浅草の寿司屋に銭形平次がいた、鎌寿司

本人はいっぱしの食通のつもりでいるJ.C.オカザワ。懲りもせず最近も何冊か本を出したそうで、売れないライターに機会を与え続ける出版社の援助精神には頭が下がります。そのJCが友里に勧めた寿司屋が田原町の「鎌寿司」。風情を感じる佇まいに、塗りのはげたカウンタートップ、浅草なのに主人は栃木訛りとかなりディープなひと時でした。
ツマミでは突き出しの後に出た自家製の「即席塩辛」、拘りの烏賊を使用していて調味料疑惑はありますが悪くはない。かなり漬け込んだヅケ、塩強めのコハダと最近の若手と違って仕事はかなりクラシックであります。煮ハマはアサリと見間違うほどの小ぶり。国産物だとのことですが、それでは他店の大きな煮ハマは海外産なのか。食べ応えはなかったですが、味は良かった。真子ガレイのシコシコ感、アワビは生しかないなど私的には疑問のタネもありましたが、海鮮系お好きなJC好みの寿司屋にしてはまずまずのツマミだったのです。
しかし、握りに移ってからの驚きをどう形容していいのか。なんとこの主人、握りを客前へ投げつけてくるのです。その様は正に浅草の銭形平次か。繊細な握りほど崩れないよう丁寧に扱わなければならないはずです。置かずに手渡しする主人もいるくらいですから。ところがこの主人、常連含めて誰にでも握りを投げつけます。時折塗られた煮切りの飛沫らしきものが顔にかかりました。こりゃ堪りません。投げつけられてもビクともしない「鉄の握り」なのかもしれませんが、こんなのありか。実際口へ入れても歯が折れませんでしたからそれほど固いとは思いませんが、このパフォーマンスは問題外の外。柔らかければ良いってものではありませんけど、投げつけても型崩れしない握りはもっと問題であります。
肝心の味わいは、メバチと思われる鮪系や玉子はまずまず。車海老の半生、美登利寿司を思い出すデカ過ぎの穴子、鰺ではなく関アジ、と疑問のタネも多かったですが、かなり飲んで食べて一人1万4000円前後。
酢飯は塩だけ強くてバランス悪く、主人の出身地の栃木から仕入れる干瓢も味濃すぎではありますが、タネ質と支払を考えての結論は、ご近所限定でなんとか許容範囲に踏みとどまりました。

料理もワインもリーズナブルだ、マジカ

知る人ぞ知る目黒の人気イタリアン「トラットリア デッラ ランテルナ   
 マジカ」。ネットでも安いと評判ですが、雑誌の露出が少なく私はまったく知りませんでした。
目黒駅から徒歩で10分近くの住宅街と立地が良いわけではありません。トラットリアの黄色い看板がちょっと周りから浮いていますが、店内は結構広く内装もまとも。安いという前評判の割に意外に落ち着ける配置に驚きました。
ボナセーラ系イタリアンをご記憶でしょうか。ドアを開けると威勢良くイタリア人が「ボナセーラ」と声をかけてくるのがウリのイタリアン、一世を風靡しましたがそのはしりが恵比寿の「イル・ボッカローネ」であります。その店出身のスタッフでオープンしたこの「マジカ」にもやはりイタリア人は居ました。黒板に書かれたメニューはどれもイタリア語でそれを日本語不得意なイタリア人が説明するものだから我々には理解し難い。再度日本人スタッフに説明を求めやっと注文ができました。このイタリア人、時間と経費の無駄だと思うは友里だけでしょうか。
料理はどれもリーズナブルでポーションも大きい。
すべてシェアに対応するようですが我々は前菜、パスタ、メインと個別に頼みました。前菜盛り合わせ(1900円、ハーフあり)はかなりの量。シェアにも充分耐えられます。パプリカのバーニャカウダ(1000円)の他、野菜スティックのタイプ(1900円)もしっかりした味でグッド。連れが頼んだ生ハム(1400円)は半端な量ではありません。魚介のミンチラグー仕立てのタリオリーニ(1600円)もこの価格なら文句なく、熊本馬肉のステーキ(2900円)もボリューム、塩胡椒もしっかりで満足しました。そしてもう一つ、酒飲みに有り難いのがワインの値付けの安さです。高級ワインはないですが、掛け率抑えて5000円前後が主体のリストの最低値は2800円。リスト外のワインも9000円前後でありました。そして〆のグラッパの豊富さもこの価格帯の店では珍しいことです。
コペルトとして300円計上されますが、サービス料はなく、結構飲んで食べて支払は一人1万円前後と、イタリアのディープな地方色はありませんが味、ボリュームを考えると充分満足して店を出ることができました。

確かにお腹一杯にはなる食べ放題、しゃぶ吟

友里のネタ探しで一番お世話になっているのが「東京カレンダー」という月刊誌。検証や問題提起なく店の宣伝だけに徹する「ヨイショ系雑誌」の筆頭であります。そこで深夜営業のしゃぶしゃぶ食べ放題の店と紹介されていたのが六本木の「しゃぶ吟」です。あの和食店「龍吟」主人の山本征治氏が店引け後にスタッフを連れて寄るほどの店だとか。松坂牛認定店で食べ放題が6800円との釣りキャッチにすぐさま友里が知人と乗り込んだのは言うまでもありません。お腹を空かせてミッドタウン対面の小さなビルの5階へ上がった瞬間、しかし期待は萎んでしまいました。店内は靴脱いでのカウンターと掘り炬燵式の半個室なのですが、かなり狭い。そして卓上にはカセットコンロが設置されています。松坂牛を扱う割に何ともプアな設備。気を取り直して1000円引きのぐるなびクーポンを出して、6800円食べ放題コースを頼みました。
この店の食べ放題には仕掛けがあります。まずは黒豚と和牛の2種が供され、それを食べ終えてから豚か牛を選択して追加できるシステム。まずは原価の安い豚を食べさせ牛の消費を抑えようとする戦略なのでしょう。松坂牛認定店で豚を食べる客がいるかと次々牛を追加していったのですが、思ったより食べられない事に気が付きました。オリジナル胡麻ダレがかなり濃厚なのに加えて、追加するたびに牛の脂分が多くなってくるのです。この脂攻撃と濃厚胡麻ダレ、そして最初の豚のおかげで思ったより早く投了となった次第です。
松坂牛認定店とは言っても、松坂牛を食べ放題に出すとは書いてありません。野菜は千切りになっているし、他の一品料理も濃い味付けで私の好みではなかった。いくつかの単品とビールに日本酒飲んで野菜を追加して一人1万円前後と予想より高くついたのはチャージ500円にサービス料10%を加算されるからか。
純粋にしゃぶしゃぶを楽しむならば、近隣の老舗「瀬里奈」で登録メンバーとして10%引きしたのと支払がそうは変わりませんでした。この閉塞感、脂分、胡麻ダレと支払を考えたらリピートはあり得ないというのが我々の結論。それにしても山本氏、かなり立派な体躯の方ですが、この狭い空間で我慢できたのか、一度確認してみたいものです。