高台寺の料亭を旗艦店とする京都の新興高額和食店「和久傳グループ」。京都では鱧は「納涼床」以外(エアコンの入った部屋)では落とさないで温かいまま食べる、梅肉は使わない、と地元の人でも首を捻る蘊蓄を披露するミシュラン1つ星「幸村」主人も支店の料理長をやっていた人気有名店であります。京都和久傳(伊勢丹)では出された「あぶらぼう」の調理法をめぐって女将と問答した友里、高台寺和久傳、室町和久傳と訪問して最後に残ったのがこの「紫野和久傳」でありました。
この店は他のグループ店とかなり違う営業形態をとっております。元々真の京料理なのか疑問でありますが、この店は「典座料理(てんぞりょうり)」をウリにしています。店のHPを信じるならば、「菜食を中心とした医食同源の料理」だとか。ネットで調べたら精進料理の1種であることがわかりました。創作京料理を標榜している新興料亭が、何故に精進料理の店を出したのか。答えは初訪問でわかりました。
この店のもう一つの特徴は朝の9時から20時半までの通し営業であります。午前は「典座の茶がゆ」(2100円)も出すようですが、昼夜の主体は「典座料理」(5250円)であります。京都駅からかなり離れた大徳寺近くの同店へ入店したのは10時半頃。2階にある8席前後のカウンターは2名の客だけでした。
まずは梅ジュース。続いたのが胡桃豆腐と本シメジの紫蘇煮です。添えられた蕪が酸っぱすぎ蒟蒻はかなり味濃い。自家製豆腐とアロエ(梅肉ソース)、海老芋と餅麩のキノコ餡、椎茸のお浸し、銀杏と味噌を挟んだ餅、煮て炒めたズイキ、大根と椎茸の味噌漬け、舞茸のおこわなど総量がありヘルシーさは伝わってきましたが、精進料理の限界を感じます。食材が限定されるため旨みを補填するため味付けを濃くする調理法にせざるを得ないからです。友里の辞書にある「京料理」とはまったく別物の味付けでありました。
12時近くには土産物を両手に抱えた一見で観光客とわかる女性グループが続々と入店してきました。1階は「和久傳」お得意の「おもたせ」販売コーナー。レストルームが1階にしかない設計も考えると、この店は観光客相手にヘルシー料理で釣って「お土産」の販売へつなげるビジネスモデルであると考えます。
単なる観光客釣りの店ではないか、紫野和久傳
多店舗展開の割にはまとも、たん熊北店 本店
東京の名店「京味」の西健一郎氏が修業した「たん熊」系列で、多店舗展開している北店の本店。現主人に代替わりしてから不採算店は閉めたと聞きましたが、それでもHPを確認する限りグループ店は18あります。つい最近も東京大丸に出店していますから、膨張方針に変更なし。「多店舗展開の店にCP良い店なし」が持論の友里、京料理の老舗に数えられる有名店でありましたが、経営方針が引っかかり訪問を控えておりました。
これだけの有名店ですから一度は訪問しなければならないと初めて予約を入れたのは昨年夏。「たん熊本家」は料亭形式なので回避、割烹スタイルの北店本店を選んだのです。
奥に座敷がありますが料理人と相対できるカウンターは2つ。しかしその後2度訪問しましたが、奥のカウンターは使われていませんでした。
初回はコース料理を予約して失敗。料理は悪くはないのですが、隣客が豊富なメニューから好きな料理を頼んでいたのを羨ましく感じたのです。
その時期お約束の「鱧」を主体にしたコースは2万5000円。八寸は造り置きながら手が込んでいてまずまず。造りの鱧は焼き霜に梅肉。ミシュラン1つ星「幸村」の主人は、京都では梅肉を合わせないと言っておりましたが、この老舗は例外と言うのか。鯛は質が悪くないだけに薄造りにしない方が良かった。お椀の出汁はどちらかというとしっかり目で若狭のグジ焼きはイマイチでしたが、鱧の柳川風と蓮根蒸しとまずまず満足したものでした。
単品注文ではどうかと時期を置かず再訪したのは夏の終わり頃。焼き霜ではなく落としの鱧、厚めに引いた鯛と今回の造りは満足。土佐酢で合わせて食べる水貝は、海草出汁に入ったコクある浜松町の「宮葉」に私は軍配を上げたい。前回隣客が美味しそうに食べていた鱧しゃぶ、天然鮎、炊き合わせ、梅ソーメンと単品料理をよく食べよく飲んでの支払いが二人で7万円近となりました。水貝が高かったようでその後冬に訪問した時は2名で5万円前後で、冬期の定番のグジのカブラ蒸しや海老芋もなかなか美味しかった。料理人は休んだらダメになると言う現主人の言うとおり月の休みは数回しかない「たん熊北店本店」、高額お仕着せコース専門の「菊乃井」、「和久傳」グループよりオススメです。
鮮度がウリなだけの串なし焼き鳥、庭つ鶏
鶏の解体免許を持ち、カウンター内でその「捌き」を見せるパフォーマンスで大人気の焼鳥屋。場所は山本モナと二岡選手の逢瀬で全国メジャーになった五反田ラブホの近辺。テーブル4卓にカウンターの小さなキャパに目一杯客を詰め込んで回転させる繁盛店であります。
この店の特徴はカウンターで鶏を捌き、奥で鶏を焼くシステムでしょうか。普通の焼鳥屋と違って目の前で焼かないのです。その訳は焼き物を食べて直ぐにわかりました。
この夜はなぜかJ.C.オカザワのサテライツ(取材協力者)との訪問。初訪問客に強く勧める「お任せコース」に単品を追加してスタートです。
まずは突き出しの納豆に驚嘆。焼鳥に合うはずない。「豆腐屋ジョニー製」の冷や奴は、ねっとり感だけで旨みなし。次の生玉葱もサプライズ。胸肉の刺身には添えられる粉山葵を見てこの店の拘りのなさがわかりました。その後の刺身まで食べ終わらずに次々料理が出され、テーブルは皿で一杯です。ひたすら回転を上げて早く客を追い出す営業に疑問を持ちました。
「庭つ鶏サラダ」は大根サラダに鶏を乗せたものでこれは×を強調したい一品。塩味のモツの煮込みも生臭さが抜けていない。続くササミは柚胡椒と山葵マヨネーズの2種。書いているだけで当時の濃い味が頭に蘇ってきます。ウリのレバーペーストは、軟骨入りでコリコリ感はありますが、これまた臭みが際だつ一品。そしてここから焼き物の始まりです。
手羽先、レバー、軟骨、ハラミ、皮と各焼き物はすべて串を打たれておらず皿は不自然な脂が滲んでいます。おいおい、焼鳥屋なのに串なしだけではなく「炭火焼き」でもないではないか。焼き場が奥なので確認出来ませんでしたが、まるでポワレのような焼き上がりで脂ベチャベチャです。パリパリ感がない「皮」なんて食べられないぞ。
銘柄や産地には拘わらなくとも店内で捌いている「新鮮さ」のウリが無意味にならないか。新橋の廉価店にもある「炭火焼き」で提供してこそ焼き鳥の良さを提供できると私は考えます。
〆のミックス丼はそぼろと「生卵」の合体とこれまたサプライズ。炭火焼きではない脂だらけの焼鳥の支払いは6000円前後と思ったより安かったですが、真の焼き鳥好きは近寄らなくても良いでしょう。