これまた立地の妙で過大評価だ、初音鮨

一昨年の11月に発売されたミシュランガイドに突如現れた蒲田の2つ星鮨店。業界内でも知られていない無名店で、勿論友里も知るよしもなく最初に訪問したのが昨年はじめでありました。

この店は一斉スタートで夜2回転させる営業です。一番良い状態の酢飯を提供するとの理由で、客に17時30分か20時のみの入店を強いる使い勝手の悪い店。
しかし蒲田に18時前に行ける客がそうはいるのか。この時点で、純粋無垢な蒲田の地元客を狙っている店であることが想像できました。換言すれば、サロン化に繋がる「井の中の蛙営業」と言えるでしょう。
駄洒落好きな主人や愛想の良い女将とのやり取りから飲み過ぎてしまって肝心の握り(ツマミはない)の記憶を失って評価が出来ず、やっと再訪できたのが今春になってからでありました。

ミシュラン人気も落ち着いたようで8席のカウンターは満席ではなかった。予約客が揃ったところで、まずは鮪の大きなブロックからのサク取りパフォーマンスが始まります。
赤身、中トロ、トロと先に人数分切り分けるのはすべてヅケにするから。石宮という有名な卸から仕入れる本鮪なのに、この店は「生」では提供しないのです。

この店の特徴は何と言っても酢飯。と言っても赤酢で赤飯より濃い色にするのが珍しいだけ。鮪なら未だしも、白身や烏賊だとそのコントラストが不気味でありますが、目を閉じて食べれば色以外は特徴のない酢飯であることがわかるでしょう。

握りはどれも小振りで1ヶしかでてきません。それぞれ産地がついたスミイカ、ホシガレイ、赤貝などに旨みを感じず、日本一と言われた蝦夷馬糞ウニと紫ウニは、何と混ぜ合わせて握ってきます。これでは各ウニの質(味も)がわからないではないか。
そして鮪だけではなくカツオも強く漬けこむので味や質がわかりにくい。唯一の〆ものだったコハダは生っぽく、内子を混ぜたワタリガニ(前回はズワイ)も味濃過ぎなど、大味好きか業界人向けの鮨としか思えないのです。

小さな握りが20ヶほどでの支払いが1万円台後半。都心の星付き鮨屋より安いですが、物足りなくて帰宅後ビーフストロガノフを食べてしまった友里。
立地、握り、総量を考えると、食の細い地元以外の人がわざわざ行く鮨店ではないでしょう。

オコチャマ舌の方限定、よろにく

「食べログ」などネットで人気の南青山にある焼き肉店。「特選A5和牛を堪能する大人の焼肉」が釣りキャッチですが、大人的なのはダイニング調の内装だけ。肝心の肉はジャンクやファストフードを食べ慣れた人が好むオコチャマ味であります。

ポーション小さく脂(サシ)が入りすぎた、私に言わせると脂の味しかしない柔らかいだけの肉に、タレ味だろうが塩味だろが添加物まみれとしか思えないほど味付けを濃く(しかも甘い)しただけ。
厚切りでも他店に比べると薄いですから、自慢の薄切りなんて問題外。スタッフが仕切る緩い焼き加減も後押しして、調味料の味しかしない柔らか脂焼肉の連続であります。
牛の色々な部位がありますが、どれも肉の味がしない正にオコチャマ舌専門の焼肉店なのです。

そしてこの店の姑息な営業戦略に問題提起です。ほとんどの客は、一見お得に見えるコース料理をオーダーします。
例えばぐるなび限定コース。7000円ですが、突き出しやキムチ、ナムルに、肉刺身の盛り合わせ、そして8種の部位と素麺にデザートと盛り沢山。部位のネーミングも、「並みじゃないカルビ(ロース)」や「シルクロース」と特別な肉のように思わせる巧みさ。
でも出てくるものは各部位一人一切れだけでしかも薄い。刺身も含めてすべて一口で終わってしまうのです。濃くて甘い味付けは、少ない総量を補って少しでも満腹にさせようとする戦略なのか。
2時間の時間制は仕方ないとしても、わずか1時間でラストオーダーとするのはいかがなものか。しかも料理はその1時間ですべて出し切ってくるのです。
つまり、一見お得に見えるコースメニュー(実は総量が少ない)で客を釣るだけではなく、一時間前に追加オーダーをさせて更なる売り上げ増を狙っているのです。1時間も残っているのにオーダーを閉められると思ったら、そしてコースの総量が少なかったら、客は多めに追加してしまうでしょう。
しかも追加肉(単品扱い)も量を考えると値付けは高過ぎです。

柔らかいだけ、脂が多いだけ、量が少ないだけ、味が濃いだけ、すべて(キムチも)が甘いだけ、と実態はまともな焼肉屋の体をなしていない「よろにく」。
飲み物を入れると客単価は1万円台半ばになりますからCPも悪く、オコチャマ舌の人以外は近づかない方が無難です。

あの店は今・・・、堀兼

友里のデビュー作「シェフ、板長を斬る」で取り上げたのがお気に召さなかったのか、執拗に電話で抗議を受け続けたのが7年前。それまでは創作料理好きを連れて行くなどたまに利用していたのですが、すっかりご無沙汰となってしまったのです。久々に主人と旧交を温めることになったキッカケは、週刊文春の「麻布 かどわき」偽装告発記事でありました。

告発者から、堀内氏が私にコンタクトを取りたがっていると言われ、普段使用していない携帯の番号を教えたのが件の文春発売の数日後。話の内容は、「かどわき」の料理は他の店のパクリがほとんどといったネガティヴなものでありましたが、川島なお美氏と鎧塚俊彦氏の結婚披露宴で料理を造った(正確にはレシピの提供)スターシェフ達へのギャラをまとめ役であるシェフが独り占めして門脇氏が愚痴っていたといった面白いものもありました。後に川島なお美氏の事務所関係に問い合わせ「ギャラは払わずわずかなお車代を鎧塚氏が直接シェフ達に手渡した」と説明を受け、名指しされたシェフにも直接確認して、ガゼネタであったと確認したのです。
その堀内氏から「今度また店に来て下さい」との軽いジャブを打たれてしまった。逃げないことをウリにする友里、スルーする訳にいかず、「かどわき」訪問の数日前に7年ぶりに訪問したのです。

人気店だと思っていたのですが、週のはじめだからかカウンターは満席ではなく、個室に客は見当たりません。ウリだった納豆や大根おろしを巻いて食べるトロの造り、この日は炙ったトロがわずか3片、しかも大葉と海苔しか添え物がなかった。
ただし業界人が大好きな濃い味調理は健在。春野菜の煮浸しはホタルイカを入れて濃い味を更に補強、餡のかかった里芋と生ウニの湯葉包み揚げも味濃く、偶然なのか「かどわき」と重なった花山椒鍋は、肉と花山椒をなんとポン酢にくぐらして食べさせます。ポン酢と花山椒が私には合うとは思えなかった。適度にビールと日本酒を飲んでの支払いが2万円台後半は「かどわき」よりは安かったですが、食後感は似たり寄ったりか。
せっかくのお誘いだったのに主人が友里に気付いてくれたか心配になり、確認のため翌日電話をかけたら気付いてくれていなかった。再び味濃い創作料理店を再訪すべきか現在熟考中であります。