昨年不祥事を起こした「リストランテ ヒロ」の元総料理長や味が分からない放送作家の代表格、小山薫堂氏など業界人が絶賛しているのがかえって足を引っ張っていると思われる六本木の寿司屋「兼定」。それでも集客は順調なようです。敢えてこの高額店を「鮨屋」ではなく「寿司屋」と表したのは、久兵衛出身の主人が供するツマミと握りはどちらかというと私が「海鮮系」として「江戸前」と区別するスシのジャンルに入るものだからです。昨秋のリニューアル後はじめて訪れましたが、店内やレストルームが奇麗になったくらいで大きな変化がありません。店内配置、ツマミや握り、そして支払額は以前とほとんど変わらず満足して店を後にすることができました。
この時期の生イクラ、メヒカリ、枝豆など定番に続いて出たヒラメやアジ、鯖のツマミもまずまず美味しい。カツオはちょっと風味が薄かったかも。鮨ネタではみられないアン肝やハゼも悪くはなかった。10種以上のツマミの後握りへ移るのはいつもの通り。最近は江戸前鮨に慣れてしまって酢飯が物足りなく、煮切りもやや甘く感じましたが、コハダ、ヅケ、中トロ、スミイカと江戸前定番もグッド。カスゴが水っぽく、穴子の塩は個人的に好きではなく、玉子はただ薄く焼いただけと若干の不満はありましたが、ウリである鰺の押し寿司に鯖の棒寿司を食べて機嫌は直りました。
結構飲んで2時間半粘って支払は2万数千円。このタネ質、タネ数では食後感が悪くなるはずがありません。カワハギだ、タイラガイだ、ヒラメの皮炙りだとアイテム多すぎて何を食べたか忘れてしまうのがこの店の難点か。おかげで肝心のエビを食べるのを忘れてしまいました。
他の高額鮨店のレベルが上がって以前ほどの傑出さがなくなった感もある創作系寿司屋でありますが、江戸前鮨信奉者でも高評価を与える人が多いと考えます。毛蟹を置いてある変な寿司屋がお好みで海鮮系寿司屋専門のJ.C.オカザワも褒めている店ですから、江戸前を好まない人にはよりおススメです。
以前主人は2回転させないと言っていましたが、我々の退出を待っている客が20時過ぎに来店していました。「しみづ」や「あら輝」のように売上増目的で時間制にする暴挙に出ないことを祈ります。
あの店は今・・・、兼定
今のままでは埋没か、ダル・マテリアーレ
地番は富ヶ谷ながら、代々木公園駅から徒歩数分のイタリアン「ラ・クチーナ・イタリアーナ
ダル・マテリアーレ」。店名は結構知れ渡っているようですが、客入りは厳しいものがあるのではないか。我々が訪問した日も、10数名のキャパなのに店内は閑散としておりました。HPではシェフの拘りが載っております。店名から素材(マテリアーレ)の良さを連想したのですが、食後感はCP含めて良いものではありませんでした。
この店は面白い営業形態をとっています。「基本料金」として、付き出し、お任せ前菜(3種盛り)、パン、プティフール、カフェのセットが1680円。つまり黙って座れば1680円が自動的に計上されるのです。では、それだけで帰っていいのかというと答えはノー。前菜、パスタ、メインから2皿以上頼まなければなりません。前菜やパスタが1500円ほどですから、それだけで5000円弱。メインも食べると7千円前後と立地や店構えを考えたらかなり高い価格設定です。そして料理の選択肢が少ないのもいかがなものか。前菜、パスタが4種と少なすぎ。特にパスタはロングとミドルの手打ち麺にファゴッティーニ(餃子みたいなもの)とラビオリだけと寂しい限り。メインは魚料理がトマト煮込みとオマールのロースト、肉は仔羊のローストだけと、メインを重視する客を度外視したかのメニュー。
フルセット4000円弱の「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」でも多種の料理を用意しているのです。はるかに価格が高いのですから選択肢を増やさなければ客は満足しないでしょう。客が来ない→回転が悪い→メニューを増やせない、と悪循環に陥っていると考えます。
さて肝心の料理ですが、ポーション小さくどれも印象に残るものはなかった。シチリア風という仔羊ロースト、ただのカポナータが添えてあるだけで質もイマイチ。ワインもロッシバス(白)、タンクレディ(赤)とCP良いものが小売りの2倍以上と頼みたいものがない。
この立地と店構えなら、店名通り素材に拘りながら料理数を増やして6000円以下に抑えるしか道はないのではないか。高価格を維持するなら、内容を充実させてコース1本に絞って客に判断を委ねるという手もあります。このまま方向を修正しなければ浮上は難しいと考えます。
あの店は今・・・、銀座 奈可久
J.C.オカザワが褒めている鮨屋の中で数少ない当りの店と確認し再訪もしていたのですが、この夏、鮨屋の激戦区として知られる金春通り8丁目のビルに移転してきました。近辺には実力はさておき日本一有名な「久兵衛」はじめ、「小笹寿し」、「くわ野」、「青空」と友里も薦める人気店がひしめいています。地代が上がり、果たして以前の食後感を得ることが出来るかどうか、この秋口に友里は訪問しました。
飲食専門ビルの6階、カウンターは8席程ながらテーブルに2つの小上がりと、かなり大箱になっています。2番手の他若い衆、そして女性とスタッフ陣容も倍増し、あの氷柱も立派になっておりました。かなり固定費がアップしたのは一目瞭然、CP悪化を心配しながらツマミからお任せが始まりました。
白魚、カワハギ、海老味噌、トリガイなど高額店で使われるツマミが出てきてビックリ。隣では生牡蠣まででていました。煮物や鮨タネを使っていた以前よりかなりグレードアップと言うか見栄を張ったツマミタネの品揃えであります。良く言えば高級鮨屋の仲間入りですが、ある意味特徴だった「地味さ」がなくなり「高額鮨屋」との差がなくなってしまって少し残念。蛸の桜煮など相変わらず美味しいので、見映えが良くなく仕込みの割に高額請求できないツマミにもっと力を入れていただきたいものです。
握りでは酢飯の酢が少し強くなったような気がしますが充分許容範囲。強めに〆たコハダや白身によくマッチしております。鯖、中トロも良く、この時期難しい赤身も悪くはなかった。気に入っているオミヤの太巻きは2番手が造っていましたが、穴子や玉子がドーンと入っており、やや味濃くなっていましたが相変わらず美味しかった。
気になる支払いは、結構飲んで一人2万数千円。この立地と陣容、そしてツマミの充実では数千円のアップは仕方がないかもしれません。最近の傾向なのか、25時過ぎまで営業しているようで、22時過ぎはフリの客を狙って回転させる方針だとか。相変わらず謙虚な主人の接客は一人客でもゆっくり楽しめることでしょう。このまま勘違いせず真っ当に営業していただくことを願いたい。近辺で「小笹寿し」、「青空」と並んで再訪したい鮨屋が増えて選択に困ることになりました。