スペシャリテは美味しいのだが・・・、シモムラ

東京ではフレンチが苦戦しているそうです。食材納入業者から漏れ聞くところ、客が押し寄せている店は3つ星の「カンテサンス」と六本木にあるこの「エディション コウジ シモムラ」の2店だけだとか。今は亡き「ザ ジョージアン クラブ」、もう老舗の領域になる「レストラン FEU」を渡り歩いた下村シェフが昨年7月にオープンしたこの店、オープン1年あまりでミシュラン掲載が約束されているとか。話せば誰でも相当な自信家とわかる下村シェフ、「星2つは堅い」と自ら吹聴しているそうですから、ミシュランと何か確約でもあるのでしょうか。
「六本木ティーキューブ」というバブリーなビル1階にあるこの店は、個室とホールあわせて30数名のキャパ。ガラス引き戸の自動ドアが変ですが、内装は品よく厨房含めてかなりの投資をしていることがわかります。
さて最初の訪問は1万5000円コース。スペシャリテを中心にしたお任せです。三陸の牡蠣は柑橘系のジュレや塩水風味のクリームが利いていて美味しい。ブーダンノワールもリンゴ系の味付けをして上品な仕上がりです。そしてスペシャリテ中のスペシャリテは的鯛のカダイフ包み焼きです。パルミジャーノも利いていてこれまた美味しいのです。メインに値するシャラン産の鴨も、島人参、島オクラ、島アスパラが添えられてまずまず。コース4皿ともレベルが高く非常に満足した夜でした。年末に講談社から出版する「ミシュランネタ本」で友里のオススメ店に挙げることを考えたくらいです。
しかしその後訪問した家人の「普通の美味しさ」との発言に驚き、今夏再訪した結果は、「スペシャリテ以外は普通レベル」となりました。
その夜の1万3000円コースは、ウニと人参のピュレ、オマールとジロール茸のリゾット、キスのグリエ、鳩ときわめて凡庸でしかも少量。チーズとデセール4皿でようやくお腹が一杯になりました。人気が定着して原価率を下げたかと勘ぐってしまう出来映え。これではオススメできません。ワインはシャンパン、白、赤とも比較的リーズナブル。グラスワインも1000円台でまともなものを提供しています。テーブルを回る自信過剰シェフの口上とスペシャリテ限定として、話のタネの訪問として1回はオススメします。

江戸料理屋「なべ家」をストーキング ねぎま編

本日で友里征耶の「行っていい店わるい店」はお休みさせていただきます。半年にわたりお付き合いいただきまして有難うございました。さて最後の店はどこにしようかと考えた結果、来月の参考になればと4月限定の料理を出す店にしました。
どこが「江戸料理」なのかさっぱりわからない大塚の「なべ家」。客を呼び込むため季節毎に、手を変え品を変えた料理を出してきます。5月の「川鱒」や6月の「鮎」の時は店名と違って鍋を出しませんが、4月限定の料理は、大谷浩巳氏などヨイショ専門のフードライターたちが絶賛している「ねぎま鍋」であります。
昨年4月に訪問。突き出しは、うるめいわしと甘い玉子焼きは本当にワンパターン。これが「江戸料理」だと開き直られたらそれまでですが、どうってことないもの。しかもこの玉子焼き、口に含む瞬間、油の匂いをモロに感じます。毎回一品変わる突き出しの皿は、鮪のヌタ和えでした。まったく凡庸だったのは予想通りであります。
続いてお椀の代替なのでしょう、「豆腐粥」の登場です。出汁はカツオが強過ぎですし、安くて手間のかからない椀タネですから調理は楽なものです。
造りは鯛とさよりで、炒り酒が添えてあるだけの平凡な質でありました。
毎回こんなもの出さなくていいと思う「出汁入り蕎麦」も健在。蕎麦は他店から仕入れているとも聞きましたが、この出汁が甘すぎて話になりません。
そしてメインのねぎま鍋。ぶつ切りというか角切りが一人4片にセリ、若布、白葱、ウドなどが添えられています。身が厚いとはいえ、かなりお歳を召された女性スタッフは火入れに寛大なようで真っ白になった鮪を鍋から取り上げます。かなり大量に胡椒を掛けることを推奨されますが、脂がしつこい鮪(質が良くない)を使っているからと読みました。そして〆は白飯にこの出汁をかけた「汁かけご飯」であります。うーん、油臭い玉子焼き、カツオ強すぎの豆腐粥、平凡な質の造り、出汁に鮪と野菜入れただけの鍋、と高度な調理レベルをまったく感じないこの「江戸料理」。お酒を飲んで一人2満数千円でしたから、「ねぎまコース」は1万8千円ほどと読みますが、家庭料理の延長線上としか思えないだけに、4月限定という「釣り文句」に引っかかって訪問する必要はないでしょう。

豚シャブ屋にしては高過ぎないか、豚組しゃぶ庵

この店が属するグループは、「ひらまつグループ」の原点「ひらまつ亭」があった西麻布4丁目のビル地下の居酒屋「せいざん」が出発点であります。その後交差点近くにワンコインの立ち飲み屋をオープン。外人客で盛況でしたが、この辺りから経営元の「株式会社グレイス」は拡大路線を取り始めました。4800円のイベリコ豚をウリにしたトンカツ屋「豚組」が当たり、立ち飲み屋も赤坂に増やし、昨年ついに六本木にこの豚シャブ屋をオープンしたのです。グレイスの売上が2億6000万円、これだけでも驚きですが、今期の目標はこの「しゃぶ庵」の売上を見込んでか目標が4億3000万円になっております。居酒屋「せいざん」もいつの間にか「豚料理屋」に鞍替えと、急激な膨張と方向転換がちょっと気になります。
今年はじめに編集関係者たちと新年会で訪問してビックリ。100席以上の超大箱店で、ホール以外に個室ゾーンが広くVIPルームも2部屋あるのです。IH加熱調理機をテーブルにはめ込み、ルクルーゼの鍋をセットし、男性スタッフは若くビジュアル系を用意、と「せいざん」時代を知る友里としてはのけ反るばかりの衝撃でした。
突き出し、6種の前菜、しゃぶしゃぶ、麺のコースが豚の銘柄毎に8種ほど用意されています。2900円の「けんとん豚」や3500円の「黒豚」は許せるとして、「白金豚」が5400円、イベリコに至っては1万円というのはいくらなんでもやり過ぎではないか。
濃厚な胡麻ダレを避け、塩出汁や塩胡椒で食すると安いコースでも豚の旨みを感じます。確かに悪くはない。一日2回、タイムサービスの焼き豚のワゴンでの提供(900円)も面白い趣向です。
でも3人で馬刺しや追加肉を頼み、5千円前後のワイン(ボジョレーもの)を2本飲んでの支払いが4万円弱には言葉を失ってしまった。
今回は自腹ではなかったのですが、この支払額を知ってしまうと再訪は難しい。同じ六本木の高級シャブシャブ「瀬里奈」(勿論牛肉)でもワインを持ち込んでVIP会員の割引を使ったらこの支払前後で終わるはず。あまりに高い豚肉屋ではありませんか。週末なのにほとんど客が入っていませんでしたから、1億7000千万円売上増が絵にかいた餅にならないことを祈るばかりです。