シェフの顔が見えるときは抜群のキレ、レ・セゾン

フォンテンブローなきあと(鉄板焼きの「嘉門」にジャンル替え)、帝国ホテルのメインダイニングとなった「レ・セゾン」。昔は「プルニエ」という魚料理をウリにしていたレストランでした。
フレンチとしての評価がイマイチだったのか2005年にリニューアル。その際シェフとして招聘したのが、ランスにあるホテル「ボワイエ」のシェフだったティエリー・ヴォワザン氏であります。家を売りとばし、妻子を引き連れて日本にやってきたというその意気込みからか、食べログはじめネットでの評判は素晴らしい。
拙著「ガチミシュラン」(講談社)では、値付けが高く種類も少な料理だが、肉料理にシェフのポテンシャルの高さを何とか感じ取ったと記しました。久々に祝いの接待として訪問したのは昨秋でありました。

メインの肉料理は牛、豚、鳩、鴨の4種しかないなど相変わらず種類は少ない。しかも前菜群もコースのものと被っております。よって我々は仕方なく2万5000円の最高値コースを選びました。
ラングスティーヌのコンソメジュレ、ビーフベースのジュレが海老に合うとは思えない。セップ茸のスープは塩強めながらまずまずでしたが、鰻とフォアグラの取り合わせにはミスマッチを感じ、鱸、仔牛の料理も巷の高評価とは違って印象に残るものではなかった。
過大評価なのか、シェフ不在なのか、とにかく落胆の一夜だったのですが、今年になって再訪し考えを一変したのであります。

接待され側にまわった今回の訪問、接待側がシェフと親しかったのか、その夜の料理はシェフお任せでありました。
同じ手長海老でも今回は人参のピュレ。グレープフルーツも効いていて悪くない。ホタテと黒トリュフのミルフィーユ、昨年末にブルージュで食べた「カルメリート」(3つ星)並に美味しかった。
アーティチョークのカプチーノ仕立ての後のヒラメのロースト、蝦夷鹿のベーコン巻きといずれもしっかりした火入れと骨格のあるソースとのマッチングが素晴らしい。増殖し続ける低温ローストとソースなしの手抜き料理だけの3つ星シェフとは別次元の料理であったのです。
シェフが居れば美味いじゃないか。食材や料理の種類が少ないので、シェフの厨房入りを確認し、お任せコースをあらかじめ予約して訪問してください。

土俵と相撲甚句に釣られたちゃんこ鍋訪問、吉葉

昼の平成中村座観劇を1週間後に控えた昨年末、友里は観劇後の外食先の選定に苦労しておりました。2所帯のグループで浅草らしい雰囲気の料理店はないものだろうか。
今年になって問題が発覚した食べログで調べてみたら、上位にランクインしている店は、鴨、フレンチ、蕎麦、ベトナム、鉄板焼き、寿司など下町音痴の友里でも「これは浅草色じゃない」というジャンルばかり。冬なので鍋料理が良いとの意見から絞ったのが「ちゃんこ鍋」でありました。
この「吉葉」に決めた理由は土俵の存在。そして相撲甚句なるものもウリというのですから、ここは何でも経験と予約を入れたのであります。

2階の個室を入れると300席ほどになる大キャパの店。土俵は本物と同じ大きさで、その周りの桟敷が特等席だとか。単品ではなくコースを頼まなければならないという条件をのんですぐさま我々は予約を確定したのであります。

大人が頼んだ鍋コース(6300円)のスタートは海老やアスパラの造り置き先付け。地方の旅館で出されるレベルを確認して造りへ。甘エビ、マグロ、カンパチとこれまた冷凍レベルは添えられた混ぜ山葵とある意味マッチしておりました。
当たり外れが少ないだろうと追加した特撰サラダ(1500円)は、驚くべき量でありましたが、海老や生ハムの必然性を感じません。コースに戻っての焼き物はサーモン。これをようやく食べ終えてお待ちかねの鍋の到着となりました。

ホタテ、つみれ、椎茸、鮭、鶏、豚と具の種類は豊富ですが野菜が少なすぎるのではないか。たまらず野菜を追加してしまいました。
味も期待していたものを感じず、うどんで〆としたのであります。
ちゃんこ鍋だけを考えても、今生き残っているかわかりませんが、「ちゃんこダイニング 若」で昔食べたものの方がもっとマシだったのではないか。これならそこらのもつ鍋屋でたっぷりの野菜と共にモツをかき込んだ方がヘルシーであったと後悔したのであります。

最後にもう1つウリの相撲甚句。桟敷だと目の前で始まりますから、本当に特等席。1000円持っていくと番付をくれるサービスもこの席はかなり有利となります。
料理に拘らず、運が良ければ関取との遭遇(稀勢の里を見ました)と相撲甚句だけで満足する人限定のお店であります。

本職の鮎より他の料理の方がオススメ、鮎正

夏の和食の主役は鱧と鮎。特に京都をはじめ関西では鱧と鮎がなければ夏は始まらないと言われていると聞きました。
最近は京ブームというか東京人の京都コンプレックスからか、東京では和食に限らずフレンチやイタリアンまで、京の食材が溢れるようになっております。この鮎でさえ、東京和食だけではなく、フレンチやイタリアンにまで登場するのですから驚きであります。そんな東京で、長年鮎を全面に出して店名にまでしているのが新橋にある「鮎正」であります。
安くはない価格設定ですが、その圧倒的な人気をネットで知り、昨年何回か訪問を繰り返したのです。でも食後感は以前と同じ。肝心の鮎より他の食材の方が魅力的でありました。

7月の「鮎正」、その人気は半端ではありません。数週間前の問い合わせでしたが、7月一杯満杯で予約が入らない。やっと決まった訪問日は8月はじめでありました。5年ほどご無沙汰だったからか、店が移転していることを知らず迷ってしまった友里、ドアを開けて店内の熱気に驚いたのであります。
カウンターはじめすべて満席。19時前に2回転目に突入する席までありました。カウンター以外はテーブル席になっていたのは有り難かった。

1万円からある鮎尽くしコース、最高値の1万5000円は突き出しを除いて、お椀、造り、塩焼き、揚げ物、珍味、〆のご飯と鮎三昧であります。
高津川の鮎、しかし焼き鮎を入れたすまし椀、背ごしの造り、塩焼きなどメイン料理に傑出したものを感じません。何とかウルカの包み揚げや鮎の焼き焦げ(頭とか尻尾など)を使った鮎ご飯は美味しかったのが救いでありました。
以前の訪問と同じく鮎尽くしには疑問でありましたが、日を変えて食べた天然スッポンコースは昨年食べたなかで最高のスッポン鍋であったのです。

珍しい天然スッポン、一般ウケするインパクトある味わいではないけど、滋味深い味わいは秀逸。血の酒割り、刺身などは別にして、この天然スッポン鍋は一食の価値ありと感じたのであります。適度に飲んで一人当たり2万数千円。他店の養殖スッポンと価格差はありませんから、ぜひ旬の初秋に味わっていただきたい。
友里は今冬、機会があれば続いて「あんこう鍋」に挑戦してみるつもりであります。