サプライズな創作料理が多すぎないか、緒方

初年度ミシュランガイド京都・大阪版では取材拒否を貫いて店内や料理の写真が掲載されなかった緒方。2つ星の「旨み」をこの1年で享受したのか、最新版では写真が掲載されております。ミシュランの軍門に下ってこんなヘタレを曝すなら、最初から取材拒否をするなと私は言いたい。

8席のカウンターが主体の小さな店。しかし料理は奥の厨房で仕上げまでされてきますから、臨場感がないのが残念です。

初訪問は昨年、友里が得意としない「松葉蟹」のシーズン突入直後でありました。最高級ブランドと言われる「間人蟹」がメインでありまして、コッペ(雌蟹)の他、雄の焼き物がでてきました。
関西はフグにしても調理は「焼き」を好むようです。本体、足とその日は8杯を捌いたとのことですが、なぜか「ミソ」がでなかったのが不思議でありました。

料理人の腕がわかるお椀はワンタン入りの雲子出汁。面白い椀物でしたが、初訪問なので王道のお椀を試したかった。〆の鯛飯を美味しくいただき、間人蟹が主体だからか、ワインを持ち込んでも支払い額は2万円台後半と高め。蟹以外の時期での再訪を誓って店を後にしたのです。

1年ぶりの再訪は鱧や鮎などが充実する7月。ところが今回は創作度が更に増した料理の連続だったのです。
まずは賀茂茄子の黒焼き。外側が炭化するほど黒く焼いているので中身だけを食べる物。しかし外観と違って普通の賀茂茄子としか感じなかった。
1年近く待ったお椀のタネは鱧。でもわずかな鱧を中に入れた鱧餅なんですね、椀タネが。出汁も私には傑出したものを感じなかった。

鮎が1匹、蒸し鮑と半生ホシコのあとに出た琵琶湖の鰻には驚きました。フレンチのようなぶつ切りタイプで開いていなのです。ぶつ切りで焼いてから骨を抜いたので中心が半生でありました。珍しい調理ですが、この手法の必然性を感じません。

〆だと思った鮎ご飯の後にでたのがなんと鱧カツご飯。味濃く京料理としては掟破りの代物です。造りで鱧を出さなかったのはここに使用するからでしょうが、これが京料理とは思えません。
ハーフのシャンパンを頼んでの支払いが2名で5万数千円。創作病が進行していると感じましたが、京料理ではなく創作料理の2つ星と考えれば、王道京料理を食べ疲れた時の訪問には良いかもしれません。

この料理ではビストロとは言えない、ビストロQ

オープン直後とはいえ、雑誌に露出していたのにこの日の客は我々以外還暦男性が2名だけ。はやくもこの店の前途が思いやられた初訪問でありました。

西麻布で「ahill」という変わった店名の鉄板焼き屋がオープンしたのは7年前だったか。友里がすぐさま訪問したのは言うまでもありません。
ホテルの鉄板焼きと違って客単価は1万円以下と比較的気軽な店でしたが、食後感は価格なりで可もなく不可もなし。そんな店が銀座再開発ビルのベルビアに支店を出したと聞いて私はすぐに訪問したのです。
飲食店紹介雑誌はいい加減なもので、この支店を「あの西麻布の名店が銀座に進出」といったような大袈裟に取り上げていたからです。オープン直後に2回訪問し、西麻布店と同じ食後感しか持たなかったのですが、名刺をもらってオーナーシェフだと思っていた山下九氏が単なる雇われであることがわかったのが唯一の成果でありました。
その山下氏が独立して赤坂の僻地にオープンしたのがこのビストロQであります。

鉄板焼の職人がビストロとはいえフレンチ系の料理を提供ができるのか。不振のフレンチ界で唯一流行っているビストロに安直に飛びついたのではないか。ビストロ料理に目がない私はある程度期待して入店したのですが、一口食して期待が落胆へと変わったのです。

確かに鉄板はないけれど、6500円コースに出てくる料理はビストロにはほど遠いものばかり。鉄板焼コースに出てくるオマケ料理レベルなのです。

キノコのテリーヌは鶏をつなぎに使っているようですが、うまくつながっておらずボロボロ。鶏の味だけで肝心のキノコの存在感がありません。
焼き茄子のスープは茄子をガスで焼いたからかスープ自体がガス臭い。魚(たかべ)もポワレで思いっきり火が入っておりました。
1000円追加のA5級ヒレは炭火焼でしたが、トリュフオイルの匂いが強すぎ。ウリのフォアグラ入りハンバーグも、あらためて街場の洋食屋を見直す結果となりました。美味しくない。

グラスシャンパンはじめワインの値付けは安いけど、料理はビストロとはほど遠い、せいぜい鉄板焼きの延長戦上。とてもビストロ料理と胸を張れるレベルではありません。

ビストロを名乗るなら、フレンチの基本を再修業すべきと考えます。

第17回 

雇われシェフになってコンセプト混乱、アルヴィナール

雑誌では恵比寿にあったイレールの島田シェフが白金高輪にオープンしたフレンチと紹介されていました。黄色いトーンの奇抜な内装ながら、クラブミストラル(昭和30年代生まれのフレンチシェフの親睦会。当時は活きの良い若手料理人が多かった)の三代目会長にもなった島田氏、イレールノのオープン当初は結構話題となっておりました。その勢いで洗足や二子玉川に支店を出すも結果は閉店。恵比寿の本店での評判もまったくも聞かなくなったと思っていたのですが、それもそのはずいつの間にか閉店しておりました。

今回は新しいスポンサーを見つけたようで、以前とはまったく違う店を出してきたのです。食べログの店舗情報にも「オーナーは別会社」とありました。
木、ワイン、肉をテーマに、大箱(個室も2つあり)で木を意識したシックな内装、肉類のグリル料理の多さ、グラスワインの豊富さ(白赤とも5種ほど)を特徴としたコンセプトとしております。
今時フレンチで「グリル」をウリにするのは時代遅れと思ったのですが、HPを見ると前菜やメインにビストロ的な料理がありまて、ビストロ好きな友里としては楽しみな訪問だったのですが、メニュー構成(不自然にグリル料理が多いなど)を見て、期待は一気にしぼんでしまったのです。

アミューズ、前菜、メインと一通り食した感想は、味濃いけど深みが足りないものばかり。オマールのゼリー寄せはウニを載せていましたが凡庸。田舎風パテは肉の香りが強いながら、塩味濃いだけで旨みがない。
期待の牛テールと鎌倉野菜を使ったポトフ、テールのボリュームは半端でないほど大きいけど、煮込みが足りないのか骨から外すのに一苦労です。しかもかみ切れないほど堅すぎ。
その割にはスープがやけに味濃かったのが不思議でありました。テールのポーションの割に、ウリの鎌倉野菜の量と種類も心許ない。テールを減らしても野菜類をもっと増やした方が良いのではないでしょうか。

ビストロ料理にするのか、下ごしらえ不要のグリルをウリにするのか、狙いが中途半端。
きょうび、フレンチでグリルをウリにするのに大きな疑問。オーナーの意向でしょうが、コンセプトを間違えたと判断します。

近隣フレンチの驚異にまったくなっていないというのが業界内での結論です。