すべてが中途半端なビストロ、ラ・トルチュ

パリと東京で星を持つ吉野建氏(タテル・ヨシノ)の東京では芝パーク、汐留、銀座のゴーストビルに続いて4軒目のフレンチであります。といっても実はこの店、吉野氏がオーナーといえる唯一の店だとか。他の3店では吉野氏は単なる雇われシェフだそうです。

この店のウリは星付きシェフのビストロ。星付き店のクオリティとビストロのディープさを併せ持った料理と思いがちですが、一回の訪問で友里は中途半端な料理と判断させていただきました。

まずは紫色のファザードにビックリ。まるで花屋や弁当屋の雰囲気ではありませんか。
木むき出しのテーブルや紙ナプキンはまだ良いとして、ナイフが安定しないカトラリースタンドなど什器備品がかなり質素にまとめられております。コースもありますがビストロなので、我々はアラカルトで頼みました。

最初のグジェールは並レベル。ウリの缶詰に入ったアミューズは唐墨と大根のカナッペでしたが、これまた何の変哲もなく、この段階で嫌な予感がしたのです。

しかし直後に出たパテ・アンクルートは味がしっかりしておりまずまず。さすが世界のタテルヨシノ自前のビストロかと見直しかけたのですが、後に続いた料理がすべてズッコケでありました。

トマトファルシはわざわざ頼むレベルではない普通味。
スペシャリテのサーモンのミキュイ、オイルを塗って火入れしているようですが、表面が生焼けで生臭かった。
テッド・ド・コションはストウブ鍋で蒸し焼きにしたタイプ。豚の脳、タン、頬肉などが入っておりましたが、味のトーンが単調で使用している香草とマッチしていない。
評判のカスレも鴨コンフィやバラ肉など肉類は豊富でしたが、肝心の味がこれまた単調で味のトーンが同じ。コンフィは油臭さが目立ちました。

ネットでは皿出しが異常に遅いとの批判が多かったのですが(味は良い)、我々はこれらの料理を1時間半で食べ終えてしまった。7割は客が入っていましたから、調理方法を大きく変えたのではないか。皿出しの遅さをカバーするため、業務用半完成品に手を出したのではないかと見まがう食後感であったのです。

はっきり言ってまったく美味しくないヨシノのビストロ料理。スタッフが勧めてくれた赤ワインだけが救いでありましたが、友里の再訪はないでしょう。

雰囲気限定で料理に期待してはダメ、ひろや

鴨川沿いにあるビアガーデンのような床(ゆか)には興味がないのですが、貴船など山奥にある川床(かわどこ)には前から行ってみたいと思っていた友里。旧盆で関西へ行く途中、貴船で一番の老舗という「ひろや」を初めて訪問してきました。
どうせ行くならと食事込みの宿泊にしたのですが、その選択は大きな後悔となったのです。

食事込みで一人4万円近く、最高値のコースを頼んだので川側の部屋でしたが、山側で風呂もない部屋もあるようです。
設備は古く、部屋付きの風呂やトイレは無茶苦茶狭い。岩風呂という自称大浴場も、洗い場は3箇所でシャワーホースは1つしかなかった。
しかし問題はこの狭さ、設備のなさだけではありません。お湯が21時から朝の7時まで止まってしまって、夜9時以降風呂には入れないのです。昔の学生寮ではないのですから、こんな不便を客に強いて良いのかと憤慨しました。

夕食は18時頃から。甘い桃ワインの次はちょっと生臭かった黄身酢の蒸し鮑。
何の変哲もないホタテすり流しやタコの子、鯛寿司などの先付けが続き、鯨のコロ(皮下の脂肪)はしつこすぎ。細工仕立ての氷皿は立派でしたが、肝心の鮪や鯛の刺身はイマイチでした。

この時期楽しみだった鮎の塩焼きはどう味わっても養殖と思える風味のなさ。早松と言われたマツタケの炊き合わせも甘過ぎで、鱧の落としは梅肉に山葵がついていない。勿論鱧の質よくなかった。白飯も美味しくなく、最後にでたメロンがこの日一番でありました。

すぐ足下に流れる川の音を聞きながらの食事、朝夕は本当に涼しく雰囲気は良いのですが、いかんせん食事が京都市内の観光客専門店レベル。
貴船の川床へくる人自体が観光客しかいないようですから当たり前なのですが、真の京料理とは月とスッポンの違いでありました。

仲居さんはじめスタッフは親切で感じが良かったのですが、朝食中(7時から)に布団だけではなく浴衣やタオルを片付けられ、食後に風呂へ行けなかった。給湯制限といいこのオペレーションの悪さが致命的であります。

河床は昼から夜までの通し営業ですから、どうしても川床を経験したいならタクシーを時間チャーターして日帰りで十分。翌日訪問した祇園の京料理屋がいつもに増して美味しく感じた友里征耶の川床初体験でありました。

20点満点の味ではない創作お好み焼き、USHIO

アラ還オヤジから奢られ大好きのOLまで覆面素人調査員を揃えた週刊文春の連載「斬り捨て御免! 食味探検隊」。毎週2店、持ち回りで居酒屋からグランメゾンまで100点満点で評価するコラムであります。
料理、サービス、雰囲気、CP、特徴の5項目を各20点として計100点満点としていまして、昔はそのアラ還隊員・古河喜八郎氏(ペンネーム)が青山の高額フレンチ「ナリサワ」を60点以下とぶった斬るほど緊張感もあり友里も楽しみにしていました。

ところが自己陶酔というかナルシストを隠そうともしない外車ディーラーの壮年氏(ペンネーメ櫻田慶郎氏)が加入してからは単なる店紹介コーナーとなって評価も80点前後ばかりと面白味に欠けるものばかり。
そんな中、6月にそのナルちゃん外車ディーラーが料理で20点満点をつけたのが、この浜松から六本木へ出てきた創作お好み焼「USHIO」であります。お好み焼きの味わいが並み居る名店・人気店のフレンチを抑えてなぜ20点満点なのか疑問に思った友里が、即訪問したのは言うまでもありません。

雑居ビルの2階、味が20点満点の店の割に当夜の客入りは7割程度。油を一切使わず、玉子に拘ったと説明する愛想の良いマダムのすすめで我々は次々と料理を制覇していったのであります。

3種のお通しは単なる居酒屋レベル。浜松産の釜揚げシラス(800円)は普通味。
「コロンブス茶卵」を使うだし巻き(780円)も甘いだけ。山芋梅肉和えもどうってことなく、牛すじ煮込み(960円)も甘過ぎ。

ここで友里は思い出したのです。浜松の地は、濃い味の店しかやっていけなかったと。
外車ディーラーもただの「大味好き」だと気づいた時は、田舎風(980円)、イタリアン(1380円)、アメリカン(1290円)の創作お好み焼を頼んでしまった後でありました。

確かに油使わずヘルシーさを狙っているのでしょうが、沢庵入りの田舎風はさておき、チーズやウインナー、トマトが入ったイタリアン、ハンバーグや生玉子が入るアメリカンと、この具と濃厚味ならヘルシーとはかけ離れているのではないか。

ナルちゃん・櫻田慶郎氏は再訪してこれら変わり種お好み焼きを絶賛していましたが、この味付けに慣れてしまったら、京料理が楽しめなくなると判断し、再訪どころか近寄ることもやめました。