一見客が潜り込めない高額ステーキ店、かわむら

紹介制でも会員制でもないのに電話予約がまったく入らない牛ヒレ専門店。未訪問の読者から死ぬまでに訪問したいというメールにサービス精神旺盛な友里は立ち上がりました。
電話予約は1日に翌月の予約を受け付けるシステム。常連客が帰り際に予約を入れるので電話ではらちがあかないと、オープン当初何度か訪問した私は直接店へ出向いたのですが予約を入れることは出来ません。やっとコネを探し出し、訪問出来たのは、1年後になってしまったのです。

久々の訪問は21時からの2回転目。わずか8席のカウンターには、サロンのような雰囲気が漂っておりました。何とか潜り込めた一見客は、このステータスを手放したくなく帰り際に次回の予約を入れてしまうのではないか。
現にこのとき誘った初訪問の連れや死ぬまでに行きたがっていた読者も予約をし、それを見た友里も予約を入れてしまいました。
そしてその時、この店が一見には予約不可能な理由がわかったのです。帰り際での次回予約が最短でも2ヶ月以上先。2回転目もリピーターで満杯です。これでは翌月の予約しか受けない電話予約が入るわけがありません。

この店では肉尽くしのコースをオススメします。いくつかの追加牛料理を頼んでの支払いが5万円弱(ワインは持ち込み)になりますので半端な覚悟では訪問できない高額ステーキ店であります。

牛刺しは上品というか淡泊。提供温度が低く感じて肝心の肉の味がわかりにくい。タルタルはケイパー、エシャロット、トマトを使った角切りタイプ。インパクトはありませんが、女性でも簡単に胃に収まります。
コンソメは逆にかなり濃厚で誰でも絶賛する味です。そして15種の野菜を使ったサラダの次に150グラム以上のヒレステーキが登場します。
特徴は塩胡椒など下味をつけないこと。主人は塩や胡椒によって肉に「雑味」が出ると主張しています。そのヒレステーキもすっきり上品。胃にもたれないのですが、アンガス牛のようなワイルドな肉を好む人には物足りないかもしれません。逆に〆のビスク味のカレーはインパクトある味わいです。

一度訪問してしまうと抜け出せなくなる怪しいステーキ店。支払額が半端ではないので、今後はご要望があっても案内することは出来ませんが、ご興味ある方は何とか伝手を探して潜り込んでみてください。

小料理も出す高額オデン屋、元赤坂 ながずみ

自称美食の王様、友里に言わせると「過食のオコチャマ」の来栖けい氏と親しいお任せコース一本のオデン屋。料理研究家に限定すればビジュアル派と言われる園山真希絵氏が恵比寿に営んでいる紹介性家庭料理店「園山」、その料理長をやっていた小河(おごう)雅司氏が昨年独立して開いたカウンター10席の店です。

私がこの店を知ったのは読者からの告発メール。オープン直前に資金ショートを起こしたのか、来栖氏が自分の信奉者に資金援助を集っていると言うのです。まだ30歳の来栖氏ですが、ヨイショ専門のグルメライターといえど資金公募を堂々と訴えるほど店と癒着して良いものなのか。すかさず友里は実態調査に乗り出したのです。
来栖氏の信奉者といえば、純粋無垢で外食経験も少ない若い女性が主体。飲食店の援助が出来るほど余裕があると人は少ないはずですが、募集内容を知って私は失礼ながら肩の力が抜けてしまった。なんと1口5万円からの出資募集。見返りは食事代のディスカウントでありました。
募集総額がわかりませんがスケールの小さな話ではありませんか。こんな募集を信奉者にかけるくらいなら、9000軒も自腹で外食していると豪語する来栖氏自身が黙って資金提供すれば、店も恥をかかずにすんだことでしょう。

料理はコース1本。家庭料理の延長線上の小料理が4品ほど出てから、唐墨を挟んでオデンが7種ほど、そして牛の焼き物とご飯もので〆となります。
2回訪問しましたが、2皿目には可もなく不可もない茶碗蒸しが定番。魚は薫香つよい太刀魚やウニと水前寺海苔を挟んだ鯛でありました。これまた質、調理とも普通、アサリ出汁の全粒粉蕎麦には驚きました。
オデンは蕗や蕪、大根、お麩、白滝などヘルシーなものが多かったですが、オデンとしては高額店なだけに原価を考えると複雑な思い。定番の牛の焼き物、鯛茶もこれまた普通レベルでありました。

小料理、オデン、焼き物、ご飯ものとダメ出しするほどではないですが(半生の鱒寿司だけは勘弁)、お酒を飲んで1万数千円の支払額を考えると今ひとつ、いや二つほど物足りません。
オデン屋は通過点で小河氏は本格的な和食を目指していると漏れ聞くだけに、まずはこのオデン屋のクオリティを上げる努力が急務ではないでしょうか。

料亭でCPを期待してはいけない、岡崎つる家

皆様は料亭に何を求めるでしょうか。立派な建屋、仲居さん見事な接客、素晴らしい器、手入れされた庭などなど。でもその料亭に料理を期待するのは根本的に間違いです。
建屋の減価償却や維持費、仲居さんや下足番の人件費、高い器の購入とメンテ、庭の手入れと普通の店とは比較にならない出費をしなければ料亭は維持できません。普通の店には必要ない経費が多大にかかるわけですから、料理(食材や料理人)に投資する余裕は経営上あり得えないのです。ましてこの「岡崎つる家」のように、3?5万円コースという高額和食のコースと大差ない価格設定では、料理に力を入れてはビジネスモデルが成り立たないのです。「豪華料亭に美味いものなし」は定説であります。
いつも付き合ってくれる関西の食べ仲間から「今回は遠慮したい」との返事を貰い私はこの定説を確信したのですが、そこは駄目だとわかっていても飛び込むのが友里スタイル。もう一人の食べ仲間と東京からも一人誘って訪問したのは2月の半ばでありました。
週末に近い曜日でしたが、この日の客は我々だけ。さすが世界の賓客が訪問する料亭だと建屋の凄さに驚く私達が通されたのは、自慢の庭が正面に見える掘りごたつ式の部屋でありました。

まずは先付けとして葉付の三宝柑。車エビ、ホタテ、水前寺海苔、土筆、厚焼き玉子など具は多かったけどまったく凡庸。鯛の造りも脂臭くて養殖ではないかと思うほどの質。鮪も普通レベルでありました。お椀は粕汁。鰤、大根、人参、蒟蒻が入っていましたが、客単価4万円の店のお椀としてはいかがなものか。
揚げ物の油目唐揚げ、タラの芽、青唐もどうってことなく、春菊とササミの胡麻浸しが出てきたのにも驚きました。小料理屋へ来たんじゃないぞ。続くは名物の鯛頭山椒焼き。生臭く感じてまったく美味しくありません。筍ご飯だけは満足して〆となったのです。

夜だし時期が時期なので襖を開けっ放しにすることが出来ず自慢の庭を眺めながら料理を食べることができず、20%のサービス料が乗っての支払いが4万数千円。お酒を飲まない人でも3万8000円近くかかります。あまりのCP悪い凡庸な料理の連続に、友里が世界の賓客を税金で接待する身分にならない限り再訪はあり得ません。