単にトマトをいれただけのすき焼き、ばさら

今や店ヨイショの第一人者になってしまった小山薫堂さん。西麻布で集客に苦しんで軽井沢へ移転した「エルミタージュ ドゥ タムラ」(当時の店名はラフェドール)をブレイクさせるなど、しょうもない店を次々と取り上げて人気店に仕立て上げておりますが、数年前から煽っていたのがこの「ばさら」であります。

1990年代に一世を風靡した徳島の料亭「青柳」。店主の小山裕久氏の料理人としての腕は、弟子を3人も3つ星料理人にしている現実から誰もが認めるところ。
しかしいかんせん商売の才覚には見放されていたのか、東京は虎ノ門で「青柳」、廉価店として「バサラ」を都内に何店舗も展開したのですが、六本木ヒルズへの進出が大きな失敗だったようで、今ではこの三田「ばさら」が都内で唯一の関係店となりました。
客単価3万円以上の「青柳」や「小山」(六本木ヒルズ)の店主が、5500円のトマトすき焼きコースをどう提供するのか、加熱トマト好きな友里が訪問できたのは今年になってからでありました。
場所は田町駅からかなり離れた三田通りのビル地下。一見普請の安いダイニング調であります。ホールはほぼ満席と週はじめにしては盛況でありました。

1万2000円までの会席コースまでありますが、ほとんどの客が頼んでいるのは前菜とトマトすき焼きに水菓子がついた5500円コース。そして客層は男性比率が高い接待系がほとんどでした。居酒屋など廉価店が主体の田町近辺、客単価が8000円前後と田町企業の接待ニーズを考えた出店計画と読みました。

何の変哲もない前菜のあと、オリーブオイルでニンニクを炒めた鍋でトマトすき焼きがスタート。最初はトマト2片の提供でしたが、単なるトマト焼きと判断。
続く皿には肉、トマトと玉葱がありましたが、割り下やニンニクの風味が薄くて、良くいえば上品、はっきり言えば、わずか3種しかない具がまったく調和しておらず別々に食べているよう。
全部で4皿の提供で肉は3枚でしたが、脂が強くお腹だけは一杯になったのであります。こんな調理なら、家のすき焼き(具の種類も多い)にトマトを入れた方がもっと美味いのではないか。
わずか1時間半で食べ終えてしまいましたから、費用を抑えたい接待や同伴に向いているとはいえ、田町近辺以外の人がわざわざ訪問する必要はないと考えます。

 

 

 

ここまで客が減っているとは思わなかった、キッチン ボン

あの盛況さはどこにいってしまったのか。自称文化人や芸能人もよく出入りしていたからか、当時(20年以上前)は客単価が高い洋食屋なのに行列が連日出来ておりました。ニンニク大量使用が特徴の料理が癖になり、友里もリピートを繰り返していたのです。

ウリのボルシチ、鮑のサラダ(当時で8000円くらいか)、シャリアピンステーキ(5000円くらい)が友里の定番でありましたが、どれもニンニクがてんこ盛りなのです。美味い不味いは別にして、ある意味強烈なインパクトある料理でありました。
当時の主人やマダム(爺さんと婆さん)の個性も強烈。特に一見には客を客と思わない対応が逆に更なる人気を呼んでいたのかもしれません。

転機はビル地下への移転と料理人の世代交代からか。移転してから数回訪問していましたが、急に懐かしくなって再訪したのは昨秋のこと。念のため予約をしましたが客入りは6割前後。特にカウンターには一人客が多かった。

まずは懐かしいハーフサイズのボルシチ。見た目は変わっていませんがニンニクやレモンのインパクトがない。
頼む客がいないからか、鮑を使った料理は事前予約となっていたので、野菜の盛り合わせ(1800円)をオーダー。量は多かったけど普通のマヨネーズ味でニンニクが効いていなかった。
それではと頼んだシャリアピンステーキも、8400円と価格は立派に成長しておりましたが、肉、玉葱とニンニク風味が薄過ぎる。こんな調理では、シャリアピン氏が毎日食べるには飽きてしまうのではないか。
2名だったので足りずとビースストロガノフ(5300円)を追加したのですが、普通の洋食屋と同じくツメが緩すぎ。特徴であるニンニクインパクトがないと単なる高い洋食屋ではありませんか。

検証精神旺盛な友里は今年になって鮑料理を試すために再チャレンジ。鮑サラダはなくなっており、この店でははじめてグリル(2万円)を頼んだのであります。
かなり大きな鮑でしたが、バターが強すぎるのか塩が足りずキレなく甘過ぎる。タンシチュー(5250円)もタンは3枚でしたがトマトケチャップベースみたいな煮込みでやはりインパクトなし。
主人やマダムは威圧感なく雰囲気は改善されていましたが、肝心の料理がドクを抜かれてしまった。
接客はこのままに、料理は昔に戻って威圧感ある調理に戻すことが集客に繋がる(この日は他にわずか5名)と友里は提言させていただきます。

この料理とサービスで高評価は”ムリーノ”、イル・ムリーノ

今年はじめだったでしょうか。自宅に送られてきたダイレクトメールを何気に開けて、友里はビックリしたのであります。
「イル・ムリーノ ニューヨーク東京店 開店8周年のご案内」と題しまして、「1万円引き」のクーポン券が入っていたのです。
カプリチョーザや巨牛荘という廉価店を主に運営しているWDIグループ傘下の「イル・ムリーノ」、以前から友里の評価は低く「高額店経営はムリーノ」は言い過ぎでしょうが、8年も続くとは思いもしなかった。

味が濃すぎる、塩が強すぎる、量が不要に多すぎる、など日本での評価は散々なのにまったく改善されていない不思議。この理由は、本家NY店が変なプライドを持っているからか、WDI側の改善提案(味付けなど)を一切受け付けないからだと漏れ聞いております。
WDIが評価や集客に苦しんでも、ロイヤリティだけ入ってくれば良いと思っているのでしょうか。だいたい「ニューヨーク東京店」って何だ。ニューヨークなんて削除して単に東京店にすればわかりやすいのですが、自分中心のアメリカ人の思考は理解できません。

そして1万円のクーポンに釣られて早速予約しようと思った友里に思わぬ障害が待ち受けていたのです。食べログでの評価は最低に近い「3.11」(現時点)。
ネットのレビューもクソミソが多かったからか、誘った食べ仲間たちから「いくら1万円引きでも大事な時間を費やすには割が合わない」と次々に断られ続けたのであります。最悪は一人で突入かと覚悟したのですが、昨年から先送りしていた誕生祝いのオファーがありまして、敢えて自分の誕生祝いの場にこの店を指定して無事入店することが出来たのです。

店内は相変わらず真っ暗でメニューが見にくい。料理だけではなく内装も改善できていない。頼まなくても出てくる前菜ですが、サラミは生臭くフォカッチャとは名ばかりの悪い油で押しつけて焼いただけのパン。固くて油臭く手がベタベタになってしまった。
ガーリックトーストも不自然に味濃いだけ、ズッキーニのフリットも油でカチカチで、まるでニンニクチップのよう。唯一パルミジャーノだけがまずまずでした。

トリュフオイルとポルチーのペーストを使用した自慢のラビオリも不味く、味濃い鴨のローストも食べきれないレベル。
1万円クーポンに釣られたのか店内は満席状態でしたが高額店なのに席間が狭く、ホールスタッフが通る度に客と交差してしまいます。

〆のコーヒーはラウンジへ移動するのですが、垢抜けないブーツを履いた太足女性のサービスにまたまたげんなり。
内装ダメ、料理ダメ、サービスダメ、ワインの値付け高いで、クーポン使っての支払いが3万円弱。この食後感では、クーポンなしでの盛況は「ムリーノ」と判断します。