皿数多く高級食材がてんこ盛り、まとの

友里はどちらかというと多皿コースに否定的であります。またアイテムだけで質を伴わない事が多い、「高級食材」の乱用にも問題提起してきました。多皿コースにすることによって一皿毎の印象を薄めレベルの低い調理をごまかす。鮑だ、伊勢海老だ、のどぐろだ、と質が伴わない食材を味がわからない業界人に出して評判をとる店が多いからです。しかし、私はこの京都の「建仁寺 割烹まとの」へ行き、価格の割にほとんどの皿のレベルが高く、食材の質も高いことに驚いたのです。
1階は6席のカウンターのみ、2階は座敷が3部屋。いずれも靴を脱がなければならないところは友里好みではありません。
〆のご飯まで12皿は出てきます。盛り付けにも気を使っているのか、見た目もよい各皿の量はしっかりあります。
例えばこの日のコース。
先付けは、鮑柔煮とフグ白子昆布焼きと初っ端から高級食材が2種。口取の寒鯖の棒寿司も合わせて質はいい。お椀のタネには伊勢海老が使われていました。出汁はしっかりした味わい。自分的には強めに感じましたが、椀タネには満足です。造りは天然ヒラメの薄造りとシビ鮪など。鮪は普通でしたがヒラメは量も多くまずまず。ポン酢でしたが、この質なら私は厚切りで山葵と醤油で食べたかった。焼八寸の穴子、のどぐろ、炊き合せには聖護院大根、堀川牛蒡、九条葱、油物には白魚や車えび頭、蒸し物には海老芋、車えび、からすみ、と京食材や高級食材がてんこ盛りです。そして質自体が悪く無い。〆に出た伊勢海老ご飯がダメ押しになりました。これで一人1万3000円ですからそのCPの良さに脱帽です。この価格では、量、質と文句をつけるところがありません。伊勢海老は主人の伝で有利に仕入れられるとの事で、この店のウリの一つと聞きました。
多皿や質の落ちる高級食材のオンパレードで肝心の調理から客の目を逸らす戦略の「人気店」が多い中、この店は奇を衒わず、手抜きのない料理をCP良く提供する数少ない店と言えます。東京でこれだけの食材を出すなら2万円でも無理でしょう。友里のイメージする「京料理」とはやや異なる傾向の調理でありますが、観光客が殺到している店で当たりが少ない京都和食では、訪問して損は無い、おススメできる店であります。

店前に放置された「ブツ」を見てビックリ、和楽惣

南麻布にある高額居酒屋ですが、開店前の店先に積み上げられた「ブツ」を見なかったら、友里は訪問しなかったでしょう。店が開く前に配送業者が置いたとみられる積み上げられた箱を見て私は驚きました。なんとヒガシマル醤油の「割烹関西白だしつゆ」の山。こんなモノを堂々と置いたら、「弊店は『業務用の出汁の素』を使っています」と公言しているようなものです。影響力のある有名ヨイショライター「さとなお」氏も褒めていた店だけに私は訪問を決意しました。まずは事前準備にネットからこの「割烹関西白だしつゆ」を1200円ほどで購入。ラベルには大きく赤字で「業務用」と書かれてあり、原材料には「アミノ酸系調味料」の他、蛋白加水分解物や各種エキスなど添加物が盛り沢山です。料理によって希釈倍率が違いますが、吸い物推奨の14倍で味見したところ、不自然に濃くて甘ったるいものでした。
店内はカウンター10席、テーブル10席に個室もありかなりの大箱です。
最初の訪問では豊富なアラカルトに挑戦しました。しかしメニューにご飯物しか金額が明記されていないのはいかがなものか。支払い時に各料理は1000円前後で、客単価は1万円前後とわかりました。刺身類はこの価格帯の店ならまずまずのレベル。しかし、大関納豆(刺身の魚が5種入った玉子で和えた納豆。横綱納豆は10種になる)はアイデア倒れ、ワインを隠し味にしたという黒豚スペアリブの肉じゃがは、ジャガイモと人参がたっぷりながらやはり味濃く甘すぎ。例の出汁を使用していると推測される水菜のお浸し、揚げ出し豆腐もやはり不自然に味濃すぎでありました。全般に甘ったるく味濃すぎで、正に「さとなお」さんや山本益博氏の好みの味付けと言えますが、この味に慣れたらまともな和食が物足りなくなってしまいます。
再訪で6500円のコースに挑戦。〆のカレーまで10皿以上のコースは、この店の味付けに抵抗の無い人以外、つまり本物の出汁を知っている人にはやはりおススメできません。ある日の17時頃、店先で今度は発泡スチール箱の山積みを目撃しました。共同配送で運ばれた魚類だと思うのですが、これを見て客がネガティヴに感じることがわからないのか、「出汁の素」放置といい、リスク管理に甘い店であります。

東京の天然フグ屋にとってこれは脅威だ、臼杵 山田屋

昨年暮れ、西麻布のスタイリッシュなマンション地下に出来た隠れ家的な天然フグ屋です。本店は大分の臼杵で創業100年の料亭。東京の天然フグ屋といいますと、「味満ん」を筆頭に街場の居酒屋かせいぜい小料理屋の店構えが普通ですが、この店は銀座の「やま祢」ほどではありませんが、かなり豪華な内装です。カウンターが5席、個室はテーブルと掘り炬燵の2タイプが2部屋づつとカップル、接待、家族連れなど選択肢は多い。イケメンの支配人や女性スタッフの所作も丁寧です。コースは3種、基本は2万円で小鉢、刺身、から揚げ、ちり鍋、雑炊、果物の構成。2万5000円はこれに前菜盛合せと白子茶碗蒸しが加わり、3万円は更に白子焼きがつきます。内装や人員に固定費をかけている割に、天然物でこの価格設定は安い。肝心のフグ質に期待できないかと思ったのですが、その心配は杞憂に終わりました。
まずは先付けの煮凝りを食べて安心。淡い色づけで上品な味から化学調味料を感じません。美味しい。そして刺身は薄めで1枚引きでしたが、旨みを充分に感じます。これまた旨い。薬味にアン肝と鴨頭ネギが添えられていますが、その助けを借りなくても充分です。上品な味のポン酢も結構。から揚げも衣に妙な味付けをしておらず、中骨部分もありまずまず。ちり鍋は量が少なめだが悪くない。鍋を一度厨房に引き上げたので化学調味料の添加を疑った雑炊も、上品な味わいでありました。このフグ質でコース2万円は、東京ではかなりお得であります。臼杵の本店ではコースが9000円からあるので、本来天然フグは高くないということでしょうか。3コースを取った結論は、2万円コースで充分。白子焼きが食べたいならば単品(5000円)を追加すればいいでしょう。立地、雰囲気、フグ質を考えたら、近辺の天然をウリにしているフグ屋には大変な脅威になる店。この店を知ると、価格は安いがフグ質がかなり落ちる麻布十番の「小やなぎ」、やはりフグ質が落ちる同価格帯の「六本木 浜藤」へ行く客は居なくなると考えます。
ただし酒類、特にワインが高いのが難点。シャンパーニュが小売の倍、日本酒は1000円以下でしたが正1合ないでしょう。ワインを頼まず日本酒でCP良い天然フグを味わってください。