ツマミは豊富だけど肝心のトンカツがダメ、かつ吉水道橋店

気温や湿度によって多少の違いがあるかもしれませんが、多くのパターンがあるとは思えないトンカツ揚げ技術。単に豚肉にパン粉をつけて揚げるだけと言うと怒られるでしょうか。短期間でも修業したプロのトンカツなら、食後感は豚肉の質と価格設定だけに左右されると思っていたのですが、実際は肉質以前の、揚げ方の問題で食後感はバラバラであります。

衣の色が薄くベチャベチャのトンカツもあれば、焦げすぎで色が黒く春巻のように固い衣のトンカツもあります。無名豚から銘柄豚、そして最近はイベリコやマンガリッツァ、チンタネーゼといった海外の高級豚まで登場するトンカツ業界、理想とする揚げ方から豚の種類までてんでバラバラで確立した理論がありません。
オススメ本に掲載しようと都内有名店を訪問し続けてもこれぞというトンカツに巡り会えない友里、読者の紹介で一縷の望みをかけたのがこの大箱有名店でありました。

通し営業なので夜の単品料理も頼めると3月の昼に訪問。地下という立地の悪さの割に年配客や外人も多く、レトロな内装の店内は盛況。なぜかキムチや野沢菜、大根の漬け物が並べられており、ポン酢や胡麻、玉葱、梅じそマヨネーズのドレッシングにソースは甘辛両方と机上はごった返しておりました。

まずはツマミとして葱塩ロース(小で1600円)。たっぷり乗せられた葱塩のおかげで衣や肉の質がわからなくなっております。でも牡蠣フライ(1ヶ300円)は大きく悪くはなかった。辛口ソーセージ(小は700円)は柔らかすぎで辛いけどジャンク味。そして特上のヒレカツとロース(定食で2800円と2600円)の登場です。

網の上ではなく皿に直接盛られたそれらトンカツを見て、食べる前に私の期待はしぼんでしまった。衣の色は薄く低温揚げなのかベチャベチャ。カラッとしておりません。肝心の肉も旨みを感じず美味しくないのです。こんなトンカツでは塩だけで食べる気がせずソースをたっぷりかけてなんとか食べきったのであります。

ソースやドレッシングは大量にあるのに辛子は皿に申し訳程度盛られているだけ。ソースの力を借りなければならないトンカツには、更にたっぷりの辛子を用意して欲しかった。
オススメ本には掲載できないトンカツ店であります。

なんちゃってピエモンテ料理に愕然、ラ・チャウ

田町にCPよいピエモンテ料理店があると聞いたのは今年はじめ。食べログでも4点を超える高評価で、レビューには西麻布にある兄弟弟子の店に行きたくなくなる優良料理店とあり私は直ぐピンと来たのです。
東京で一二を争う美味いイタリアンと評する「トルナヴェント」のシェフが修行したアルバ郊外の1つ星へここ数年通っている友里。そこで修行し店名を名乗る許可を得たシェフがまさか田町に店を出しているとは思わなかった。直ちに知人達と訪問したのはいうまでもありません。

でもビジネスホテル1階で大箱な店構えを見て、私は嫌な予感がしたのです。そしてメニューを見て訪問を後悔してしまった。
良く言えば料理数が豊富、はっきり言うとどこにピエモンテ料理があるのかと疑問の料理群。アイテムだけ多い料理の中で、私が知るピエモンテ料理がほとんどないのです。かろうじてピエモンテ料理と思われる料理も、タリオーリーニ(タヤリン)、ラビオリ(アニョロティ・ダル・プリン)と地元料理名の表記ではありません。括弧内がピエモンテ風の表記です。
しかもスタッフに「頬肉の赤ワイン煮込」の煮込み用ワインが何かを聞いても返事なし。ピエモンテ州のワインと即答しないので、この店は似非ピエモンテ料理店と推測したのであります。

厨房に居なければならないシェフがオーダーや皿出しで店内を駆け巡る光景にもビックリ。この大箱店の厨房をバイト並みのスタッフに任せっきりにしているのか。そのシェフに煮込みの赤ワインがピエモンテのワインでないことを直接確認し、私の推測は確信へと変わったのです。

バーニャカウダはソースがぬる過ぎで緩すぎ。トンナートもツナ缶をそのまま出したような後味。
シェフオススメの「肉の藁包み焼」がピエモンテ料理とは意外でしたが、まったく凡庸な蒸し焼料理でした。その他の前菜やパスタ、そしてもう1つのシェフオススメの鶏肉マレンゴ風も、まるで業務用ストックを使用しているとしか思えない後味のトーンなのです。

はっきり言って不味いだけの似非ピエモンテ料理なのにこの盛況さはどうなっているのか。田町の海岸側のような立地でしか通用しない、いや田町の立地にあわせた「田町風なんちゃってピエモンテ料理」と判断した次第です。
ピエモンテ料理の看板を下ろすか、再度アルバ郊外の1つ星で再修業することを私はシェフに提言させていただきます。

低温調理は揚げ物でもダメだ、蘭亭ぽん多

オススメ本(大震災で出版延期)で掲載するトンカツ店が見つからず焦っていた友里。人からオススメを聞いて訪問しては落胆というパターンを繰り返していたのですが、この店も例外ではなかった。湯島で予約困難な人気和食の主人から「修業先のオヤジさんを連れて行く」聞き飛びついたのですが失敗でありました。

ぐるなびに生ビールのクーポンがあったので嫌な予感はしたのですが、しっかりそのクーポンを握って、日頃お世話になっている編集関係者を誘って訪問したのは今年2月。
そのクーポンで出てきた生ビールの小ささに驚き、直ぐさま瓶ビールをオーダーしたのですが、こんなケチなクーポンならわざわざつけるなと私は言いたい。クーポンもダメなら肝心の料理はもっとダメ。店のオススメ料理すべてにダメ出しです。

コールドタン(1365円)はまるで添加物の塊のような味わい。牡蠣フライ(1890円)は塩で食べろと言われたけどソースの濃い味で誤魔化さないと楽しめない質と衣であります。
アスパラ(もちろん缶詰)を乗せたサラダ、廉価な洋食屋にもあるレベルでしたが、これがこの日一番まともな料理だったかも。

事前予約のみと言われたタンシチュー(4935円)は、醤油、味醂、日本酒などで長時間煮込んだそうですが、和風味としても出来はイマイチ。山椒や辛子の力を借りても美味しいと感じない、店主の自己満足料理であります。そのタンシチューの残りでケチャップライスが提供されたのですが、これまたわざわざ食べる必要がないものでした。

そして今回のメイン、特製とんかつ(3570円)の登場です。店主は100℃の低温で揚げたので「肉汁が出ていない」と自慢していましたが、最初から肉汁が存在しない肉ではないか。
衣がベチャベチャでサクサク感がないだけではなく、揚げ温度が低いからか肉の変な臭みも感じてしまった。塩だけで食べろと言われましたが、それは本当に美味しい肉を腕のある職人がカラッと揚げたトンカツ限定の食べ方のはず。

今や廃れ気味のフレンチの低温ローストを挙げるまでもなく、低温調理は食材本来の旨みを引き出すものではありません。火入れの失敗を激減させ食材の質の良し悪しを感じさせなくする手抜き調理のこの低温火入れ、トンカツ業界でも必要ない調理法であると考えます。