なんちゃってイタリアンの典型例、ベデュータ

セントレジスホテル(大阪)のメインダイニングを関西の食べ仲間と初めて訪問したのは今年のはじめ。なぜ東京から、わざわざイタリアン不毛(フレンチも不毛)といわれる大阪でこの店を選んだのかと言いますと、この店のシェフの父親が有名料理店の主人であるからであります。

京都の予約困難と言われる和食「草喰 なかひがし」、店の近辺でとった草やメザシ、竈ご飯を出す高いだけの「民宿料理」と友里は評しておりますが、その主人の息子さんがイタリアンのシェフになったという意外性。民宿料理のオヤジさんと違って息子の造るイタリアンはどんなものなのか。
結論から書かせていただきますと、我々の期待を裏切ることない最低レベルの料理の連続であったのです。

昼でしたが夜の1万2000円コースを頼んだからか、着席したら中東シェフが挨拶にやってきました。その外観を見て私は椅子から転げ落ちそうになったのです。御年30前?童顔なので二十歳そこそこにしか見えません。
イタリアでの修業経験はあるそうですが、前店も京都の無名店だったらしく見た目は経験不足そのもの。私はこの瞬間に「こりゃダメだ」と確信したのであります。

まずは伊勢エビのカルパッチョ。乗せられた数の子のおかげで、合わせてもらった白ワイン(シャルドネ)を飲んだら生臭さだけが口中に広がってしまった。食材(数の子)の選択ミスであります。
若狭の的鯛もイマイチで、丹波の鹿のタリオリーニ、胡桃が隠し味と言われましたが、ラグーのツメが緩く胡桃の味が強すぎる。ミスジ肉と根菜のボリートミストも臭みがありすぎ。
関西風イタリアンと言ってしまえばそれまでですが、イタリア修業の割には郷土色どころか本場の雰囲気の欠片も感じない不味い創作料理の連続でありました。

ワインも値付けが高いだけではなく品揃えもプアの一言。ビールが1100円、ヴーヴ・クリコのノンヴィンシャンパンが1万5000円には呆れてしまいます。小売りでも5000円しない代物だからです。

数ヶ月前、確認で昼に再訪したのですが、鱧と地野菜はよくまあこんな質の悪い鱧を仕入れてきたと感心するレベル。ウニのスパゲッティも明礬強すぎと、初訪問の印象を更に強化してくれる結果となりました。
セントレジスホテルの宿泊は良いと思いますが、この店はオススメできません。

あの店は今・・・ラビラント

昔は活気があって友里もよく行った店でもあったのですが、流れが変わってしまったのはなぜなのか。オープン当初は四の橋商店街という立地の妙に加えて、ボリュームある多種のアラカルト料理をリーズナブルな価格で提供するフレンチで結構な人気でありました。

当時は毎月主催していたワイン会開催店の1つとして、ワインの持ち込みをお願いしていたのですが、転機はあの丸ビルへの支店オープンの時だったかも。シェフが毎日詰めたという丸ビル支店、友里は訪問する機会がなかったですが、閑古鳥ウオッチングを何回も繰り返した結論は、オープン直後を除いて集客は苦しかったのではないか。
支店の苦戦が本店にも伝染したのか、この6月発売の友里初のオススメ本「絶品レストラン」(鉄人社)での掲載確認のため久々に訪問して、実に寂しい店内(わずか5組)にビックリしたのであります。
低下したのは集客力だけではありません。ホールには洋食屋にいるオッサンのようなソムリエ兼メートルと厨房は男性2名と女性だけ。客だけではなくスタッフも激減していたのです。

まずは生牡蠣(@470円)をアミューズとしてオーダー。まずまずの質で、先日食べた味のわからないJ.C.オカザワが絶賛する有楽町の「レバンテ」より美味しい。リエットもコクがありまずまずでありました。
ところがここからが問題。野菜の煮込み(1260円)や野菜のテリーヌ(1743円)はまったくの凡庸。特に煮込みはバターが強すぎてバランスの悪い調理でありました。四万十川のツガニのスープ(1050円)はこの店のウリですがしょっぱいだけ。魚の裏ごしスープ(840円)もベースはツガニと同じのようでイマイチでありました。

牛テールの煮込み(2625円)やブレス産ひな鳥のコンフィ(2835円)はボリュームがありましたが、塩が強すぎるというか、質が良くないからか塩負けしているだけ。
だいたいこのひな鳥、丸1羽なんて一人で食べきれません。量も大事だけど肝心な調理や質をもっと重視しろと私は言いたい。
最後のチーズも青カビ、ウオッシュ、ハードと保管が悪いのかすべてボロボロ。とうてい満足できるレベルではありませんでした。ワインの値付けは安いですが塩味強いだけの調理では、今後も閑古鳥を追い出すことは難しいと考えます。

あの店は今・・・幸村

オープン当初から友里と色々因縁があった「幸村」。詳しくはデビュー作「シェフ、板長を斬る 悪口雑言集」(グラフ社)をお読みいただきたいのですが、斎藤佑樹選手並に持ってる友里、思わぬところでまた幸村純氏に遭遇してしまったのです。

あれは7月半ばであったでしょうか。新橋の有名京料理店「京味」のカウンターに友里が座っていたと思ってください。
遅れて入店してきた男性二人連れ、一人はどこかで見たことある人だと思っていたのですが、スポンサーらしき人が主人の西さんに向かって「大将、こちらが幸村さんです」との紹介でやっとわかりました。麻布十番の3つ星和食「幸村」の主人が平服で座っていたのです。3つ星店の主人が無星店の主人(西氏)に頭を下げる様はなかなか見られるものではありませんでした。
知らぬ仲ではないので帰り際にちょっと挨拶したのですが、帰宅して久々に再訪してみたいとの気持ちが高まり、1ヶ月後に総勢6名で幸村のカウンターに座ることになりました。3つ星店ではありますが、結構簡単に予約が入れられたのです。

まずは蒸しウニの伊勢エビジュレ掛け。私には伊勢エビをわざわざ使用する必然性を感じなかった。定番の唐墨蕎麦は驚くほどではないですが悪くはない。
スッポンのスープはマツタケ(中国産?)入りでしたが、エンペラはじめスッポンがかなり入っていて予想していたより薄味で○。造りはこの時期鱧だと思っていたのですが予想外の鰺。悪くないけど鱧が食べたかった。「今更鱧なんて」という客が多いとのことですが、今夏も食べ続けている友里、鱧に飽きることはありません。

最近の京料理屋ではよく出る鯖寿司も○でしたが、鮎の塩焼きは付け焼きで私の嗜好には合わなかった。同じく付け焼きの焼き鱧もちょっと期待はずれか。続くはこれまた定番の小鉢料理、蓴菜やバチコ、トウモロコシのかき揚げなどでお酒が進んでしまいました。

個人的には好きではない鮑のバター焼きと賀茂茄子揚げの後、〆の新生姜ご飯と穴子ご飯でお腹は一杯となりました。
6名でシャンパン1本のほかビールに冷酒を結構飲んでの支払いが一人当たり2万円台後半。オミヤのおにぎりが人数分なかったのがちょっと不満でしたが、予想より1万円ほど安く上がった3つ星和食店のまずまずのディナーでありました。