赤酢の酢飯だけがウリではない、すし処ととや

読者からのススメもあって今年初めて行った歌舞伎座近くの江戸前鮨屋。8席のカウンターと荷物置きにしか使われていない小上がりがある、主人と奥さんだけの小さな店であります。友里としては再訪を繰り返す数少ない鮨屋の一つ。「しみづ」とはまた違う雑然とした店内がやや気になりますが、供される握りがそれを充分カバーしております。
まず何と言ってもこの店の一番の特徴は酢飯です。かなり寝かした赤酢と塩で切るやや硬めの酢飯は、極端に酸っぱくも塩っぽくもないですがしっかりした味わいで印象的です。最近は酢飯に赤酢を使う店が増えてきていますが、ただ入れればよいってものではないことがこの店の酢飯を食してわかるというものです。
赤身、中トロなど生のタネもありますが、煮る、〆るといった一仕事した江戸前タネも質、調理とかなり高いレベルにあります。赤酢の酢飯だけではなく江戸前仕事のタネを使った握りとして東京では上位に位置する店と言えるでしょう。
スキンヘッドの主人は一見怖そうですが、奥さん共々気さくで変な緊張感もありません。小さな店内ですからグループや接待には向いておらず、一人、せいぜい2人で訪れてください。月曜が定休日で、火曜と週末は昼営業していないようですが、ねらい目は平日の昼間。夜と違って客が少ないのでゆっくり鮨を楽しむことできるでしょう。偶の訪問でも度々顔を合わせる何人かの一人客に遭遇しますので、かなりディープな常連客がついているようです。
赤酢の酢飯の他にもウリはあります。まずはヅケ。湯引いてから漬け込んだヅケは、見た目は真っ白に近いもの。煮切りの味わいではなく、薫香に似たその独特の香りを楽しんでください。蒸鮑は肝も含めて旨みを充分引き出しています。コハダは塩がしっかり振っているようですがそれほど酢で占めておらずそれが赤酢の酢飯にドンぴしゃり。赤身や中トロも質的には上の部類と言えるでしょう。玉子は握りではなくツマミとして供されますが、東京でも最高レベルのものでしょう。そしてお酒。拘った銘柄ではないと思うのですが、この店では不思議とぬる燗が美味しく感じ結構弾んでしまいます。ぜひ酢飯とぬる燗の相性を確認してください。
やや小ぶりの握りのお任せ主体で1万5千円前後。ツマミとお酒を入れると2万円を超えますが、はずれとは言え銀座の鮨屋としては内容を考えると高すぎる価格設定ではありません。季節ごとの訪問をおススメしたい友里数少ない鮨屋の1軒であります。