鉄板焼にバブリーな内装が必要なのか、表参道 うかい亭

ミシュラン2009年版では1つ星をとってしまった鉄板焼店。バブリーなビルにバブリーな内装で、周りから完全に浮いた存在でありました。お金をかけた内装ですが、床は段差があってバリアフリーでないのが理解できない。設計者や施主は何を考えているのか。個室もドアがなく中途半端であります。今回は個人的な接待だったので最高値の2万4150円コースを頼みました。
まずはホタテのムースとコンソメジュレ。キャビア(オセトラ)も乗せて見た目はウケますが、ムースが生臭くジュレはコンソメの濃度が低い。続いて小さい伊勢エビが半尾出てきます。目の前の鉄板ではなく、厨房で調理してくるのが疑問でしたが、添えられたコライユソースはまずまず。続くトリュフ入りのコンソメスープはジュレと違ってまずまずでした。パフォーマンス色が強い鮑の岩塩蒸しは、ケイパー、レモン、エストラゴンから生ワカメまで乗せて蒸し、アサリのバターソースとポン酢(芥子と葛粉入り)で食する濃い味好きにはウケる一品です。追加で頼んだ鹿児島産のタケノコ(3本3150円)はまずまずでありました。鮑の肝がパセリソースと共に供されて主役の牛の登場です。
サーロインかヒレのチョイスですが、コースの基本は100g。薄すぎて火入れも難しいと判断して150gとしましたが、鉄板焼きそのものの限界か何ら傑出したものを感じません。〆のガーリックライスとデザートを食べての支払いはワインの値付けが高いこともあり1人4万5000円超と超高額となりました。
グラスシャンパンの最安値が2940円でしかもそれはロゼ。わざと高いものを用意しているとしか思えません。生ビールも950円とボッタクリに近く、ボルドーではCPよいとされている「バタイエ」や「ポタンサック」も1万5000円超はいかがなものか。このレベルなら、せめて1万円前後にすべきと考えます。呆れたのがイタリアのレアワインの値付けです。2000年の「カーセバッセ」がなんと8万円。まともなイタリアンでは3万円以下、小売りでも2万円台なだけにやり過ぎです。
鉄板料理としてはそこらのホテルと同レベルではありますが、高いワインを考えるとわざわざ訪問するべき店ではないと考えます。

本物志向ではない郷土料理の入門店、インカント

ほとんどの州の料理を網羅していると思われる料理の多さとワインがウリのイタリアン。広尾駅からちょっと離れておりますが巷の評判は良いようです。店内の照明に加えてソムリエの性格も暗いからか、イタリアで感じる活気さはないですが料理の種類は半端ではありません。
オススメはインカントコースというプリフィクススタイルが6800円。アラカルトメニューからすべての前菜、パスタ、メインが選べる(300円から500円の追加料金の料理もある)システムは使い勝手がよいのですが、それぞれ15種はある料理、3皿を選び出すのが大変です。
郷土色を演出したいのか、各料理には「州名」が明記されておりますが、北と南では料理の傾向がかなり異なります。中国料理にも言えますが、一人の料理人がすべての郷土料理を習得することは不可能に近いはず。果たしてイタリア全州網羅的なインカント料理を2回食した結論は、「イタリア郷土料理の入門店止まり」でありました。
まずはアミューズが3種。マダイのカルパッチョが2回の訪問とも被っておりました。スープやキッシュを含めて可もなく不可もなし。温野菜(バーニャカウダ風)やカリフラワーのピクルスなど野菜料理は量があるものの郷土色を感じません。シチリアの代表的な鯖とフェンネルのショートパスタは悪くはないがシチリア専門店のデュープ感がない。蝦夷鹿と牛の赤ワインラグー、ピーチ(太麺)でトスカーナ風とわかりますがこれまた地元色が薄い。サルディーニャの屋台風という馬肉もどこがサルディーニャなのか理解できませんでした。トスカーナ風黒豚のヴァプールに至っては、火入れが強過ぎるのがトスカーナ風なのか。無難な調理で万人受けする「イタリア郷土料理入門店」と判断した次第です。
ワインは安くない。3万円前後のレアワインに関しては、中目黒の「イカロ」より5000円から1万円は高い。グラスワインは白・赤で20種ほどあるようですが、抜栓されたボトルは密封式のバキュバンではなく抜いたコルクをねじ込んだだけのものもありました。見た目も悪いですから統一していただきたい。
イタリア地元料理の経験が少ない方には良いですが、本場を知っている方には物足りない郷土料理店と考えます。

この時期でも客入りは悪くない、銀座 矢部

まさか未曾有の不景気、100年に一度と言われる危機的経済状態の時期に銀座に出店することになるとは予想していなかったでしょう、銀座 矢部。新宿の店(矢部)の常連客であったビルオーナーに誘われてこの銀座ビルに出てきたのがリーマンショック直前の昨年8月。外食をしながらも自社ビルへのテナント誘致を忘れないという、その常連客の営業努力に脱帽です。
昨年秋、友里以上にミシュランガイド日本進出に敵対意識を持っていると思われる幻冬舎の「月刊ゲーテ」で、「東京一の和食」のように絶賛されていたのを見て、訪れたのが昨年末でありました。
時は不景気のまっただ中で師走といえども集客に苦しむ店が多い中、カウンター、個室ともそこそこ盛況だったのが意外でありました。主人は同伴カップルが少なく回転が足りないと言っていましたが、この時期ではそれは贅沢というもの。今年になって再訪した時も7割方は埋まっていましたから、満足するべきと考えます。
最初の訪問ではオススメの5000円フグ刺しを
追加して2万円コースとしましたが、更にオススメの白子焼きを追加してしまい、一人3万円を突破してしまいました。突き出しのゴマ豆腐はウニ和えと蒸し鮑もついて思ったより薄味で○。スッポンの茶碗蒸しもまずまずでしたが、肝心のフグ刺しは既に切り置いてあり薄くて皿に張り付いた一品。主人は質を自慢していましたが、その質がわかるポーションではありません。その後の造りも傑出した質ではなかったが許容範囲内、炊き合わせ、カラスミと続いて蕎麦で〆となりました。CP的には若干疑問が残ったので、機会を見て再訪したのが今春であります。
アオリのヌタ、アン肝などこの店の突き出しは相変わらず○。若竹椀は味濃かったですがまずまず。造りはまたもや普通でしたが、なぜか追加ではなく出てきたトラフグ白子焼きは接待客にはウケました。海老入り飛竜頭(ガンモ)や鮑、そしてアンコウ鍋まで出て蕎麦で〆ての支払いが今回は2万円チョイ。結構日本酒を飲んだはずですがこの支払額なら食後感が悪いはずがありません。追加なしの1万5000円コース限定なら、傑出さを感じませんが平均点以上。銀座の和食としてはリピート可であると考えます。