さらばピンキオーリ

長引く不景気で経営が苦しくなったからか、1990年代に一世を風靡したイタリアンのグランメゾン「エノテーカ・ピンキオーリ」の年内閉店が今春発表されました。
イタリアンなのになぜかフランスワインが豊富で、特にカリスマ造り手の希少ワインをテーマにしたイヴェントの参加費は一人10万円近かった。最盛期(1990年代半ば過ぎ)には毎月このようなイヴェントを開催しておりましたが、参加者は後を絶たなかったのです。

料理だって悪くはなかった。当時としてはコースが1万円?2万円と破格の値付け。でもそれなりの食後感でしたし、アニーさんが来日したときは更に美味しく感じたものでした。
個室以外に大小2つのホールがありましたが、イヴェント以外の日でもかなりの席が一杯だったのです。それが今では小ホールは閉鎖され、肝心のメインホールも客は数組と悲惨。集客に転機が訪れたのは今世紀になってからかでしょうか。

レストランはやはり料理が基本。訪問する度に食後感の劣化が気になっていたのですが、それでも友里がたまに訪問していた理由はワインでありました。
リストのレアワインはオープン当初より破格の値上げとなっておりますが、この店には独特のシステムがあるのです。2名以上の制限がありますが、レアワインを白赤3?4種選べる「デギュスタシオンコース」が5万円以内(一人当たりの単価です)でいくつも設定されております。フランスやイタリアの誰でもが知っている高級ワインやレアワインを新品(目の前で抜栓)でしかも実質飲み放題(おかわり自由)で楽しめるシステムです。
2万円前後のコースでも、ボトル1本が普通の店なら数万円する代物ですから、2?4人でこのシステムを利用すれば凄いお得感がでるのは誰でもわかることでしょう。
しかしそのシステムが認知されていなかったのか、ワイン好きが減ったからか、料理がそれ以上に劣化してしまったからか、客数は減る一方であったのです。

今秋閉店を惜しんで再訪しましたが、仔羊にバナナ風味をつけるなど疑問の皿があり、料理にはがっかりしました。
投資対効果をワインに関してだけ考えると非常にCPの良い店。キャパがもっと小さくて、もう少し料理に注力していたら、閉店といった結果にはならなかったかもしれないだけに残念であります。

東京最高の過大評価店か、アニュ

焼き肉や総合格闘技などがテナントとして入る広尾商店街はずれの垢抜けないビル。その一階にブロガーやヨイショ系ライターが絶賛するフレンチ「ア・ニュ ル トゥルヴェ・ヴー」があります。

広尾の場末とはいえワンフロア(60坪前後)のオープンですから私はその自信の大きさに驚きました。坪2万円前後(入っているSR広尾ビルのネット募集より)ですから、賃料だけでも月120万円。
オーナーシェフと自称する下野昌平氏、独立前の代官山の「ル・ジュー・ドゥ・ラシェット」雇われシェフの時訪問して、その料理の不可解さ(はっきり言うと美味しくない)に唖然とした友里。
資金力とネットの高評価が理解できす早速情報集めに徹したのです。

シェフ本人は隠しているようですが、彼の奥さんは誰でも聞いたことがある飲料メーカートップの令嬢だとか。高額ワインも大人買いする資金力の根源は奥さんの実家だと業界内ではもっぱら噂であります。

ではネットの高評価はなぜなのか。それは有名ブロガーの懐柔という新戦略。自己顕示欲旺盛なセミプロとも言えるレストラン訪問ブロガー、下手なライターより有名で影響力もあるようで、彼ら(彼女ら)をタダ飯で釣って高評価を引き出しているだけなのです。

初訪問で頼んだ1万5000円お任せコースは奇を衒っただけのサプライズ料理の連続でありました。意味不明な一口アミューズのあとに出てきたのがベーコン粉末のタケノコ。アスパラのブランマンジェは人工的なトリュフオイルの匂いが強すぎです。
蒸し上げ鮑は塩胡椒のジュレが添えられ、フォアグラは苺のソース。再び出てきたアスパラ、今度は揚げておりました。シェフは「串の坊」でも修業したのでしょうか。

稚鮎のフリットも低温揚げなのか生っぽい外観で不気味であります。そしてオマール(ロースト)の後の〆は予想通り低温調理のような仔羊でありました。
時代遅れになりかけている泡仕立てのソースに振り掛けられた山椒の葉の量が半端ではありません。山椒や泡ではなく、仔羊にはもっと最適な調理があるではないか。
シェフにはパリの3つ星「ランブロワジー」で仔羊を食することを是非オススメしたい。

この手の店の先駆者「カンテサンス」と同じく、引き出しの少ないシェフと判断した次第であります。

これほど食後感が落ちていたとは、と村

拙著「ガチミシュラン」までは高く評価していた東京の京料理店「と村」。主人からは「京味」出身としか聞いておりませんでしたが、ミシュランではなんと京都で13年間修業を積んだとありました。どうやらその京都の店は「嵐山吉兆」のようですが、主人からは吉兆の「き」の字も聞かなかっただけに私は驚いたのです。
来春出版予定の友里征耶初の「オススメ本」に掲載するための確認で久々に訪問したのが今年の初夏。今までの訪問からオススメ掲載は鉄板のはずだったのですが、あまりの食後感の劣化に掲載を泣く泣く諦めることになったのです。

相変わらずバイト然とした女性スタッフは健在。主人の好みとはいえ和食はキャバクラではありません。年齢ではなくきめ細かい接客が第一であります。
昔は1万5000円からあったコースが現在は最安値で2万3000円に跳ね上がっております。高い3万円コースとの大きな違いは蒸し鮑が出るかどうかとの経験から、この日はこの最安値を頼みました。

まずは蛤の潮仕立て。初訪問で感嘆させられた一品でしたが、口に含んで味が濃すぎと判断し不安がよぎったのです。続く飯蒸しは渡り蟹の内子。おいおい、こんなに甘い味付けだったかよ、と心の中で叫んでしまった。
天然車海老の油くぐらしは立派な大きさ。茹でるより高温油にさっとくぐらせた方が旨みを逃がさないとのことでしたが中は半生の海老、まずまずながらこれが京料理とは思えません。半生のホタルイカも酒と塩だけで漬けこんだとのことですが、不自然な旨みに疑問。

焼き茄子(ウニ乗せ)は、甘すぎる田楽味噌が邪魔でわざわざはずして食べました。
そして再び海老の登場です。この店の名物という東京湾の赤座海老の塩茹で、赤座海老なら茹でても旨みが逃げないのかとの突っ込みはやめましたが、コースにデカい海老を2つも出す意味があるのかどうか。しかも京料理を看板にする店で。
鯛の造り、グジの焼き物もまったく傑出さを感じず最後の確認と追加で頼んだ鱧の焼き霜や筍も挽回するどころか評価を下げる一品となってしまったのです。

食材や調理が京料理と思えないものが多く紛れ込んでいる「と村」。極端に甘い味付けは、本場の京料理とはほど遠いものと判断し、オススメ店からはずすことになりました。