創作和食と考えたら許容範囲内か、NARISAWA

いつの間にか店名がシンプルになっていたNARISAWA。今夏、久々に訪問して店名だけではなく料理内容も激変していたことに驚いたのであります。
コースは2万1000円一本。そしてその大仰なコース名にも腰を抜かしてしまった、“森とともに生きる”のスタートです。

まずはテーブルに鎮座まします“森のパン”。

パン(発酵中)

「苔」と題しているようでして、蝋燭の火で発酵中でありました。

続くは“森のエッセンス・黒山の風景”と題するモノ。

森のエッセンス・黒山の風景

いちいち大仰なタイトルをつけるのでメモが大変です。「エッセンス」は森の水、「風景」は豆腐の上に胡麻と葉緑素(緑色の粉)をかけ焼いた(焦がした?)ゴボウの皮を乗せたもの。味的には悪くはなかったけど、盛り付け含めもっとシンプルにならないのか。
“炭”と称するのは玉葱のフリット。炭化させた長ネギを外側にまぶしております。玉葱は甘くこれは見た目と違って美味しい。

“ウニ・トマト”は想定内のお味。ジュレがトマトでして、この料理は珍しいものではありません。
”沖縄”と題するものは、冬瓜、田芋、ヨークシャー豚を入れたウミヘビのスープ。これも悪くはなかったけど、ウミヘビが負けて豚の味が主体でありました。

沖縄

 

そしてこの日一番の料理が“賀茂茄子”。寒天状のトマトをかけておりまして、茄子がかな~り美味しかった。塩は強くもなく弱くもなく良い塩梅。創作和食として供した方が据わりが良い。

賀茂茄子

 
 
“灰 2009 海岸の風景”と題するものは単なる烏賊の炭火焼き。

イカ 変化前

 

どこが炭なのかと思っていたら、ホールスタッフはフローズンさせたパプリカの粉を掛け始めたのです。
そしてパプリカが溶けたからでしょうか、あら不思議。黒くなってしまいました。子供だましのパフォーマンスですがお味は甘いけどこれも悪くはありませんでした。

イカ 最終形

 

“赤ムツ・松茸・スッポンのエキス”はテーブル上で透明な袋を破ります。

赤ムツ・松茸・スッポンのエキス

これまた塩味は優しく、“創作和食”と考えると京都の3つ星より完成度が高い。ここまでは予想外に楽しめた料理だったのですが、次の能登の岩ガキにはダメ出しです。

岩牡蠣

なんと岩ガキをソテーしているんですね。肝心の牡蠣が縮んでしまって岩ガキの特徴であるミルキー&ジューシーさは皆無。これは改善が必要であります。

料理の最後を務めたのは完全放牧の蝦夷豚。これは塩がやや強めの炭火焼きでしてサプライズ性はまったくなし。悪くはなかったけど、成澤料理としてはチト物足りなかったのであります。

蝦夷豚

 

ワインの値付けが高すぎるのでワインペアリング(1万5000円)に逃げた結果の支払いが一人当たり4万円台半ば。

結論は京都の3つ星和食(嵐山吉兆や菊乃井など)より薄味で美味しい創作和食と判断。あっという間に撤退(半年でロンドンから逃げ帰ってきた)した村田氏(菊乃井主人)、ジョエル・ロブションでバカ騒ぎする前に、このNARISAWAで食事して己の創作和食の反省をしたらどうなのか。
季節によって料理が異なるという前提なら、たまの訪問は許容範囲かもしれません。

 

安くないけど引き出しが多いイタリアン、アンビグラム

なぜか今でも盛況で連日満席が続く青山のシチリア料理店「ドンチッチョ」。
神宮前にあった「トンマズィーノ」の時よりパフォーマンスが落ちてきていると思うのですが、この店から独立した人の店がすぐ人気になるという現実を見ると、まだまだ人気は衰えていないようです。

この天現寺近くにある「アンビグラム」は、フロア担当が円満退社してシチリア料理に拘らないシェフを擁してオープンしたイタリアン。色々な地方の料理を供しているので、ボッタルガ、松の実、鰯、ウイキョウなどを多用するシチリア料理と違って調理や食材の幅が広いのが特徴であります。

そしてもう1つの特徴が入店のし易さか。500円のコペルトに加え、前菜が2000円弱、パスタ類は2000円前後、メインに至っては3000円以上が多いなど価格設定が高いからか、タイミングが良いと当日の飛び込みも出来る使い勝手の良い店。
友里も3回の訪問中、2回は直前の問い合わせでありました。結果的には2回転するテーブルもありますから、もしかしたら当日用のシートを用意しているのかもしれません。

友里の定説の1つに「本日のオススメ料理は客にではなく店にとってオススメ」があります。
築地などで安く仕入れた食材(豊漁や売れ残りなど)を転用する場合が多いからでありまして、この手の料理が肉系より魚系に多いことからも証明できる定説。
でもこの「アンビグラム」においては、定番より本日のオススメの方が美味しかったのであります。

初回の訪問では定番を主体にしたからか食後感は可もなく不可もなし。ところが2回目からはこのオススメに変更して印象が激変してしまった。
例えば前菜の位置づけの手羽の詰め物(2400円)。

手羽の詰め物

牛のミンチやキャベツ、古代米を入れて網脂で包んで火入れしたもので、添えられた野菜も多めでアスパラソースも美味しかった。

ウニの冷製アーリオオーリオペペロンチーノ(2400円)もウニ臭くないだけではなくしっかりエマルジョン化していてまるでトロロ蕎麦のような食感。これまた○でありました。

ウニのペペロンチーノ

 

メインの仔牛(グリルと煮込み2種の調理 3400円)は、鞍下肉をローズマリーでグリル、肩肉をパプリカや白ワインで煮込んだものでして、どこの州の調理かわからなかったけどこれまた満足したのであります。

仔牛

 

気をよくして翌月にもまた訪問してしまった。今回はトンナート(ピエモンテ料理)も登場するなど引き出しの広さは健在。

トンナート

 

ホロホロ鶏のラグーのキタッラはまずまずでしたが、サルシッチャと栗のミンチを包んだ鶏はやはり美味しかった。この店では、詰め物料理にハズレがないのかもしれません。

鶏(詰め物)

 

イタリアンというと、仕込みがいらない瞬間調理と思われがちですが、西麻布の「トルナヴェント」ほどではないけど手をかけた調理が多い「アンビグラム」。

出身店と違って予約困難にならないならば、リピートを繰り返したい、引き出しの多いシェフのイタリアンであります。

店名倒れでスパイス感まったくなし、スパイスカフェ

もともとカレー好きであった友里、数年前からスープカレーはじめスパイス感あるカレーに嵌まって自宅でもインドカレーをじぶんで造るようになってしまった。
ですからこの手の料理を外で食べたい時はよりスパイス感を求めるようになってしまったのであります。

そんな友里に食べ仲間が教えてくれたのが、食べログでも高得点(4.02)の押上にある人気店、その名もズバリ「スパイスカフェ」。
早速身内と行こうと電話したら、日曜だというのに当日だからか満席で2回転目の20時半でないと入れないとのこと。都心ならまだしも押上で21時近くから食事をしたら帰宅は日付けが変わるかもと断念して2週先の予約を入れ直したのであります。

押上駅から徒歩で15分はかかったでしょうか。カレーの為にここまで頑張る自分に感心するも大きな期待をもって古民家風の店へ入ったのですが・・・

スパイスカフェ

 

コースは2500円、2900円、3500円の3種。前菜やカレーの皿数が変わるだけで、総量はそれほどの差がないとのことでしたが、ここまでやってきたからにはと友里は最高値コースを頼んだのであります。
まずはオススメの自家製ジンジャエールで喉を潤そうとしましたが予想外に甘過ぎで愕然。すぐさまビールに切り替えです。

自家製ジンジャエール

 

選んだ前菜2種からまずは盛り合わせが登場。

前菜盛り合わせ

ニンジン、玉葱のキッシュ、ゴーヤと玉葱のフライ、ゴルゴンゾーラ(クリームでのばしている)、カボチャ、インゲンとズッキーニ、オクラとトマト、とアイテムは豊富でありましたが、肝心のスパイスはいくつかにクミンらしきカレー風味がつけてあるだけ。まったく凡庸な、居酒屋レベルの前菜群なだけでありました。

続いての前菜は自家製ソーセージ。

自家製ソーセージ

トマト、シシトウ、ジャガ芋(チーズ味)が添えられておりましたが、肝心のソーセージは何かのハーブを感じましたがスパイス感なんて皆無。

1500円で追加できるというので頼んだ評判の野菜ビリヤニ。

野菜のビリヤニ

見た目は野菜の彩りふくめ盛りつけが綺麗で量も豊富でありましたが、肝心のお味はスパイス感が物足りなく再びガックリ。かくして友里は〆のカレーに望みを託したのであります。

5種以上のカレーから頼んだ3種のカレー。

カレー3種

チキンはよく言えばまろやか、はっきり言えば物足りない。マトンも臭みはあるがスパイス感に乏しすぎ。かろうじてラッサム(豆とトマト)がコリアンダーをやや強めに感じただけでありました。
そして身内が頼んだ海老もコライユ味でどうってことなかった。付け合わせのキャベツに強めのカルダモンを感じただけだったのであります。

キャベツ

 

ビールにワイン(4000円前後)を頼んでの支払いが一人当たり6000円超。
都心のインド料理と比べても特に安いわけではなくスパイス感も負ける押上の人気スパイス料理店。看板倒れは友里定説の「立地の妙」のよるもの。
六本木や銀座でこの料理を提供したら、現在の人気&評価を得ることは不可能であると考えます。