大阪割烹は旨味の重ね合わせが特徴か、北新地 弧柳

京都在住で「生粋の京都人」と自称する、京都限定の有名人・柏井壽氏をご存じでしょうか。友里と同じく本業あっての副業ライターでして、歯科医院を開業する傍ら飲食店含めた京都などの情報を発信しているゼミプロであります。

その柏井さんが、同じく京都在住をウリにする素人ブログのコメント欄を介して友里に挑んできたのが「薄味論議」。
端から関東人は濃い味好きで「京都の薄味料理を論ずる資格なし」といった上から目線の突っ込みに友里の闘争心に火がつき、すかさず柏井氏の著書をチェックしたのは言うまでもありません。その結論は

(自称生粋の)京都人の方が濃い味好きではないか

地方グルメ旅の本などでは味濃いご当地料理(例えばハントンライス:ケチャップで味付けしたバターライスの上に半熟の薄焼き卵と白身魚のフライを乗せタルタルソースをかけたもの)やカレーラーメンなどがバンバン紹介されており、京都でもフォアグラ奈良漬巻が口福なフレンチとカミングアウト。
こんなキワモノ料理、真の濃い味好きでなければ食べられたものではありません。
友里はキッパリと言いたい。

京都人含めた関西人の方が濃い味好きではないか

その関西人が濃い味好きだと証明する典型的な大阪和食店が、このミシュラン3つ星の「弧柳」であります。
店主は大阪割烹では有名な「喜川」の出身。友里は昼の訪問で、本家の味醂投入量の多さに驚いたのですが、弟子の店の味の濃さ(よく言えば旨みの盛り込み過ぎ)にも驚いたのであります。

まずは先付けが泉州の渡り蟹。湯葉を下に敷いていましたが蟹子の塩辛がインパクト強くビールを追加せざるを得なかった。

泉州の渡り蟹

大徳寺麩には甘み強い蜜芋にホシコのだめ押し。

ウリの造りは「魚庭(浪速のシャレ?)」と称し何種もの刺身がてんこ盛りでしたが、鮪に卵黄をあわせる試みは人生で初めて。アオリイカには鯛の子醤油と、旨みを強調した調味料を合わせる手法にも驚いたのであります。

魚庭(なにわ?)

お椀(鍋?)のタネは月の輪熊というのもサプライズ。京料理のお椀では遭遇したことがない食材でありました。
大好きな海老芋には濃すぎに感じる蕗味噌、ノレソレには柚子かき氷と、取り合わせの妙も友里の想定を超えてしまった。

海老芋など

鰆も中に唐墨が挟まっており、メインの蝦夷鹿(和食では珍しいかも)にはネギ酒盗、〆の白飯には鯛味噌と、旨みの濃い食材(調味料)が必ず添えてあるのがこの店の特徴であったのです。

鰆のカラスミ挟み焼き

 

陜ヲ螟キ鮖ソ

よく「フレンチは足し算、和食は引き算の調理」と言われますが、大阪3つ星和食は完璧な「足し算調理」。人の嗜好はそれぞれでありまして、確かに一品毎(一食材毎)なら旨みがあって美味しい料理かもしれません。

また薄味好きと濃い味好きは優劣があるわけではなく、あくまで個人の嗜好の範囲内。
大阪人(京都人も)、己の嗜好に正直に、濃い味好きを隠す必要はないと友里は考えます。

 

何度行っても博多鮨に満足、鮨安吉

友里は関西に生息する自称江戸前鮨を以前から否定しております。
東京に「ほんまもんの京料理」がほとんど存在していないように、関西に江戸前のまともな鮨なんかあるはずがないではありませんか。

しかも関西の自称江戸前鮨店の主人達、お江戸どころか他店(勿論江戸前鮨)でも修業経験がないことを堂々と自慢している人が多いのであります。

自己流鮨職人としては全国に60人以上の弟子を持っていると言われる新津武昭氏(昔の銀座「きよ田」の雇われ主人)が有名ですが、それはバブル時期の味わからない老齢財界人が支えたおかげ。
今のお江戸では、修業のなさを訴えている店は、評価や注目度が埋没気味な「鮨なかむら」や「さわ田」くらいではないでしょうか。

修業歴がなくてもまともな江戸前鮨を出していれば問題はないのですが、これらの店の過半が、経験不足(お江戸の鮨を経験していない)関西人につけ込んでいるだけの「なんちゃって江戸前鮨」。
極端に例えれば、パリやマンハッタンで日本に行ったことがないどころか、和食の修行をしたことがないフランス人やアメリカ人が造る和食にまともなものがあるはずがないのと同じ理屈であります。

そんな修行歴が不透明な店の中で、友里がまともな鮨屋だと感じて来博の度に訪問を試みているのがこの「鮨安吉」であります。

鮨 安吉

 

一人客は入店できなくなったとの誤情報(実際は大丈夫らしい)で芦屋から食べ仲間を呼んで訪問したのは1月の終わりでありました。

まずは鱈の白子(茹で)でスタート。
続く鰤のヅケ、最近はお江戸の鮨屋でも見られるタネですが、こちらの方に軍配。目の前で藁燻した〆鯖は普通でしたが、続く鯖の棒寿司は美味しかった。
穴子の焼き物(茹でずに生からの半焼き)には疑問でありましたが、カワハギ肝和え、ノレソレ、ナマコとまずまず。アン肝や牡蠣、唐墨(あっさり味)とツマミのほとんどに満足したのであります。

握りは2種の酢飯を使用。中トロなどには赤酢のみの酢飯を会わせるなどその拘りが友里には理解できなかったけど、鯛の昆布〆、煮ハマ、ヅケ、玉子など一見江戸前に見える握り(産地は九州が主体)はいずれもお江戸の高額鮨屋と比較しても上レベルと感心したのであります。

ビールにシャンパン、それに日本酒とかなり飲んでの支払いが1名当たり2万円チョイ。ツマミと握りだけだと1万5000円くらいとかなりのお値打ち価格設定にあらためて感心してしまった。

関西のなんちゃって江戸前鮨屋とは雲泥の差の食後感。
「関西のなんちゃって鮨職人は博多で修業をやり直せ」、この提言で〆とさせていただきます。

ワインの値付けが料理をカバー、ル ヌガ

昨年末、銀座で男4人の会食場所(接待)で初めて訪問したビストロ。
和食は高くつくので避けたいが(男相手で予算をかけたくない)、クリスマス時期なのでフレンチやイタリアンも出来るなら避けたい。

迷っていた友里に食べ仲間が教えてくれたのが、シノワというワインバー系列の安普請に見えるこのビストロでありました。この普請ならカップルは少ないだろうと訪問したのですが、不倫を含めた熟年カップルが結構いたのには驚きました。

銀座にしては値付けの安いワインがこの店の特徴か。
ノンヴィンシャンパンが8000円前後、ブルゴーニュやボルドーも、そこそこの物が9000円前後から揃っておりました。

反面料理の値付けは普通のビストロよりチョイ高いかも。
アミューズと称する小皿料理が1000円以下でしたが、前菜は1000円台半ば、メインに至ってはほとんどが2500円以上であります。

料理を一言でいうと「わかりやすいお味」。
手をかけた奥深い味わいというより、単純にしっかり味を濃くした調理。ワインバー系列ですから、料理に多くを望むのは酷でありまして、ワインの値付けを考えると充分許容範囲内であると考えます。

人参のラペ(750円)やリエット(980円)、ブランダード(850円)は普通味。
ラタトゥユ(860円)はかなり味が濃かった。砂肝のコンフィ(880円)はちょっとくどくてオススメできないかも。

ニース風サラダ(1580円)は量も具もたっぷりで○。テッド ド フロマージュ(1470円)などディープなビストロ料理も揃っているので、ビストロ初心者には経験を積むことが出来るでしょう。

この日頼んだメインはシュークルート(ハーフ2300円)。価格の割に量は少なめで、本場アルザス訪問から帰国したばかりの友里には味を含めてちょっと物足りなかった。

かなりワインを飲んだので一人当たり1万5000円前後となりましたが、更なる検証のため再訪を決意して店を後にしたのであります。

今年になってからも2回訪問。リヨン風トリップ(1580円)は玉葱投入が臭み対策なのでしょうがちょっと甘過ぎか。
馬肉のタルタルや鴨のコンフィ(いずれも価格失念)も悪くはなかった。

最後の訪問の狙い目は、7日前までの予約という短角牛のロースト(5~6人前2万3800円)。

短角牛のロースト(丸ごと)

期待に膨らむ我々の前に出てきた短角牛でありましたが、「サシ入りすぎ」。赤身がウリの短角牛だと思っていたのですが、最近はA欠(ビタミンAを減らしてサシが入りやすくする)をやっているのでしょうか。

短角牛のロースト(断面)

料理に傑出したものを見いだせませんが、ワイン飲みには砂肝コンフィと短角牛を頼まないことを条件に、まずまずオススメできるビストロであります。