シェフ交替を検討するべきではないか、ロオジエ

現在の地に移転して10周年の昨年11月はじめにメナール&ボリーの新旧シェフによるコラボイヴェントが3日間開かれました。夜は4万円、昼でも2万円のコース1本とこの不況時には考えられない強気の値付けでありましたが、ボリー信奉の常連客が殺到したのかすぐに満席になったようです。リーマンショックの影響だけではなく、就任して4年のメナール料理が飽きられたのか常連客から疑問の声が聞こえ、予約も取りやすくなった「ロオジエ」。何とか満席を保っているのは、料理の魅力ではなく、ワインサービスを中心としたスタッフ全員のパフォーマンスの結果と考えます。

陰りがでたとはいえ、この「人気」はひとえに前シェフ、ジャック・ボリーさんの功績が一番。数年の充電期間が良かったのか移転前とはまったく別のレストランにしてしまいました。
移転時の有名なエピソードがあります。計画では現在のような配置ではなかった。ボリー氏は「グランメゾンは入り口が1階でなければならない」と資生堂に直訴して設計を変更させたとか。パリはもとよりニューヨークでさえ高額レストランはホテル内を含めてほとんど1階に位置しています。煽てられた豚のように高層階へ上がりたがるのは日本だけ。その「ベージュ アラン・デュカス 東京」はウリの夜景が銀座の電飾看板だけに加え、ファミレス並みの大箱(100名前後)が不評でオープン当初から集客に苦労しています。入り口を1階に配し、キャパも40名に抑えたボリー氏はデュカス氏より経営センスがありました。

現シェフ、メナール氏の料理は良く言えば、流行である異なる食材の組み合わせと盛りつけの妙、はっきり言えば見た目だけ。クラシック料理に見られるソースなどの深い味わいを感じません。料理数も少なくリピーターは直ぐ飽きてしまいます。
しかし今回の10周年イヴェント、メナール氏に遠慮したのかボリー氏担当の料理もメナール料理と大差ない調理であったのが残念でありました。今はシェフソムリエ、中本聡文氏を信奉する常連客もあって夜も満席ですが、レストランは料理で客を釣らなければなりません。グランメゾンは適度な間隔でシェフを使い回していかなければならない商売。そろそろ次のシェフ選定の準備に入る時期だと私は考えます。

立地の妙による過大評価だった、青山指月

奥湯河原にあった温泉旅館「指月」を初めて訪問したのは15年前。雑誌には、4部屋で京都から招いた料理長が造る京料理がウリとありました。
内風呂付きの部屋は1つしかないなど家族経営のような旅館でしたが、京料理としてもレベルが高いと感じ、その後も時折訪問していました。奥湯河原に「指月」ありと言っては大袈裟かもしれませんが、お忍びとしても使えるからか、食べ仲間にも評判だったのです。ところが変な兆候が現れたのはこの4?5年前頃か。道向こうに全部屋露天風呂を完備した別館を建設、洋室は一人7万円前後と旧館の倍の値付けの設定をしてきたのです。道を挟んだこの2館を右往左往する料理長を見て、私は不安になりました。
そんな「指月」が突然旅館を辞めて、何を勘違いしたのか南青山の和食店として移転してきたのがこの9月下旬であります。
奥湯河原時代の最後には、お歳のせいか右往左往のせいか、料理長の造る料理にキレがなくなってきたと感じていた友里がすぐさま訪問したのはいうまでもありません。

カウンター5席と個室が1つの小さな店。しかし厨房は奥で料理長はおろか料理人の姿は最後まで見られませんでした。カウンターにする意味がないではないか。
カード不可、2万5000円1本のその夜のお任せコースを食して、私は日頃唱えている「立地の妙による過大評価」がこの店の奥湯河原時代にも当てはまっていたと悟ったのです。
新イクラの醤油漬け、鯛寿司、わずか4ヶの焼銀杏の後に出たのはシラサエビのかき揚げ。高額京料理で出す食材なのか。鱧松の土瓶蒸しも香りはもとより出汁の旨みも乏しかった。明石の鯛の造り、数は多かったけど質は普通。その後、鯛の焼き物、鯛飯と同じ食材が3回被るのは、店側の都合である「食材の有効利用」以外の何物でもありません。廉価な店の「鯛尽くしコース」と一緒にするな。その他の料理も凡庸な炊き合わせと海老芋だけで支払いが一人3万数千円。支払い額は「京味」と大差ないのに、質、皿数、調理とまったく食後感が異なるのはいかがなものか。奥湯河原時代の常連である友里読者も落胆したとメールで知らせてきた「指月」、オープン直後の夜なのに客は我々だけだったことが、すべてを物語っていると言って良いでしょう。

予想通り家庭料理の延長線上の店だった、もめん

ミシュランの度重なる説得にも首を縦に振らず掲載拒否を貫いた2つ星和食店。「瓢亭」のように最終的に尻尾を振って取材協力していたら、ミシュランは3つ星を献上していたはずと言われている、3ヵ月先まで予約一杯の人気店であります。
居酒屋地帯ですが外観・内装とも小綺麗にまとめており意外感を造りだしています。こんなところに高額和食(大阪として)があるのかと客を「立地の妙」のトラップに嵌めさせ、過大評価に誘導する高度な戦術です。
この店の料理(1万5000円コースのみ)を一言で評するならば「家庭料理の延長線上」。無理すれば素人(一般家庭)でも入手が可能と思われる質の食材を使った、素人よりやや上のレベルの調理で供する料理という意味であります。

月毎に替わる料理、まずは揚げ物からスタートです。銀杏は火入れが緩くアスパラは太いけど焦げすぎ。衣の味が強すぎるし、バチコをわざわざ揚げる必要があるのか。無造作に皿に酢飯を固めその上にウニを乗せた寿司もどきも、酢飯が甘過ぎでウニの質も普通レベルでありました。
お椀は海老真丈と言われましたが、食べてビックリ。大きい椀タネ(真丈)の中に海老がそのまま入っているではありませんか。海老だと直ぐわかってもらえる為との説明でしたが、それは「丸ごとでないと海老を使っているとわからない常連客が多い」という意味なのか。出汁は予想通りインパクトを重視する単純な味わい。京都の高額店で通用するとは思えません。造りの明石産ヒラメは脂臭く旨みも乏しい。主人の包丁仕事もイマイチで切り身も美しくない。特に縁側は客に出すレベルではなかったと考えます。
煮物の源助大根。得意の濃い味出汁がしみ込んで本日一番の料理でありました。白グジの焼き物もどうってことなく、量だけは多かった蒸し寿司とデザートの柿とラフランスでお腹だけは一杯になりました。

ワインなど酒類の持ち込みは無料で、支払いは1万5000円ぴったり。一般家庭でこの料理が出たら美味しいと私も絶賛するでしょうが、この支払いでは食材や調理技術に満足できません。主人が取材拒否をしなかったらミシュランは3つ星を献上していたかもしれませんから、友里的には主人の判断だけは素晴らしかったと評価します。