細い行き止まりの路地先2階という立地の妙と、5席の小さなカウンターに主人が一人での7000円コース(1万円もありました)がウケたのか、知る人ぞ知る京都の若手有名店であった「そったく つか本」。先斗町から祇園に移転してから初めて訪問したのが去年の秋でありました。
新旧問わず東京の料理人(鮨職人も含む)に銀座を目指す人が多いように、京都の料理人には「祇園」の響きは特別なのでしょうか。この「つか本」も昨年6月に祇園の南に移転してきたのです。
一軒家風の1階にカウンターはL字型の8席、奥に厨房も完備、スタッフも1名雇ったバージョンアップの代償は、コース1万3000円の値上げとなっておりました。
まずは季節物として丹波の栗、海老、イチジクの白和え。可もなく不可もない先付けでスタートしました。子持ち鮎の煮浸しは茄子、高野豆腐とも薄味でまずまず。造りの代わりなのでしょうか、鰤の冷しゃぶはオロシポン酢がかけ過ぎで肝心の鰤の味が消されています。土瓶蒸しの鱧松、軸が噛み切りにくく、質が良いとは思えません。出汁も深みなく価格通りの食後感でありました。鯖の棒寿司(2切れ)はレア感を意識しすぎたのかちょっと〆が甘く鯖の旨みが引き出されず飯も緩かった。反面、濃いめの味付けながら鴨(本シメジ、松茸付き)の炊き合わせはまずまずで、紫ずきん(丹波産枝豆)のずんだ餅は餡の出汁が美味しかった。その後のグジ饅頭にオロシ蕎麦(〆は蕎麦が定番)も価格を考えれば納得する出来でありました。
ビールに日本酒を飲んでの支払いは一人当たり1万6000円前後。東京の1万5000円和食よりは満足度が高いものでしたが、当初の7000円や1万円コースの食後感を考えるとCPの劣化を感じます。主人は「産地」を強調しますが、食材にそれほどの質を感じませんでした。
1万3000円という設定が難しい位置づけであるだけに、どうしても中途半端な食後感となってしまいますが、箱、スタッフと固定費がかかっていますから以前の価格に戻すことは難しい。この夜も客は2組だけでありました。質を上げての高額化も一策ですが、この未曾有の不景気の中では厳しい。時期的には非常にタイミングの悪い移転であったと考えます。