オヤジ向けなのになぜか女性に人気、サラマンジェ

未曾有の不景気で特にフレンチの苦戦が伝えられておりますが、その中で何とか頑張っているのが最近出店が目立つ「ビストロ」でしょうか。この虎ノ門にある「サラマンジェ ド イザシ ワキサカ」のコンセプトは、更に客層を絞った「オヤジのビストロ」であります。
店内はテーブル3卓とカウンターと16席前後の小さなビストロ。しかしカウンター含めて肝心のオヤジがほとんど見当たらず、女性客や若いカップル客であったのが意外でありました。
キャパが小さい店でありますが、単品メニューは豊富。ビストロ料理の定番もほとんど網羅されていてビストロ好きな友里には有り難かった。
牡蠣の5分間スモーク(4ヶ1800円)はトマトのジュレがアクセントでまずまず。ネーミングが差別的で心配な「貧乏人のフォアグラ」(900円)、あまりに安いので不思議だったのですが、豚レバーしか感じないパテでありました。安いわけです。リヨンサラダ(1400円)はちょっと鰯がくどかったが量と価格を考えれば充分か。アンドゥイエット(豚バラの腸詰め1800円)、ブーダンノワール(豚の血のソーセージ900円)、カワカマスのクネル(半片みたいなもの2500円)とディープなビストロ料理も完備。最近はビストロと自称していても料理数が少ない店が多い中、評価できる営業姿勢と考えます。勿論味も悪くはなかった。その他の料理も豚バラ肉のビール煮(2500円)は黒ビールの風味が利いていて美味しい。エゾシカのロースト(3600円)はこの店の業態では高い気もしますが、赤スグリと胡椒を利かしたソースでまずまず満足。チーズも2名で2400円の請求と良心的でありました。
ワインはグラスシャンパンが1200円でボトルが7000円、スティルワインはボトルで4000円からありブルゴーニュの村名が7000円と値付けはこれまた良心的であります。
サービス料はないけどアミューズとパン代として400円の請求にちょっと疑問ながら、3名でビールにグラシャンにワインをボトルで2本頼んでたっぷり食べての支払いが4万円台後半。食べ過ぎ、飲み過ぎで想定より高くなりましたが、また再訪したくなる「ビストロ」でありました。

XEXと出会って欲しくなかった、森本

ミシュランガイド2009年版では不掲載になると思っていた六本木の「森本XEX」。一民放のバラエティ番組で「和の鉄人」と祭り上げられてその気になった森本氏が、「サルヴァトーレ・クオモ」や「XEX」を多店舗展開する「ワイズ テーブル」と手を組んで六本木にオープンしたのが2005年9月。「和の鉄人」と自称している「アイアンシェフ」が選んだコンセプトは、鉄板焼きと寿司の融合でありました。アメリカでウケただけの似非和食料理人の凱旋が果たして日本の食通に受け入れられるのか。オープン直後に訪問した友里の感想は、「ただの鉄板焼屋」でありました。拙著「ガチミシュラン」の取材で久々に再訪し昨年の結論は、「単純に美味しくないだけの料理店」となりました。
現在はメニューが変わっておりますが、最高値のコースはどの料理も最悪。
バーニャカウダはアンチョビとガーリック以外に「蟹みそ」が入っていて仰天。車エビの鉄板焼きは黄身ソース。甘すぎてこれまたハズレの一品です。コースに入っていた中トロ、鮑、鰺の握り。スポイトで醤油をかけるスタイル以前に、肝心の酢飯、タネとも最悪に近い。牡蠣やウニだけではなくフォアグラにまでかかっていた甘い餡、鮑のジェノバ風と濃い味ソースの連続はいかがなものか。食材の質をごまかす手法としか考えられません。メインのわずか100グラムの和牛ロースにも驚きました。「森本ソース」なるものは、ゴマ油、ニンニクに生姜の合体で、質悪い肉の味を隠しております。100グラムですから肉は薄く、ミディアムレアを指定しても火が入りすぎます。肉自体も単に柔らかいだけで味わいに欠けるもの。コンセプトの中心である寿司と鉄板焼きの総崩れであります。濃い味料理の連続なのに、〆のガーリックライスだけが緩い味付けなのが意外でありました。
素材と鉄板焼きの技術を補う為に選んだ調理が「濃い味攻撃」。この料理のどこが和食と言えるのでしょうか。2年も続けてこの店に☆を提供したミシュラン、自慢の日本人調査員自体が経験不足で真の和食を理解していないという証左であります。
HPには「森本正治とXEXの出会い」とありましたが、出会って欲しくなかったと思うのは友里だけではないでしょう。

移転による値上げでCPは並になった、つか本

細い行き止まりの路地先2階という立地の妙と、5席の小さなカウンターに主人が一人での7000円コース(1万円もありました)がウケたのか、知る人ぞ知る京都の若手有名店であった「そったく つか本」。先斗町から祇園に移転してから初めて訪問したのが去年の秋でありました。
新旧問わず東京の料理人(鮨職人も含む)に銀座を目指す人が多いように、京都の料理人には「祇園」の響きは特別なのでしょうか。この「つか本」も昨年6月に祇園の南に移転してきたのです。
一軒家風の1階にカウンターはL字型の8席、奥に厨房も完備、スタッフも1名雇ったバージョンアップの代償は、コース1万3000円の値上げとなっておりました。
まずは季節物として丹波の栗、海老、イチジクの白和え。可もなく不可もない先付けでスタートしました。子持ち鮎の煮浸しは茄子、高野豆腐とも薄味でまずまず。造りの代わりなのでしょうか、鰤の冷しゃぶはオロシポン酢がかけ過ぎで肝心の鰤の味が消されています。土瓶蒸しの鱧松、軸が噛み切りにくく、質が良いとは思えません。出汁も深みなく価格通りの食後感でありました。鯖の棒寿司(2切れ)はレア感を意識しすぎたのかちょっと〆が甘く鯖の旨みが引き出されず飯も緩かった。反面、濃いめの味付けながら鴨(本シメジ、松茸付き)の炊き合わせはまずまずで、紫ずきん(丹波産枝豆)のずんだ餅は餡の出汁が美味しかった。その後のグジ饅頭にオロシ蕎麦(〆は蕎麦が定番)も価格を考えれば納得する出来でありました。
ビールに日本酒を飲んでの支払いは一人当たり1万6000円前後。東京の1万5000円和食よりは満足度が高いものでしたが、当初の7000円や1万円コースの食後感を考えるとCPの劣化を感じます。主人は「産地」を強調しますが、食材にそれほどの質を感じませんでした。
1万3000円という設定が難しい位置づけであるだけに、どうしても中途半端な食後感となってしまいますが、箱、スタッフと固定費がかかっていますから以前の価格に戻すことは難しい。この夜も客は2組だけでありました。質を上げての高額化も一策ですが、この未曾有の不景気の中では厳しい。時期的には非常にタイミングの悪い移転であったと考えます。