残りシーズンに蟹を食べる気力がなくなった、川喜

東京で評判の京料理屋の主人からぜひ一回行ってみろと勧められた越前蟹料理で有名な三国港「川喜」。週刊誌で山本益博氏も絶賛していましたっけ。遠方なので行く機会がなかったのですが、金沢出張時ちょっと無理しての訪問です。JR芦原温泉駅からタクシーで3000円以上とかなり遠いが、運転手さんも三国港一番の越前蟹を仕入れていて福井で一番と言っていたので期待は更に膨らみました。この店では予約時に蟹の杯数を決定します。競値なので価格は固定されていませんが、2名の場合1杯で5万円、2杯だと8万円が目安だとか。1杯が3万円の計算ですから、勿論我々は1杯に即決しました。
店前に大きな駐車場スペースや看板もあり、観光地の料理屋の雰囲気。入り口横には鰈が干されており今日の仕入れか越前蟹がたらいの中に2杯入っておりました。
すべて個室の座敷対応で、料理はコース形式。蟹は茹でるのに30分はかかるというので、その前に酒に合わせて福井産のツマミがいくつか出てきます。前菜はメカブの炙り。お通しは鰈の肝煮、造りは甘エビ、煮物は地元料理という鰈の汐入、そしてハタハタの焼き物と肝心の蟹が出てくる前にお酒もすすんで結構お腹が張りました。メインの蟹はかなりの大きさで、身の汁を逃さないように、しゃぶりつきながら食べるように主人から教えられます。この店独特の言い回し「しがむ」という食べ方です。確かにジューシーで濃厚な味わいですが、食べ進んでいくと果たして「ずわい蟹」はこんなに大味というかしつこい味の食材だったのかとの疑問が沸いてくるのです。恐らく今までに茹でた蟹の出汁が出た汁で茹であげているからでしょう、この不自然すぎる濃厚な味わいは、その蟹自身だけからのものではないということです。〆の蟹雑炊はほとんどギヴアップ。蟹の顔も見たくなくなりました。適度なお酒を飲んで二人で6万円を超える支払い。翌朝は蟹の写真を見るだけでゲップがでそうになりました。「この店の蟹を食べたらもう他店の蟹が食べられなくなる」ほど美味しいのではなく、濃厚な味に飽きてしまい、残りのシーズンにもう「蟹」を食べる気がしなくなるほどしつこい味の「川喜」。この店訪問だけを目的に飛行機に乗ってはいけません。

銀座とはいえこのタネ質では高過ぎる、寿司仙

私は銀座の人気鮨屋「小笹寿し」を訪問する度に、その2軒先にあるこの鮨屋が気になっておりました。暗い短い路地に2軒の鮨屋が共存する不思議。店先にはお品書きがなく一見客も飛び込みにくい雰囲気に、もしかしたら隠れた名店かもと知人と予約を入れたのです。
まずは下見に一人で昼に訪問。カウンター12席、テーブル2卓と思ったより大箱でしたが、なかなか趣がある雰囲気です。客が居なかったのが気になりましたが、ツマミ少々と握りはお任せを頼みました。トリガイ、赤貝、ミルガイをつまみ、握りは2種のタネを一度に出してきます。ピッチが早く、12ケほどの握りをあっという間に食べ終わった請求は、ぬる燗2つで1万5000円超と驚きの高値。このタネ質と支払い額のギャップ、J.C.オカザワ風に表現すれば、「友里征耶、もんどりうって黒房下へ転げ落ちる」。タネはどれ一つ傑出というか上レベルではありません。鮪類はあまりに冷たすぎ。中トロ駄目、赤身も水っぽい。生の鮑、ウニ、干瓢、イクラ、甘すぎの玉子とどれも×。鯛やヒラメ、コハダ、煮ハマ、穴子も凡庸でありました。厚めに切ったタネをお結びのような丸っこい形に仕上げる握りは、地方の寿司屋で見かけるような無骨な形。酢飯も特徴がまったくなく、これで銀座の有名店と変わらない請求額なのですから噴飯ものであります。そして次週の夜に再訪し、更に追い討ちを食らう結果となりました。
夜なので多目にツマミを頼んだのが間違い。一つのタネで3?4切れを分厚く出してくれるのですが、鯛、ヒラメ、鮪は最近の有名鮨屋と質にかなりの差があります。そしてクライマックスの請求額は何と一人2万7000円ではありませんか。銀座でも最高レベルの支払額です。主人も含めて接客は良いし、マスコミに露出していないので迷いましたが、はっきり書かせていただきます。このタネ質、仕事、握りでこの高額請求は、銀座とはいえ「勘違い」のし過ぎ、あまりに世間知らずというものです。どう見ても、1万数千円の価値しかありません。友里は2軒隣の「小笹寿し」へ食べに行くことを主人に提言したい。夜2回転する繁盛店との違いは何なのか、訪問時他に客は2名だけと集客に苦戦しているようですが、その原因がわかるでしょう。

値付けが良心的な居酒屋風の魚専門店、山形

読者の方が、「この店へ行けばスッポンの本当の値段がわかる」と教えてくれた代々木上原駅近くの店。普通の居酒屋の佇まいで、表の看板には「鮟鱇、ふぐ、活魚、鰻、スッポンの店」と書かれています。よく言えば選択肢のある魚専門店、悪く言えば拘りをまったく感じさせないナンデモ屋。すべて小上がりで靴を脱がなければなりませんので注意してください。
勧められたスッポン1匹料理は1万円でした。2?3人前との注釈がありますから、一人当たり高くても5千円でフルコースが食べられる計算になります。高級スッポン専門店は一人分が2万円以上、普通でも1万円を軽く超えるのが一般的ですから値付けはかなり安い。高級料亭関係者からも、スッポンの仕入れは4000円前後との裏をとりましたから、元々それほどの高額食材ではないようです。
1匹その場で捌いていますから、色々な部位が食べられます。生き血は避けたいですが、刺身には心臓、肝臓に赤身。食べてみて生より鍋に入れた方が良いとは思いました。鍋は丸鍋というより寄せ鍋のようなもので、時間的にもそれほど煮込まれていなかったからか、肉やスープにそれほどの滋味を感じません。しかし、エンペラ含めたスッポンと各種野菜の豊富さには満足しました。雑炊もそれほどの深みを感じませんでしたが、この金額では仕方ないか。
この店で安いのはスッポンだけではありません。「お試し一口刺身」として、鮪、フグ、ヒラメ、オコゼなどが800円ほどで用意されています。試しにいくつか頼んでみたところ、刺身は一切れではなく5切れはあり、一口ではない予想外の量に驚きました。岩牡蠣も2ケ1000円。ネットの絶賛ほどの質の高さは感じませんでしたが、渋谷や湯島近くの有名高額居酒屋よりは上であります。刺身に添えられた山葵が本物でなかったのはご愛嬌でしょうか。
「山形」は質そこそこながら良心的な値付けの魚専門店。季節が合えばフグや鮟鱇も試してみたいですが、鰻はガス火焼きですから考え物です。
問題点は一つ。価格が価格なので接客に期待はしませんが料理が出てくるまでに時間がかかりすぎます。刺身、サラダが20分はかかりました。近くへ来る機会があり、時間に余裕があるなら立ち寄ってみてください。