプションのほかウェーティングルームに個室も完備、ホールはゆとりあるテーブル配置にコンテンポラリーで豪華な内装で、東京でも充分「グランメゾン」として通用するでしょう。

アラカルトはいかにもオマケといった位置づけで選択肢なし。肉が仔羊、仔鳩にフォアグラと大王地鶏の4種しかないから3種のコース(1万2600円、1万5750円、1万8900円)に追い込まれることになります。我々は真ん中のコースを頼みました。

まずはアミューズが3皿。
トウモロコシのスープと鮎のリエットは鮎の塩が強く酒なしでは厳しい一品。サンマ(ポテトの突き合わせ)とムール貝(オマールのコライユソース)はスターターとしてはまずまずでした。
前菜はビーツのソースの毛蟹とサーモン。続く手長海老も悪くはなかった。
この時期意外なタケノコは天草産だとか。卵黄とアンチョビのソースは最近の軽めの味付けのフレンチと違ってワインが進みます。魚は鯛、肉は和牛、そしてチーズといずれも印象に残るほど傑出した皿に出会いませんでしたが、平均以上(東京でも)のフレンチであると考えます。

ワインがすすむ料理でありますが、肝心のワインの値付けが高いのが難点。一番安いノンヴィンシャンパーニュが1万500円。何の変哲もないローランペリエが1万2600円でしたから驚きです。
スティルの白もブルゴーニュの村名が1万円を突破し、赤も村名は1万5000円前後で、ワインリストは2万円以上の高額物が主体でありました。
DRCのワインだけで1頁も割くくらいなら、もっとCPの良い造り手のワインを載せるべきと考えます。ワインに合う(ワインがないとキツイ)料理を提供するなら、ワインはそこそこの値付けにすべきでしょう。たいしたワインを飲みませんでしたが、本数が多かったからか支払いは一人当たり4万円近く。この不景気でこの価格設定では、金曜の夜で6割の客入りは仕方ないと考えます。

江戸風寿司屋に転向したのか、祇園 さヽ木

京料理の有名店での修業歴がないと漏れ聞く佐々木氏のパフォーマンスが功を奏したのか、予約が取れない超人気の2つ星和食店。友里もやっとのことで建仁寺近くに移転後初めて訪問できました。
この店の特徴は、客が全員揃っての「一斉スタート」。17席前後のカウンターに18時30分に揃った客前で、料理が次々と端から出されていく様は圧巻でありますが、冷静に見れば単なる「ブロイラー方式」ではないか。有り難く入店する客が後を絶たないのが私には不思議であります。今回の初秋の料理は以下の通りでありました。

車海老やホタテ、柿の胡麻ソースの先付けはまったく凡庸。新イクラの小丼は山芋のタタキが乗っていましたが、甘すぎる酢飯にイクラがかなり濃い味調理で疑問。お椀はこの時期お約束の鱧松に冬瓜。甘めで濃い出汁は観光客向けで奥深いものではありません。
造りは煎り酒でいただく昆布〆の鯛。他にヤリイカや天然ハマチもありました。煎り酒は江戸前の調味料ではないかと突っ込む前に、〆た白身にこの調味料が合うとは思えなかった。続いて出たのが大トロの握り。刷毛がそえられて客が自分で醤油を塗るパフォーマンスであります。握りは一品だけかと思ったのですが、まだまだ続きます。金太郎鰯の握りは〆過ぎの鰯と酢飯がマッチせずこれまたがっかり。続いて紫ウニの握りまででてきたのにも驚きました。

子持ち鮎の揚げ物のあとまた出てきた江戸風が房州産の「蒸し鮑」。佐々木氏が3時間蒸したと説明しながら、壺のようなものから丸ごと取り出して客に切り分けて出すパフォーマンスなのですが、全然旨みを感じなかった。添えられた肝も変に酸っぱいだけでした。
コライユ入りの胡麻ソースをまとった伊勢エビも中途半端な出来でイマイチ。締めは単なる白ご飯でありまして、これで支払いが2万円台後半はあまりにCP悪すぎとしか言いようがありません。

伝統的な京料理を極めたてから考えたとは思えない「佐々木劇場」の創作料理の数々。18時30分一斉スタートの理由は、食べ終わった客が新幹線で東京へ帰れるからだと漏れ聞きました。20時過ぎにはそそくさと店を後にする客を見ると、通いつめる客はほとんど府外の人ではないでしょうか。話のタネに1回の訪問で充分と言えるでしょう。