業界人が喜ぶ不自然に味濃いフグ、めうが

半年しか営業しないこの天然フグ屋は店名を「みょうが」と読むそうです。最近放送作家がグルメを気取って飲食店紹介に励む姿をよく見ます。しかし秋元康氏、小山薫堂氏などのおススメ店を見る限り、味がわからない似非グルメとしか思えません。ハングリーだった不遇時代の反動なのか、売れると頻繁な店訪問に奔るようですが、歳をとってからの短期間では舌を育てることは難しい。そして、この二人よりかなり格落ちながらグルメ番組に関わったことでグルメになったと勘違いし、飲食店紹介雑誌への登場に飽き足らず役に立たない「煽り本」を上梓してしまった「すずきB」氏が絶賛していたのがこの「めうが」です。
赤坂小学校裏のビル地下。客単価3万円以上の高額フグ屋とは思えない居酒屋然とした店構え。入り口にビールや酒の瓶を放置し、カウンターと小上がりの雑然とした店内。テーブルには紙おしぼりと灰皿がセットしているところを見て、期待は一気に萎みます。無口な主人と女将のこの店は、原則コースしかありません。トマトにマヨネーズをかけた突き出しを見て観念しました。マヨネーズを躊躇なく使う高額店の存在が信じられません。味濃すぎる煮凝りは上品さを感じず、評判の「分厚いフグ刺し」は確かに有名店と同じく厚い切り身ですが、昆布で〆ているのか、化学調味料を添加しているとしか思えないほど変な「旨み」が強すぎです。不自然な味に飽きてフグ刺しを残したのは生まれて初めてでした。小さな白子焼きはレモン以外にポン酢がついています。質が良くない。から揚げは驚いたことに揚げだし豆腐の出汁のようなものがつき、衣自体にも味をつけています。B氏絶賛の焼きフグは、赤い粉の入った味塩のようなものをつけて食べるもの。これまたフグ自体より添加物の味しかしません。フグチリは量が少なくフグの旨みも出ていない。そして雑炊は、予想通り厨房へ一旦戻してかなり味濃くなって帰ってきました。雑炊を客前で造らず厨房に戻すフグ屋は、化学調味料の添加を疑わなくてはいけません。香の物にもばっちり味の素がかかっていましたし、デザートの苺にはなんとコンデンスミルクがたっぷり。マヨネーズ、コンデンスミルク、化学調味料を何ら憚らず使用する高額フグ屋。業界人や作家など文化人の嗜好にあわせているといってしまえばそれまでですが、こんな偽装の味付けで、高額請求してよいものなのか。彼らが添加物好きで味がわからない人種であるという証左。有名無名に関係なく、放送作家、文化人の店ヨイショを信じてはいけません。

赤酢の酢飯だけがウリではない、すし処ととや

読者からのススメもあって今年初めて行った歌舞伎座近くの江戸前鮨屋。8席のカウンターと荷物置きにしか使われていない小上がりがある、主人と奥さんだけの小さな店であります。友里としては再訪を繰り返す数少ない鮨屋の一つ。「しみづ」とはまた違う雑然とした店内がやや気になりますが、供される握りがそれを充分カバーしております。
まず何と言ってもこの店の一番の特徴は酢飯です。かなり寝かした赤酢と塩で切るやや硬めの酢飯は、極端に酸っぱくも塩っぽくもないですがしっかりした味わいで印象的です。最近は酢飯に赤酢を使う店が増えてきていますが、ただ入れればよいってものではないことがこの店の酢飯を食してわかるというものです。
赤身、中トロなど生のタネもありますが、煮る、〆るといった一仕事した江戸前タネも質、調理とかなり高いレベルにあります。赤酢の酢飯だけではなく江戸前仕事のタネを使った握りとして東京では上位に位置する店と言えるでしょう。
スキンヘッドの主人は一見怖そうですが、奥さん共々気さくで変な緊張感もありません。小さな店内ですからグループや接待には向いておらず、一人、せいぜい2人で訪れてください。月曜が定休日で、火曜と週末は昼営業していないようですが、ねらい目は平日の昼間。夜と違って客が少ないのでゆっくり鮨を楽しむことできるでしょう。偶の訪問でも度々顔を合わせる何人かの一人客に遭遇しますので、かなりディープな常連客がついているようです。
赤酢の酢飯の他にもウリはあります。まずはヅケ。湯引いてから漬け込んだヅケは、見た目は真っ白に近いもの。煮切りの味わいではなく、薫香に似たその独特の香りを楽しんでください。蒸鮑は肝も含めて旨みを充分引き出しています。コハダは塩がしっかり振っているようですがそれほど酢で占めておらずそれが赤酢の酢飯にドンぴしゃり。赤身や中トロも質的には上の部類と言えるでしょう。玉子は握りではなくツマミとして供されますが、東京でも最高レベルのものでしょう。そしてお酒。拘った銘柄ではないと思うのですが、この店では不思議とぬる燗が美味しく感じ結構弾んでしまいます。ぜひ酢飯とぬる燗の相性を確認してください。
やや小ぶりの握りのお任せ主体で1万5千円前後。ツマミとお酒を入れると2万円を超えますが、はずれとは言え銀座の鮨屋としては内容を考えると高すぎる価格設定ではありません。季節ごとの訪問をおススメしたい友里数少ない鮨屋の1軒であります。

料理を造ることだけに専念するべきだ、フェア・ドマ

三越前駅近く、リグーリア料理(イタリアの地方料理)を得意とするこの店のオーナーシェフは簡素なHPにブログを書いています。店宣伝の為のHP運営、ブログ公開のはずですが、この店の場合は逆効果ではないか。松橋シェフのブログ内容は、当日のランチやディナーの予約状況がほとんど。満席だ、いや何席か余っている、と書き出し、ランチのメニューを飽きもせず毎日更新しております。ランチはともかく、ディナーは驚いたことにほとんど連日満席なんですね。三越新館の「ASO」が夜の集客に苦しんでいる中、羨ましいものだと訪問して驚きました。入り口には「本日満席」と掲示がでていたのですが、店内は我々を入れて4組しか客がいないんです。テーブルはその倍の収容が可能な数ありますから、店内は寂しい限り。連日満席の店とアピールすれば、そんなに人気がある店なのかと新しい客を引き付けることができます。半分の収容で予約一杯と言うのは「満席偽装」ではないか。姑息な手段を使うシェフだと思い、友里ブログでちょっと取り上げましたら、彼はすぐさま反応してきました。詭弁を弄したその言い訳は、シェフの体は一つなので料理やワインのサービスがてんてこ舞いになってお客に迷惑がかからないようにディナーは「1日4組」を上限にしている、とのこと。素直に受け取るならばその方針に異論はありませんが、ではなぜ一々ブログや店先に「満席」と掲示する必要があるのか。なぜ最初から「1日4組限定」と公表しないのか。本当に5組以上入れたことがないのか。フリの客ではなく予約が主体の店ですから、ブログや店先に「満席自慢」を出す必要はないのです。しかも、この松橋シェフ、厨房にはほとんど居らず、ホールでオーダー受けやワインサービスばかりしています。調理はスーやスタッフに任せているようですが、自分が厨房に入りサービスのプロを雇えばより多くの客に対応できるはず。スタッフの雇用をケチり、「満席偽装」で効率よく客を集める営業と読みました。料理はメニューから自由に選べるコースが5千円チョイ、アラカルトはボリュームもかなりあります。ウリのジェノヴェーゼのパスタは松の実とチーズを溶かした濃厚なもの。悪くはない。豚の煮込みも量多く美味しい。食後のグラッパも種類が多いと良い所もかなりある店だけに、出たがりシェフが謙虚に厨房に引っ込めば、「偽装」しなくても本当の満席になる可能性があると考えます。シェフが裏方に徹して料理だけ造っていたら、結構良い店なんですけどね。