日本で一番有名な天麩羅屋、昼も夜も銀座の買い物客や年配客で一杯です。寿司屋の「久兵衛」と同じく、傑出した料理を出さなくても客をひきつけるそのブランド神話に脱帽しました。
久々の訪問はまず昼から。7350円のコースは、突き出しとサラダの後、海老2尾ではじまり魚3種、野菜4種で掻き揚げご飯になります。天汁、レモン、塩に加えてこの店の特徴であるカレー粉も健在。しかし店側は本当にカレー粉が合うと思っているのか。腕の良い職人が良質のタネを上質の油で揚げた天麩羅なら、こんな調味料は必要ありません。肝心のタネの旨さがカレー粉の刺激に負けてしまいます。押し切りで切った穴子はやや生臭く、〆に選んだ天丼もベチャベチャでした。銀座とはいえ、10%のサービス料が加わるとCPの良さを感じません。
間をおかず訪問した夜も満席。客だけでなくフロアスタッフも溢れています。女性スタッフだけで充分な数なのに、更に男性スタッフが2名加わっています。カウンターが主体の店で、マネージャーや案内係の男性が必要なのか。厨房も若い衆がかなりいるようで、固定費掛け過ぎは一目瞭然、CPが良くなるはずがありません。今回は旬の食材が加わるということでお任せコースに飛びつきました。海老2尾の後、確かにメゴチ、ホタテ、タラの芽、蕗の薹、牡蠣、ワカサギ、白魚、海老すり身入り椎茸とアイテムは豊富でしたが質はそれほどでもありません。ウリの海苔で巻いたウニも明礬が強くてイマイチでした。チェック時に明細を提示するのは外人客への配慮なのか。1万4000円となった「お任せコース」に、しっかり「お通し」として400円が加算されているのには唖然。街場の店ではない天下の天一が、コース代金のほかにこんなみみっちい加算をするのはみっともない。加えて私は言いたい。機能していると思えない男性スタッフをリストラしてサービス料を減らす努力をしたらどうか。10数人の客に対して油の注ぎ足しはあったが全交換がないのもケチりすぎ。多店舗有名店にCP良い店なし、はまたまた証明されました。
知名度抜群で集客は順調、銀座天一本店
ただの鉄板焼と寿司会席ではないか、森本XEX
フジTV「料理の鉄人」を覚えていますか。何で選ばれたのか疑問の三代目和の鉄人、森本正治氏。その鉄人を前面に「サルヴァトーレ」や「XEX」を多店舗展開するワイズテーブルがオープンしたのがこの「morimoto XEX」です。
「世界のアイアンシェフ」、「アメリカNo.1ジャパニーズキュイジーヌシェフ」とHPで勝手に表示していますが、ただの民放バラエティー番組で適当に選ばれただけの鉄人。鉄人は番組中の「肩書き」なんですけど、本人とワイズはかなり勘違いしているようです。
六本木星条旗通りに面したこの館。良く言えば洒落たNYスタイル、はっきり言えば派手な成金ダイニングです。2階がプライベートラウンジ、1階が寿司コーナー、地下が鉄板焼とかなりの大箱。寿司も鉄板も1万円から1万5000円までの3コース。アメリカ風日本料理のシェフが考えた〆に握りが5貫出る会席仕立ての寿司コースはハズれる可能性が大。よって無難に1万5000円鉄板焼に決めました。
世界に数台しかないという自慢のスライサーで切った神戸牛の刺身は薄すぎてイマイチ。オイスターフォアグラなるものは2つの食材がまとめて一口タイプで物足りません。
角アイスに並べた魚のカルパッチョも質が良くなくベチャベチャで駄目。寿司コースも同じ質でしょうから期待できません。伊勢海老ローストとグリーンサラダの後、小さな前沢牛としけた鰻が入った櫃まぶしがでてデザートで終わりました。このコースのどこに「世界のアイアンシェフ」の才能を見ることが出来るというのか。そこらの「鉄板焼き」と同じではないか。現在は牛以外に豚や鶏もチョイスできるようですが、これなら銀座の「うかい亭」の方が食材も豊富で満足します。1本数千円でワインの持込が出来るのが唯一の救い。森本氏はHPで「レストランビジネスで料理がしめる割合は3割。サービス、デザイン、音楽、客層を含めたアトモスフィアが7割」と発言しています。この発想が変わらない限り、彼の店で料理を期待することは出来ません。レストランをエンターテイメントと勘違いしている自称世界のアイアンシェフ。「森本とXEXの出会い」とありますが、日本の一般客として出会わなかった方が良かったと考えます。
昼はお得だが夜は高すぎる、いわ井
銀座の有名鮨屋「きよ田」を出る際気がついた向かい側の小さな店、天冨羅 いわ井。かなり前からオープンしていたそうですが、まったく知りませんでした。何となく良さそうな気がしまして、まずは昼に飛び込みました。
カウンター10席の主人と女将の小さなお店。カウンタートップは化粧版、厨房側の壁はタイル張りと高級感はないですが、店内は整然と片付けられており清潔感も上々。「みかわ」とはえらい違いであります。昼の定食は、3150円、5250円、7350円のコースの他、2625円の天丼があります。何回も訪問できないのでまずは最高値のコースを注文。削りたての鰹節をかけた小松菜煮浸しの後、天麩羅がスタートします。海老2尾、冑も2つとこの価格にしては量も質もまずまず。キス、ホタテとレア気味で揚げるのは友里好み。反対にユリネはかなりしっかり火を通していました。穴子もしっかり。当たり前ですが、「みかわ」のように色々なタネをごっちゃに揚げていないのでタネ毎に揚げ管理が出来ています。主人は「天一」出身とのこと、客を詰め込み回転させて利益を優先する営業をしなければ、まともな天麩羅を提供できるという証左であります。特にこの店のウリは野菜でしょうか。シイタケはかなり立派、アスパラ、レンコンと分厚く食感もあり、しし唐は香りも良かった。かなり満足したのですが、期待して訪問した夜では肩透かしとなりました。
コースもありますが、店を信じて「お任せ」をオーダー。つぶ貝山葵漬けの小鉢の後出た海老は、昼と同じく2尾。海苔で巻いたウニ、牡蠣、鮑と高級食材はまずまず。途中に出る「萩の鮪」のヅケの必要性に疑問を感じながら、追加の形で山牛蒡、穴子、ユリネ、イカを頼んで〆は天丼でしたが、支払額が一人2万円を軽く超えたのに私は驚いたのです。料理だけで一人1万7000円前後の計算。これならば、「楽亭」で刺身(4000円)を追加した最高値コース(1万2000円)の方が安いではないか。東京屈指の名店より高いのはおかしい。いくら野菜が良いとはいっても、刺身の量も少なく「お任せ」でも1万3000円前後にしなければ食後感が良くはならない。天丼のタレがやや甘いのも気になるところですが、この店の有効な利用法は昼のコースに限ります。