「月刊めしとも」の企画で編集部から出動要請を受けたのが10月半ばでありました。月末に欧州取材旅行を控えていたのですぐに訪問したかったのですが、電話口のスタッフから「その週は店内改装でお休み」と聞いて私は驚いたのです。
確かオープンしたばかりのはずで、はやくも店内改装とはこれ如何に。すわ集客不振のテコ入れでコンセプト大幅変更かとネタ的には喜んだのですが、おかげで帰国後に訪問を延ばさなければならなかった。
ところが偶然にもその改装期間と言われた後半は、ある百貨店の外商から招待されたドイツの機械式時計の展示会の会場となっていたのです。こんな貸し切りをするよりも早く営業を再開しろと文句を言いたかった。
場所は足の弁の悪い西麻布の中でも更に僻地。周辺には寺院もあり立地が良いとは言えませんが、それが逆に隠れ家的な雰囲気を醸しだしております。
店の看板もまったく目立たずお忍びカップルにはもってこい。アプローチに段差があり蹴躓きやすい、レストルームが地下にしかないなど、きょうびのバリアフリー志向に真っ向刃向かう設計はあまり感心しませんが、地下のプライベートルーム(早い話が個室じゃないか)やホールにもレースで区切られている半個室を用意するなど、秘書連れの助平シャチョーや業界人のニーズも充分考えた内装と考えます。
普通この手の店に美味い料理はないのですが、ミシェル・ブラスとファットダックでの修業をウリにするシェフ、現時点では例外でありました。
山本益博氏が「月刊めしとの」のライバル誌で絶賛していたので期待していなかった「光&影」と称する2つのコース。見た目は最近流行の多皿で低温調理を乱発するソースが造れない若手料理人(カンテサンスを筆頭に、アニュ、フロリレージュ、ハジメなど)と同じなれど、完成度は段違い。
いずれも標準以上の出来で、クラシック調理好きな友里も珍しく満足した次第であります。シャンパンはじめワインの値付けもかなりお安くなっておりました。
経営元は元グローバルダイニング関係者と聞いて引いてしまいそうですが、お忍びカップル、ゲット狙いオヤジ、味のわからない業界人、自称食通の方、そしてミーハーブロガーと万人受けする珍しい店です。