酒飲みには遠すぎる、ひさ田

関西在住の食べ仲間から誘われていた岡山の鮨屋。市内から遠いので車で行くしか手段はないと言われ、宝塚近辺で待ち合わせ、知人の運転で2時間かけて昼に訪問したのが今年はじめでありました。
新興住宅街にある自宅の裏側に造った店舗。非常にわかりにくい立地であります。
この日は満席だったからかL字型のカウンターは9席とちょっと狭め。小上がり以外に店内にポツンとあるテーブル1卓は喫煙用のスペースだとのこと。中途半端な分煙ではなく全席禁煙にするべきではないでしょうか。

ツマミからお任せでスタート。天然フグのぶつ切りは白子とのポン酢和え。一味入りで味濃かったですが悪くはない。トロミをつけたタイラガイもまずまず。鰆の炙りの後、この店のウリの1つである吉田牧場のモッツァレラのヅケが登場します。なぜチーズをヅケにするのか、いや鮨屋でチーズの必然性が理解出来ませんでしたが、酒のツマミとしてはまずまず。続いたのが青鰻(海鰻)の焼き物です。山葵の茎が添えられるこの店の名物で、ツマミとしてお酒が更に弾みました。

そしてここから握りです。生姜は甘からず辛からず私の好み。酢飯は米酢を使っているようで、粒がかなり立っています。関西としてここまで固めなのは珍しいのではないか。煮切りが濃すぎる気がしましたが、全体的にバランスのよい握りです。
個別的にはヒラメの縁側が生臭く、琵琶湖の鱒や生っぽい車海老には疑問が残りましたが、烏賊、赤貝、鯖、鰆などはなかなか良かった。芽ネギと沢庵巻きの後、主人の父親が打ったという蕎麦(あらかじめ予約が必要)で〆となりました。

タネ札には16種の表記とそれほどタネは揃えておらず、お任せコースとしては昼でも物足りない量だったとの連れ達の意見もありましたが、支払い額を知ると文句は言えません。運転者など2名がお酒を飲まなかったのですが、我々がその分をカバーしての支払いが一人1万3000円とかなり安い。充分飲んでも1万5000円以内で終わると推測します。

立地の関係から酒飲みが訪問しにくく、よって酒類の売り上げを諦めるかわりにツマミを充実させる必要もない新しい戦略。
酒飲みには使い勝手が悪いですが、お暇な方には話のタネに訪問してもよい店です。

セーター姿の客もいたガラディナー、ひらまつ

ネット検索で「ひらまつ」のガラディナーの開催を知ったのは2月のはじめ。シャトーマルゴーのワインと旬の黒トリュフ尽くし料理の参加費が破格の7万円。2週間前と開催日が迫っていたのでダメ元で電話してあっさり予約が入ったのには驚きました。1週間前に今年は未だフレッシュ黒トリュフを食べていなと気づき、比較する為に慌てて六本木の「オー・シザーブル」で尽くしコース(2万9000円)を食べて満を持しての突入でした。

ガラディナーということでドレスコードを確認してスーツ&タイの出で立ちで望んだ友里、ホール隅のテーブルにセーター姿のカップルを見つけてズッコケました。コードなんかないではないか。でもこの二人を除いて客層は年配カップルが多く、ひらまつグループのプレステージクラブの会員が主体だと推測します。

ハイテンションな平松社長が音頭をとってクリュッグ(グランキュヴェ)で乾杯。傍に寄り添うシャネルスーツのマダムを見て、私はひらまつグループの好調を確認したのです。こんなことなら2年前にひらまつ株を売らなければ良かった。儲かっているからかクリュッグは何杯もおかわりが出来て私は満足。しかしその後のパヴィヨンブラン、ルージュ(1級格付けのマルゴーではない白と赤)はわずか1杯だけ。目玉の89年と85年の1級マルゴーもかろうじて1回おかわりが出来る程度で酒飲みの私は不完全燃焼に終わったのです。

平松氏やメートルがふんだんに使用と言っていた黒トリュフ料理はどうだったかというとこれも肩透かしでありました。スライスでの「ふんだん」な使用ではなく、ほとんどが千切りでカサを稼いでいるだけ。フォアグラ、オマール、仔羊と食材や調理(塩を強めにしている)は悪くなかったが、肝心の黒トリュフが量少なく素材負け。「オー・シザーブル」の方が黒トリュフを堪能できたのです。

20年以上前のマルゴーは高騰しているので、トータルで考えると7万円は高くはないかもしれませんが、来日したマルゴー醸造責任者の方針なのか提供温度が自分には低く感じ、パニエサービスしなかったので澱が舞ってしまう危険もあった黒トリュフ千切り尽くし料理とシャトー・マルゴーのコラボガラディナー。不満ではなかったけど満足にもほど遠かった豪華な晩餐でありました。

予想通り高いだけの宴会料理、有季銚

銀座にあるミシュラン1つ星の和食店。宅配ピザ「ピザーラ」の親会社が経営しているだけに結果は見えていたのですが、そこを我慢して突入するのが友里のスタイル。フライパンをソロバンに持ち替えた金儲け料理人・ロブションと提携しているフォーシーズグループなだけに、ネタだけは提供してくれると接待を兼ねて今年になって訪問しました。
全室個室と料亭形式。2万円、2万4000円、2万8000円の3コースの内容の明確な説明がなかったので、無難にフグなしで真ん中の会席コースを頼みました。天然フグを食べるなら、専門店に行くに限ります。

まずは千枚漬けに巻かれた巻き海老でスタート。この取り合わせに驚き、続いて甘みのない海老芋の煮っ転がしを食して、私は予想を裏切らない店だと確信しました。
鮑粥は可もなく不可もなし、造りの鯛は薄造りみたいに薄く欲求不満。クラッシュアイスに直乗せもベチャベチャになるだけではないか。しかも冷えすぎ。質はそれほどでもなかったが、熟成がまずまずだったので残念でした。やなぎ鰈は味濃く、続く八寸はバチコ、キャビアの飯蒸しがありましたが全体に貧弱。キャビアではなくもっと他に力を入れて欲しかった。

ポン酢でいただく鯛の酒蒸しも凡庸で、スミイカの黄身酢和えも味濃いだけ。そして海老真丈に〆が氷見のマグロの鉄火丼と大阪のカウンター割烹のような料理の連続で締めとなってしまいました。
フグの白子焼きを追加したのが利いたのか、値付けの高い冷酒を頼んだのが利いたのか、支払いは一人4万円を軽く突破。
料亭形式とはいえ地下の店ではCP悪すぎです。
個室に拘るなど贅沢な店内なのに、2つあるレストルームは男女の区別がありません。経費族のオヤジがターゲットなのでしょうが、女将(雇われ?)の対応が悪くなかっただけに残念です。

しかし今回の接待相手、高額店の経験が不足しているとはいえ、ミシュラン1つ星と事前に教え、個室対応と女将の接客を受けた後でも「一人1万円台ですか」と弊社社員に聞いてきたことを知り、私は言葉を失いました。費用対効果がこれほどなかった店も珍しい。今回は自腹ではなく経費でありましたが、それでもこの食後感。自腹どころか経費や他腹でも友里の再訪はないでしょう。