傑出していないが銀座ではお値打ち、ほかけ

本業は映画監督と自称していますが、「東京最高のレストラン」を主舞台に、鮨屋だけしか店評価出来ない早川光氏。「きららの仕事」という鮨漫画の原作者でもあるそうです。思い込みの激しいその論調からかなりの高齢者かと思ったのですが、雑誌の写真をみてびっくり。服装のセンスは悪いですが結構若いというか中年の人なんですね。その彼が、実名取材すると(つまり『特別待遇』です)最高の鮨を提供すると10店満点をつけているのが銀座の「ほかけ」です。三越裏の古びた一軒屋。夜営業に絞った若い主人の鮨屋が増えている中、年季の入った主人は昼夜鮨を握り続けております。
この店へ昼入る時の注意点。10席前後のカウンターは「お好み」を頼む客専用です。数千円の「お決まり」を食べる客はテーブルに座らされます。人のよると、この「お決まり」と「お好み」ではそのタネ質などに埋めようのない格差があるというのです。銀座の隠れた名店と言われるこの店では、昼も「お好み」を頼んでください。
さて、この主人、気が短いのでしょうか。客が食べるのを待っている間、指をバタバタさせてまな板などを叩いています。どうも忙しない。早く食べろと言う無言のプレッシャーになります。また、ツマミを投げ捨てるように雑に置くのもいかがなものか。江戸っ子は気が短いと言われても、あまり良い気はしません。
ツマミは厚めのものが3切れずつ出されます。鮨タネしかありませんが、結構食べ応えはあります。
この店の一番のウリがコハダだとか。頭の芯まで痺れてしまいそうに旨いと早川さんは言っています。ネットのレビューでは軽めの〆とありましたが私にはかなりしっかりした〆具合に感じます。確かに上レベルですが、この程度で一々痺れてしまっては、高額鮨屋巡りしたら簡単に脳卒中になってしまいますよ、早川さん。まったく大げさな人です。タネ質は最上ではなく特に鮪は赤身もトロも質が良いとは思えなかった。しかし、ツマミ5種に握りをかなり食べ、ぬる燗を3合に小瓶ビールで一人2万円前後。
昼もちょっとつまんで飲んで1万数千円。銀座の鮨屋でこの価格では多くを望むことは出来ません。タネ質、仕事、価格のバランスを見ると、銀座ではお値打ちな鮨屋でと言えます。来年半ば、三越増床で移転するそうです。

マダムの笑顔だけがウリではない、トルナヴェント

広尾と六本木の中間辺り、地番は西麻布3丁目のピエモンテ料理をウリにしているイタリアンが「トラットリア トルナヴェント」です。オープンしてもう直ぐ1年、ポツポツと雑誌に掲載されているようで、あの煽り専門の犬養裕美子さんも取り上げておりました。私が今春昼夜訪問しての結論は、愛想の良いマダムに一票投ずるものの、さほどピエモンテ色を感じない料理。量や味付けからいってもトラットリアではないと判断しました。
定番のメニューの他に本日のおススメとして黒板に書かれた料理数はかなりのもの。ランチはコースが3種ありますが、単品注文にも応じる柔軟性もあります。前菜ではバーニャカウダ、パスタではタヤリンがありましたが、メインにそれらしきピエモンテ料理が見当たりません。ワインリストもそれほどの拘りを感じさせるものがなく、ホールも決して盛況とは言えなかったので、マダムの接客だけでは苦しい、もっと地方色を出した方がよいと思ったのです。しかし、たまたま目にした雑誌でこの店のポルチーニ料理を見て、今秋久しぶりに再訪した私は、評価を見直したのです。
前菜、パスタに使用するポルチーニがかなり大きく質も良さそう。単品オーダーではかなりのボリュームでありました。黒板にある料理もピエモンテ色が出ており、食指を動かされるものが多い。メインも山鶉、猪などジビエも揃っていてディープ感が出てきました。バーニャカウダはかなり濃厚でグッド、野菜も豊富に添えられております。各種パスタも悪くありません。そしてメインの肉類もシェフの個性が出てきています。こんなによい料理だったのか、と久々の再訪で驚いたのです。拘りを感じないワインストックに不満の方には、1本2千円で持込も可。極めて良心的です。ぜひ、好きなピエモンテ州のワインを持ち込んで楽しんでください。
おススメの前菜、パスタ、メインを単品オーダーしワインを頼むと軽く1万円を突破してしまうのでトラットリアとはいいがたい点がちょっと問題か。店は盛況ですが、あまりピエモンテ料理に固執していないような若い女性客が多くホールはかなり喧騒です。マダムの笑顔だけではなく料理自身がウリになったトルナヴェント、まずは昼に単品を試してお気に召したら夜に再訪してください。

あの店は今・・・、メゾン ド ウメモト 上海

当初は雑誌に料理や内装の写真を出しても店データを非公開にしていましたが、最近は公開しているようです。非公開と言う奇策が集客に結びつかなかったのでしょう。未だ20台半ばの若い料理人ですが、ヨイショ系ライターを取り込み篭絡させる術は料理のレベルをはるかに超えるもの。特に、大食いしか取り柄のない、自称「美食の王様」、実態は「大食いのオコチャマ」来栖けい氏を味方につけての見苦しい宣伝には辟易です。経験のなさを曝け出しているのがわからないのか、相変わらず日本一の寿司屋と奥沢「入船」を絶賛している来栖氏。しかし、常連客でもこの店が数ある都心の名店を差し置いて日本一だとは思っていないでしょう。そんな来栖氏が近著のパン評価本でべた褒した店の社長などを呼んで開いた出版記念パーティの会場に選んだのがこの「ウメモト」でした。評価対象の店経営者との癒着を晒すことを気にしない常識はずれの似非ライターと昵懇のこの中国料理店が、一般客にCP良い料理を提供するはずがありません。
これほどヨイショされ雑誌に露出していても、久々に訪問したその日の客入りは7割程度。味に煩そうな客は皆無でした。
この店のウリはなんといっても一年中食べられる上海蟹味噌料理。チャーハンや坦々麺に使用していますが、なぜ旬以外にも蟹ミソを冷凍でだすのか。答えは簡単。高額請求できるこの食材を使って季節外でも客単価を上げたいからです。単品売りではこのチャーハンや坦々麺は5千円前後とかなりの高額。しかし、マイナス30度に冷凍するとはいえ、蟹ミソだけは冷凍物でも味が落ちないものなのか。食通が鮪の冷凍物を嫌うように、イクラも生の時期を好むように、冷凍物はどんなことをしても質は一段落ちるものです。そしてもっと重要なこと。未だあまり知られておりませんが、夏季には上海蟹よりもっと希少で珍味とされている「黄油蟹」という食材があるのです。香港や地元ではわざわざ暑くなる時期この黄油蟹を楽しむもの。日本でも有名高額店、例えば福臨門でも食べられます。冷凍上海蟹に固執しなくてもその時期美味しい食材はあるのです。客単価が3万円前後で旬の食材を重視せず季節はずれの冷凍物を出すウメモト、似非ライターを信奉する人以外行く必要はありません。