残念だがピークを過ぎた、コート・ドール

おかげさまで拙著「ガチミシュラン」(講談社)の売れ行きが好調です。都心の大手書店では、1週間経たず入荷がなくなったところもあったとか。紙面を借りまして御礼申し上げます。
さてこの「ガチ」で友里征耶のオススメ店(2つ星)として掲載しようと考え、久しぶりに訪問したのが9月になってからでした。7月半ばから1ヶ月半、改修を兼ねて長期夏休みをとっていたのは誤算でありました。入稿が8月末となっていたからです。フライングするわけにもいかず、編集担当に締め切りをずらして貰って満を持しての再訪で食べ終えた瞬間、私は再び焦りました。「こりゃ2つ星にするには無理がある。」
数ヶ月前、現職の若手シェフから「コート・ドールの料理は質が落ちている」と聞いて不安があったのですが、見事に的中してしまいました。その夜は団体客も含めてほぼ満席。全盛期でも客入りはそれほどでもなかったですが、結果は予想通りでした。
期待したスペシャリテの「赤ピーマンのムース」はなく「ビーツのスープ」がアミューズとして登場してきます。紫蘇を入れてかなり味濃い。嫌な予兆を感じた瞬間です。
前菜で飛びついたのがポルチーニのフリカッセ(5040円)。フランスでは普通「セップ茸」と言いますから、産地はイタリアなのでしょうか。塩がきっちり入り量もありましたが、各ピースが小さい。大きなポルチーニを大胆にカットして調理して貰いたかった。
オマールのサラダ(3990円)はこの価格で半身もありお得感がありましたが、ナッツを使用していて私の好みではない。牛テールの赤ワイン煮込み(5880円)もボリュームがあって満足しましたが、どの皿も傑出したものを感じません。以前は東京を代表するフレンチの1店だったはずですが、今となっては上の下か、中の上に質低下してしまったと判断しました。
掛け率が安くないワインリストは2万円以上の高額ワインが幅を利かせております。昔はこんなリストではなかったはず。絶対額が安いワイン(1万円前後)が少なく選択肢のないバランスの悪いリストと合わせると、友里として2つ星としての推挙は無理と判断した次第です。
斉須シェフ、もう一度蘇ってください。

あの店は今・・・、吉兆 名古屋店

吉兆ブランド4グループの中で、今でも膨張し続けている(株)京都吉兆。
今年もサミット効果を狙ったのか洞爺湖のウィンザーホテルに支店を出してしまいました。あの「美山荘」が撤退したこのホテルに敢えて7月出店した営業判断、世界的な金融不安で一気に不景気感が広まってしまった今、果たして正解だったのでしょうか。名古屋店に続くこの暴走、イケイケだけの若き店主・徳岡氏の手綱を引く人は吉兆内に居なかったのか。吉兆創業者・貞一翁の「屏風と店は広げたら倒れる」の教えを守っているとは思えません。
彼はミシュラン京都版にも当初は賛成派だったことは業界では有名です。なぜか最近否定する発言を始めているのが不思議です。彼のブログでは「秘書」の書き込みも目にします。堂々と秘書の存在を公表する料理人、典型的な「勘違い料理人」ではないでしょうか。
週はじめと条件は良くないですが、18時過ぎに各フロア(ミッドランド高層階)を歩く客は皆無に近かった。そしてこの吉兆名古屋店も、その夜のホールは我々以外にはわずか1組。あまりに寂しい晩餐でありました。昨年までの盛況はどこへ行ったのか。この7月の昼時も5組しか入っていませんでしたから、かなり厳しい状況であると推測します。
1万5000円の昼懐石が散々な食後感だったので、この夜は奮発して2万8000円のコースに挑戦しました。
前菜のキンメ、赤カブの酢の物は並。続く鱧とシメジ、クワイのお椀はインパクトある出汁で誰でもわかりやすいお味。吉兆らしいと言えばそれまでですが、表面的ではなくより余韻に拘った方が好みです。造りはシビの炙りとトロに伊勢エビ。しかし徳岡さんは伊勢エビが好きですね。有り難がる客が未だ居ると言うことでしょうか。その後は「子持ち鮎」の甘露煮が続きます。お椀の「鱧」といい11月までよく引っ張るとただただ感心。続いて焼蟹、岐阜牛の焼き物、炊き合わせの後またまた伊勢エビご飯で〆となるのですが、このご飯はホント美味しくありませんでした。
京都の有名店は経験していますが、「伊勢エビ」をここまで使用する店は他に知りません。観光客には喜ばれるでしょうが、食通が好むとは思えない。観光客以外は無縁の和食店と考えます。

分とく山

総合 ×  味 △   サービス △  内装・居心地 △  CP △
オープン20年になるようで今年のとある日曜日、記念パーティをやっておりました。
1コースオンリーの和食として、誰でもわかりやすい味付けで多皿料理を提供したのはこの店が初めてではないでしょうか。今でこそ1万円、1万5000円コース1本という高額和食は珍しくありませんでしたが、当時としては画期的ではなかったか。
マスコミに有名で料理道具など通販事業にも勤しむ野崎洋光総料理長でありますが、実は「雇われ」で他店を食べ歩くことをほとんどしていないという実態をご存じの方は少ないのではないでしょうか。
「東京グランドホテル」、「八芳園」といった宴会料理の比率の高いところで働いた後、20代後半と若く「とく山」へ料理長として入店、そのまま「分とく山」の出店と人生の大半を「とく山グループ」に捧げているのです。
他店を食べ歩くことなく20年も自店で創作料理を提供するにはかなりの想像力が必要でしょう。客の要望にも耳を傾けると聞きましたが、土台が宴会料理でその後もほとんど外気に触れていないですから、料理にはおのずと限界がでてしまいます。
良く言えば、誰にでもわかる味付けで質はともかく高額食材を使用した創作料理、はっきり言えば質を伴わない閉鎖された「野崎ワールド」の創作料理とうことです。
オープン当初と違って今は1億総グルメ時代。和食と言えば何でも同じというわけではなく、今は京都から有名店まで東京へ進出してきます。また京都へわざわざ京料理を食べに行く人も多い。同じ価格帯でももっと手の込んだ調理と質の高い食材を提供する和食が東京には存在している現在、江戸風でもなく京風でもない野崎料理、多くの人にわかりやく和食を広めた功績は認めますが、そろそろその使命は終わったともいえるのではないでしょうか。
私の正体がばれている店への訪問は慎重になります。予約は連れにしてもらったのですが、だまし討ちと言われないように、ギリギリの当日、友里が訪問すると店側へ連絡をしての訪問です。おかげで、カウンター内を見られたくないからか、はじめてテーブル席に座らされました。
レンコン豆腐は梅肉が強すぎか。続く前菜盛り合わせはクラッシュアイスの上に盛られているのですが、その中でニシンを真っ先に食べてくれとスタッフに言われました。何とニシンだけ温かいんですね。なぜ氷の上にこんな料理を配するのか不思議です。麩と桃の胡麻和えも食材がマッチしているとは思えませんでした。
お椀は鱧真丈。カツオの強い出汁は別にして、この価格なら鱧そのものを出してもいいのではないか。甘いだけで肝心の鱧の味がしません。
造りのカレイ、鮑、烏賊は普通、太刀魚はイマイチでありました。
夏タケノコに鮎塩焼きですが、すでに骨抜きされた鮎、1匹分ないのでは?焼きもかなり緩かった。
その他、ジュンサイ、鱸、鮑などのアイテム食材がでて〆のミョウガご飯となりましたが、ここのところ京都での食事が続いたこともあり評価基準が上がってしまっているかもしれませんが、以前の私の評価(低評価)を覆すほどの料理には出会えませんでした。
大量生産に近い野崎氏の「独学和食」。同じような価格帯で1つ☆の「小室」や「うち山」の方がまだ本格的な和食の雰囲気(調理も含めて)が楽しめるでしょう。「小十」の1万4000円弱の料理の方がはるかに完成度は高い。
敢えてこの店をオススメするとしたら、高額和食の未経験者か初心者向けだけか。
京料理を知っている人だけではなく、外食好きや和食好きな方にオススメするには無理がある店と考えます。
最後に。連れが是非書いてくれと言った酒類の件であります。
品揃えがプア。焼酎は「黒丸」主体に他に1種だけ。日本酒も常温は「八海山」の本醸造だけでした。
シャンパンやワインを揃える前に、肝心の和系の酒類の充実が先決であると考えます。