少なくとも15年前までは東京一のフレンチ、いや日本でもトップのフレンチと誰もが認める店だった「アピシウス」。オーナー一族の内紛の影響もあると漏れ聞きますが、「ロオジエ」に大きく引き離されたこの元祖グランメゾンを立て直すため、昨年から大きなテコ入れが行われています。サービス陣の再生として、メートルドテルとシェフソムリエを外部から招聘し、今春内装リニューアルもして巻き返しにでてきたのです。しかし久々に訪問した友里の結論は、「うーん、この程度の改善では『ロオジエ』には到底追いつけない」。
今では珍しいアールヌーボー調の内装は健在、個室へホールを経由しないで入れるようになり個室好きの人には使い勝手が良くなりました。でもこれは個室を有する店の必須条件でありますから遅きに逸したとも言えます。
この店で評価できることは、相変わらずワインの値付けが安いことです。80年代の有名なボルドーやローヌのワインが3万円前後であるのはここくらいではないか。勿論古酒も安く提供しています。ただ、「ロオジエ」で中本ソムリエが惜しげもなく稀少ワインをお任せで提供するスタイルに慣れた客には「アピシウス」の清野ソムリエは物足りないかもしれません。
料理もグランメゾンとしては安い。前菜は5000円前後、メインも5?6000円でハーフポーション(3500円前後)も用意されています。前菜、メインで1万円前後ですからこの雰囲気ではかなりお得な値付けでありますが、肝心の料理は首をかしげるものが続きました。
前菜はマリネ系が多く偏りを感じます。ギリシャ風野菜がありましたが、これが5000円超はちょっと高すぎでしたが、桜鱒はまずまずのポーション。仔羊は火が入り過ぎ、若鶏は素材の良さが感じないと個々の問題は別にして、全体として料理の創造性を感じず発想が古くなっているのではないか。7割がた埋まったホール客のうち3席が男性客だけの接待客だったことからも、最近のグルメといわれる客層には巻返し策も不発のまま。オープン時スーだった料理人が今のシェフだそうですが、ソムリエやドテルを変える前に、料理人の環境を変えるという選択肢はなかったのか。グランメゾンはシェフの使い捨てが繁栄維持の条件だと友里は考えます。
あの店は今・・・、アピシウス
再開発ビルはやっぱりCPが悪かった、カランドリーノ
史上最年少の28歳でミシュラン3つ星シェフになったマッシミリアーノ・アライモ。日本で知名度があるとは思えないのですが、その北イタリアの3つ星「レ カランドレ」の提携店「イル カランドリーノ 東京」が新丸ビルにオープンしてきました。勿論イタリア3つ星店の直営ではなく、イタリア食材などの輸入商社・(株)アークの関連会社が運営しています。
4月のオープン当時は開店と同時に行列が出来ていましたが、数か月で今や空席も目立つようになりました。なぜ勢いが長続きしなかったのか、答えは簡単、「CPが悪すぎる」に尽きるからであります。
昼のランチは1800円から4500円まで。価格帯は普通ですが、内容がプア。1800円はパスタ(これが少量)と食後の飲み物だけ。ドルチェはプラス500円です。3000円でようやくチケッティ(一口タイプの前菜が3種)とドルチェが加わります。予約するには4500円のコース頼まなければならないのですが、チケッティに名物パスタ「カルボナーラ」、そして魚か鶏肉のチョイスとなります。このカルボナーラ、温玉とオイルを使いアニスの香りをつけているだけで量少なくまったく傑出しておりません。若鶏もまったく凡庸。グラスワインなどを飲んで一人1万円近くになりました。
夜はもっとひどい。本店と同じレシピという1万5千円コース。スペシャリテばかりとのことですが、量少ないスカンピのフリットをカバーしているスパゲッティの揚げ物に疑問。蕎麦屋の揚げそばを真似してどうするのか。甲烏賊とジャガイモのピュレはしょっぱ過ぎ、トマトペーストのラビオリはわずか3ケ、サフランリゾットも少量で、メインのイベリコ豚の24Hr低温ローストは、肉の繊維質を消滅させるほど食感を無くしてしまい、旨みも出切って何の食材か判断できなくなっていました。ドルチェに変えて頼んだチーズ4種がその夜で一番満足だったのですから呆れます。スプマンテが1万円などワインの値付けも高く、皿出し速すぎてわずか2時間のディナーが一人2万5千円以上と最悪のCP感でありました。3つ星提携店として話の種に行くのなら、夜は最安値の4500円コースで充分。3つ星というだけで安易に釣られてはいけません。
あの店は今・・・、あら輝
一説には「日本一予約の取りにくい鮨屋」だとか。「東京一の鮨屋」といった絶賛も耳に入ってきます。確かに2回転時間制限入れ替え制営業の夜は、数か月先しか予約が入らないので「日本一行きにくい鮨屋」であることは間違いないでしょうが、肝心の鮨はどうなのか。数年ぶりに訪問した友里の結論は、やっぱりただの立地の妙に後押しされただけの「過大評価鮨屋」でありました。
主人の荒木水都弘氏、鮨好きの新聞人・早瀬圭一氏の著書によると「水都弘」は本名ではなく当て字だとか。タレントでもない鮨職人が当て字を使うというその発想、いやその「勘違い」に驚きです。
カウンターに横一列に並んだ客が供される同じツマミや握りを同時に食べ続ける様は、養鶏場の鶏と大差ないではないか。傍で見ると滑稽なだけです。
完全お任せのコースですが、星鰈、蒸し鮑、馬糞ウニとアイテム立派ながら質はどうってことない。自慢の赤身、中トロ、トロ、蛇腹のマグロ4連発も時期的な問題もありましたが質イマイチ。名物の「チョモランマ」、中トロ部分を3巻分使った大きな手巻きなのですが、そう有難がるものでもありません。中トロさえあれば家でも出来るレベルです。煮ハマ、シンコ、蒸し鮑、ヅケなど江戸前仕事がイマイチなのは師匠と言っている新津氏の負の面を受け継いでいるからか。玉子焼きどころか、白身の〆物や青魚もなく、これで江戸前鮨なのかと大いに疑問。酢飯も米が違うからか、握りの手数が多すぎるからか変にネバネバしていて駄目出しです。
店内は常連客主体で妙にサロン化して絶賛の言葉が飛び交っています。酔いが回ったからか「こんな美味しい鮨は初めてだ」と突っ伏して涙ぐんでいる客もいましたから、一種の洗脳・新興宗教状態に陥っていると考えます。こんなへりくだった客だけを相手にする職人に進歩なし。江戸前仕事が少ない訳です。上野毛という立地の妙による過大評価職人、銀座など激戦地への移店の噂を聞かないのは、このままではまったく通用しないと本人もわかっているからだと思います。最寄駅からタクシー使って一人2万円前後の江戸前仕事の少ないこの自称江戸前鮨。数か月前に予約して遠方から訪れる鮨屋ではないと考えます。