このボリュームなら文句は言えない、ピレネー

毎年夏に仕方なく通っている軽井沢。せっかく行くからにはネタを仕入れようと現地の有名レストランを訪問しているのですが、その度に感じるのが「なぜ軽井沢には過大評価店が多いのか」であります。小山薫堂氏大絶賛の「エルミタージュ ドゥ タムラ」を筆頭に、「プリマヴェーラ」はじめネットや雑誌で評判の店にロクな料理なし。東京へそのまま持っていったら全く通用しないレベルの店ばかりであります。

実際、「タムラ」は西麻布(当時の店名はラフェドール)で通用せず軽井沢移転でやっと花開いたのです。そんな中、今回の軽井沢訪問の2店目に選んだのが「ピレネー」であります。
選んだ理由は簡単。テラス席はペットも参加可能であり、暖炉を使った焼物料理が主体ということでハズレがないと踏んだからです。

日替わりコース(前菜と焼物は仔羊)4900円からメインの食材の違いによって1万2000円(信州和牛)まで4コースが設定されています。思ったより高くはない価格設定。前菜がプリフィクスなのも有り難かった。

この店の特徴は、味はさておきボリュームがあるというところ。前菜から選んだイサキのカルパッチョの半端でない量を見て私は驚いたのです。想像通り、質を含めた味わいに傑出さはなかったけど、この価格帯なら充分か。
鰊のマリネもオマケに1匹つけてくれるなど大判振る舞いでありました。追加で頼んだプロシュート(1200円)は普通、リエット(500円)は緩めとこの店は絶対的な味に期待する所ではありません。
ではウリの焼物はどうかというと、これまた千代幻豚(コースで6500円)、骨付き牛(コースで7500円)と可もなく不可もなし。ボリュームだけはありました。

ワインリストは面白い。この地でそしてこの料理で頼む人がいるとは思えないボルドー1級の古酒(‘54)などもストックしているのです。しかもそれほど高くはなかった。

ご飯(おにぎり、レタス、骨)で息子(愛犬)は大満足の中、6名(+1匹)の支払いが6万円台半ば。
ボトルワインを飲んでこの満腹感を考えると文句は言えないと考えます。

「軽井沢のレストランに料理を期待するな」、これ定説ですが、後にこの店が辛口批評した「プリマヴェーラ」の姉妹店であると知り驚いたのです。

これまた立地による過大評価の典型例、モデスト

友里の定説の1つに「立地の妙による過大評価」と言うものがあります。
都心から離れた住宅街や地方でわざと回りより高額な設定の店をオープンすれば、実力と関係なく過大に評価されやすいというものであります。

わかりやすい例を挙げるとしたら、軽井沢の人気店「エルミタージュ・ドゥ・タムラ」でしょうか。西麻布の地で「ラフェドール」としてやっていた時はまったくの閑古鳥。ワインスクールと提携してオマケで生徒を釣るような営業もしておりました。
もちろん料理も全く凡庸。それが軽井沢へ移転しただけで「美味しい店」になってしまった。まわりのレベルが低いと言ってしまえばそれまでですが、こんな場所にこんな価格(客単価1万円以上)の店なのだから美味しいに違いない、といった素人心理を巧みに利用した戦術であります。
地方へ下って成功した例はありますが、逆の成功例がない事が、友里の定説を裏付けていると考えます。

この「リストランテ・モデスト」も、私が言うところの過大評価店。食べログでも高評価でありますが、あの「カノビアーノ」出身と聞くだけで多くの期待が出来ないのはすぐわかることです。この時期は強気でコースのみ。メインが信州和牛となる1万500円を選択しました。

スペシャリテだというアミューズは、リコッタチーズにオリーブオイル、そして直射日光にあてて25年熟成相当にしたバルサミコ添え。どうってことなく、25年物の本物バルサミコもそうは珍しくないだけに期待はずれ。
本鮪のカルパッチョは冷凍としか思えない生臭いもの。稚鮎のタリオリーニは唐墨パウダーのしょっぱさだけ。しかもパスタがオイルと乳化していなかった。
岩牡蠣と蕪のリゾットは塩が足りず肝心の牡蠣の味も出ていません。真鯛のソテーもイマイチで、信州和牛のヒレはグリルですが、生焼けで私には受け入れられない調理法でありました。

想像通りイタリア郷土色の欠片も感じないカノビアーノ式「創作イタリア風料理」。
東京では平凡なイタリアンと言いますか、ほとんど通用しないレベルと私は考えます。ワインは3000円以下から揃えているなど評価するところもありますが、如何せん腕と値付け(料理)が悪すぎる、立地の妙による過大評価の店であります。

移転してまともなフレンチになった、ガニェール

組んだ相手が飲食に関してド素人だったのが原因なのか、総支配人の能力がなかったからなのか、鳴り物入りでオープンした南青山の店はあえなく沈没。
懲りない3つ星シェフ・ガニェールが、パートナーをインターコンチネンタルホテルに変更して再オープンしてきたのがこの新生「ピエール・ガニェール」であります。

場所はANAインターコンチネンタルホテル36階。料理に自信がない店が頼る「夜景」でありますが、ホールの席間は余裕がありそのウリの夜景を楽しめるよう配置された席も多い。問題は入り口からホールまでが狭すぎてプアなところか。

ガニェール自ら前店の失敗は総支配人などマネジメント側の責任だと断罪しておりましたが、今回満を持してパリ本店から招聘した総支配人(フランス人)はそんなに素晴らしい人材なのか。配偶者が日本人なので日本語が堪能なようですが、所作を見る限り傑出したマネジメント力は感じられない。
前任者と大差ないではないか。肝心の料理ですが、アラカルトらしきものが数種ありましたが、この店ではデギュスタシオンのコースを頼むべきでしょう。

2万3000円のコース、意外なことにアミューズを除くとメインの肉料理まで5皿と多皿コースでありません。
キューブタイプのフォアグラ、添えられている桃や西瓜を別にして単独で食べると悪くはなかった。鮑と鰻の燻製はほとんど記憶のない一品でしたが、オマールはタンドリー風味のビスク味がポイントでまずまず。
内臓を抜いてしまった鮎にはがっかりでしたが、青海苔を用いた和牛のフィレは掟破りの組み合わせでたまには面白いか。3種の調理済みチーズでお腹は一杯になりました。

ワインの値付けは予想通り安くはない。ノンヴィンシャンパーニュが最低でも1万3600円。最近話題の大阪フレンチは6000円前後で用意しているくらいですから、ホテルといっても1万円前後で用意するべきでしょう。スティルワインの種類も多くはなく、敢えて選ぶとしたらブルゴーニュよりボルドーに狙い目のものがあるでしょう。

料理だけで3万円近くしてしまう高額レストランですが、前店が悪すぎたからか料理も食後感もよく感じてしまうのが、この店のラッキーなところでありました。