あの店は今・・・楽亭

「キレがなくなった」、「ピークは過ぎた」、という評判を耳にする事が多くなりました。初訪問から15年以上、確かに老け込んだかなと思いますが、まさかミシュラン初年度版で掲載漏れするとは思いませんでした。調査員は店訪問をしたのか。2009年版では1つ星になりましたが、老け込んでも2つ星「近藤」や「京星」の後陣を拝する店ではないと考えます。
久々の訪問は昨夏。価格は消費税が加算されましたが、刺身が4200円、1万500円と1万2600円の2コース(タネ数がちょっと違う)は昔から不変であります。
そこらの割烹よりレベルの高い突き出し2皿の後、
オプションの刺身が続きます。ポーション大きいマグロはこの時期として脂の感じから近海生鮪ではないと思いますが、白身(カレイ)と共にこの価格では質、量とも満足。その場で摺り下ろした山葵も半端でない量です。
そしていよいよ天麩羅(1万2600円)のスタートです。さいまき海老は4尾。大きさも小さからず旨みは充分。苦みが利いた稚鮎も悪くない。梅を挟んだ大葉の後、かなり肉厚のキスが提供されます。揚げの技術もさることながら、楽亭の天麩羅はタネ質が高いのが特徴です。旬の子イカ、大きめのメゴチも美味しい。百合根もかなりの大きさのものを使用しておりました。ズッキーニとパプリカという珍しいタネも大ぶりでしたが、圧巻は穴子でしょう。これまた肉厚で大きいもの。質と揚げ方も良いからか、私はこの店で生臭い穴子に当たったことがありません。〆の小柱の天丼でお腹は一杯となりました。
チェーン店含めて高額有名天麩羅は都内に多いですが、1万円台半ばの支払額で、ここまでの食後感を与えてくれる天麩羅屋を私は他に知りません。日本酒も1050円から純米が要されておりビールも含めて明朗会計の「刺身」もうまい天麩羅店。刺身を頼んでお酒を飲めば2万円前後の支払いとなりますが、凛とした雰囲気も後押しして充分満足すると思います。
今年になって再訪したところちょっとCPが下がったような食後感にビックリ。読者から主人は最近のTV番組で「値上げ」を示唆していたとの情報をいただきました。長期間値上げしていませんので仕方ないとも思いますが、要は支払額に対する満足感。値上げするなら、今まで以上の食後感を期待しています。

ウリのツマミもパワーダウンか、鮨なかむら

オープン当初は「鮨屋の修業歴ゼロ」をウリに雑誌にかなり露出しておりました。高麗橋の「吉兆」で修業をしたようですが、鮨屋の経験がなくても鮨屋が出来るのか。当初私はこの疑問を「和食の経験だけで鮨屋が出来るなら、鮨の修業はたいしたことがないではないか」と問題提起しました。経験ゼロを「うたい文句」に集客をはかる宣伝はいかがなものか。鮨店修業者はなぜに怒らないのか不思議であります。
オープン当初、若い衆や小僧さんではなく、今は女将になっている女性がつけ場で酢飯や〆の仕事をしていたのには唖然。ただのスタッフが、「江戸前仕事」をしていたのですから、その驚きは半端でありません。鮨屋の修業がないからか、職人以外にも重要な仕事を与える進取の精神に脱帽です。
その後の訪問は散々でした。彼らは私たちの会話から友里征耶だと見破ったようで、連れの風貌やここでしか話していない内容、若い衆が友里を隠し撮りしたという話が、2ちゃんの友里スレにすぐアップされたのです。個人情報漏洩に寛容すぎる店であります。
昨夏久々に再訪してツマミや鮨の変化に驚きました。女将は見当たらず、再び若い衆を2名入れており、変化がないのは独特の「客層」だけ。
有名和食店出身としてツマミの豊富さが評判でしたが、まったくの期待はずれ。煮蛸、蒸し鮑、赤ムツ、バチコ、赤西貝しか出ません。あっという間に握りへ移行してしまいました。これならば、同じ1つ☆でも「青空」や「さいとう」(2つ星に昇格)の方がはるかに充実していて満足します。和食出身の意味がありません。ツマミが少なくても、肝心の握りが良ければ文句は言いませんがこれもかなりひどくなっております。これほど酢飯が無意味にしょっぱかったか。塩の加減を間違えているとしか思えません。せっかくの赤酢の風味もまったく感じなかった。やけに柔らかい中トロ、シンコも塩強すぎ、そして干瓢も塩辛いだけ。マコガレイ、カスゴ、赤身、穴子、車エビ、赤ウニ、いくら丼、アジなど握りは11ヶほどにツマミが5種、ビールにぬる燗での支払いは2万円チョイ。六本木という立地では、高くはないですが、CP含めて食後感はかなり悪いものでありました。業界人以外の方にはオススメできない鮨屋と考えます。

3つ星は荷が重すぎる、石かわ

一昨年末に毘沙門天裏のマンション1階に移転した「石かわ」。カウンター7席のほか、個室が4部屋と大箱化が功を奏したのか見事ミシュラン3つ星に昇格しました。個室が接待客、カウンターは常連かミシュラン読者が主体と棲み分けしているようです。レストルームは豪華の一言。男女別でサティスの全自動、照明まで自動で点灯します。個人の和食屋でここまでの設備は初めて見ました。
この手の店のお約束で料理はコースオンリーで1万5000円と1万9000円の2コースです。久々の昨春訪問で1万9000円コースをオーダーしました。
この店の料理の特徴は、よく言えばしっかりした味付け、はっきり言えば濃い目の東京和食。ご飯ものを含めての9皿は、ほとんどがインパクトの強い味わいでありました。
ウニ、アスパラ、ウドの酢橘ジュレは見た目より強い味ながら悪くはありません。稚鮎などの揚げ物も質が良かった。アイナメと蒸しアワビのお椀も濃いめながら許容範囲内で美味しい。初ガツオのヅケタタキは新玉葱の揚げ物が添えられており、旨みの強さを全面に出したインパクトある一皿です。続いて出た松葉蟹なるもの、時期的には禁漁期間のはずで疑問。太刀魚とタケノコの焼き物で一息つきましたが、ミスジ肉の餡かけから更なる濃い味攻撃が再開です。続く真鱒の鍋物もこの一品だけでは誰でも美味しく感じる濃い目の調理。しかし最後の〆のご飯はやり過ぎでありました。新玉葱と子持ちヤリイカの炊き込みご飯、食材のミスチョイスというか、旨みの強い食材を無神経に使用しているとしか思えません。それぞれ単品で食べればそれなりに満足する調理なのですが、コースとしてのまとまりに疑問。例えるならば、4番打者ばかり並べたジャイアンツ打線のようなものであります。
高級食材の羅列ではないですが、ウニ、稚鮎、蒸しアワビ、カツオ、アイナメ、ふきのとう、クチコ、松葉蟹、ミスジ、太刀魚、真鱒、ヤリイカと種類は豊富。個々の皿は悪くはないがコースとしてのバランスが悪いのはもったいない。ミシュラン3つ星昇格直後の再訪でも相変わらず濃い味攻撃は健在でした。
お酒を飲むと3万円近くになる支払いを考えると、京料理の出汁に慣れた方には話のタネに一回の訪問で充分です。