リニューアルで料理も最悪に、HANA吉兆

元々が京料理ではない吉兆料理。創業者・湯木貞一氏が考え出した創作和食で、「湯木料理」といえる独特のものだと私は思っております。和食の基本を残しながらの創作料理は京都の地元客にも支持されていたのですが、三代目になって改悪ともいえる大きな舵切りをしてしまった。

料亭を一般客に開放するとして、「嵐山吉兆」の予約が一見客でもネットで出来るようになりました。
誰でもお金を払えば料亭体験が出来るというのは画期的な試みですが、物事には限度と言うか、やり過ぎは禁物です。昔からの常連客より一見客、観光客を重視したのでしょうか、目先を変える奇を衒っただけのサプライズ料理にだけ注力してしまったのです。
カレー粉や赤ワインのソースを使うなどその迷走ぶりに眉をしかめる地元客が引いてしまったのは当たり前のことか。そしてその改悪は、二代目が最後まで関与していて京都吉兆グループでは唯一まともと言われた「花吉兆」にも及んでしまったのです。

この3月のリニューアルで「HANA吉兆」に変名、この店名だけでも引いてしまうではありませんか。「和紙作家」、「左官作家」、「景色盆栽家」という自己陶酔的な肩書きを自称する職人によって奇抜さを増した内装。料理も立派に改悪されていると確信し、ウリの「ワイン会席」(1万円)をダメを承知で先日体験してきました。

ワインに合うよう味(塩も)を濃いめにしたというこのコース料理、しかしワインは貧弱なリスト(泡、白、赤いれぞれがわずか3種類)からの別途料金による注文となります。

酢の物の蒸しアワビは生臭く、鱧のお椀は出汁が濃すぎて鱧もしょっぱすぎ。
造りの代わりに出たのがオリーブオイルでマリネした海老や烏賊、ホタテの石焼きです。胡椒も強すぎて料理の体をなしていない唖然の代物。
吉兆のウリである八寸も、まるでデパ地下弁当のレベルとしか思えません。鮎の塩焼き2匹がこの日辛うじて普通レベルでありました。
穴子がほとんど見あたらない穴子飯と果物で〆となりましたが、昼だったのでビールにグラスシャンパン2杯、安い赤ワインハーフ1本での支払いが2名で3万数千円。

観光客相手の大箱店と変わらないレベルの料理を出す三代目の迷走を、貞一翁は草葉の陰でどう考えているのか。人ごとながら心配です。

あの店は今・・・、麻布 幸村

ミシュランガイドの3つ星店訪問(全世界)をライフワークにしている方から「幸村」の誘いを受けたのが今年はじめ。最近ご無沙汰でしたが、彼には「花山椒」の時期限定ならばとの条件を出しました。
鮎や蟹、松茸など京料理の代表的食材の時期は訪問済みでしたが、ネットなどで評判の「花山椒鍋」というものを食べたことがなかった。

前首相鳩山さんの懐刀、松井前官房副長官と友達で、前首相のネット戦略のブレーンであると自慢する電通勤務の佐藤尚之氏(さとなお)も絶賛していた「幸村」の花山椒鍋。
4月中旬の予約を入れた3つ星ハンターの「幸村さん、標準語でしたよ」との言葉に私は驚いたのです。
幸村氏は東京出身で二十歳を超えてから京都へ修業に行った人。帰京後も京都弁を使うのは不自然だと私は問題提起してきたからです。今回の訪問は、花山椒鍋に加えて幸村氏のしゃべりの検証も大きな目的となりました。

相変わらず繁盛しているカウンターに座ってまずは幸村氏と客の会話に聞き耳を立てました。なんと幸村氏、標準語になっているではありませんか。
麻布十番に凱旋してからかなりの年数京都弁を使っていましたから、自然に戻ったのではなく、意識して無理な京都弁の使用をやめたのでしょうか。

とろみを付けた蛤の出汁を使った山菜の先付け、蛤自体が効いておりません。山葵菜と赤貝のお浸しも、青海苔の投入で貝の質がわかりにくい。
油目のお椀は4月なのに白味噌仕立て。出汁のレベルを見たかっただけに拍子抜けしました。琵琶湖の稚鮎も5匹と数は多かったけどそれほどのものを感じず、京都の筍は塩が足りなく旨みを感じなかった。

そして花山椒鍋の登場です。産地はミシュランの記述(丹波産)と違いごちゃごちゃとの花山椒、これを熱した甘い出汁に牛肉と一緒にくぐらして食べます。
私の拙い経験では、京都で出会ったことがなかった「花山椒鍋」、ネットで調べると京都の家庭料理でよく造られるようです。牛肉共々かなりの時間加熱された花山椒、肝心の香りや麻(痺れ)が飛んでしまっていないか。味醂を多用している甘い出汁も私にはミスマッチにしか感じませんでした。

調理が簡単で京都では家庭でも充分堪能できる「花山椒鍋」、数ヶ月前にわざわざ予約し、3万円払ってまで食べるほどのものではありません。

この店を京料理と持ち上げたら可哀想、京加茂

友里と因縁のあった古川修氏が「京料理と純米無濾過生原酒を合わせる別天地」と絶賛していた名古屋の和食店。主人自身も「京料理」と思っているようですが、ネットに出ている料理写真を見る限り「京料理」とは思えなかった友里が、関西在住の食べ仲間と弾丸ツアーで訪問したのは4月の下旬でありました。

まずは予約電話でビックリ。夜のコースは4800円からあると言うではありませんか。
いくら名古屋とは言え、「京料理」を夜に5000円以下で提供できるものなのか。我々は後で文句を言われないよう、最高値の1万2000円コースを選択しました。

一軒家ですが、カウンターに置いてあるドラえもん人形やテーブルに設置された灰皿を見て、限りなく「居酒屋」に近いと判断。現に地元客はしっかり喫煙しておりました。
奥の個室では幼児の「雄叫び」。別天地の定義がここまで古川氏と異なるとは思いませんでした。

突き出しのサロマ湖のウニ。よもぎ豆腐とうすい豆が添えられていますが、盛り付けと質は正に居酒屋レベル。お椀のタネはアイナメで、揚げて旨みのない質をカバーしています。予想通り出汁はかなり濃い味でした。
造りの主役はキャビアを包んだ脂くさい鯛。鯛の質が良ければこんな細工は必要ありません。最高値のコースを頼む客がいないので、慌ててキャビアで付加価値をつけたのか。
焼き物はホタルイカや貝柱を熱した石で客自身が焼き上げます。石が薄いのですぐ冷めてしまい生焼け状態。
琵琶湖の稚鮎はなんと「ワタ抜き」で提供されます。もっとも鮎らしい部位を外す理由は何なのか。伊勢エビの具足煮も京都の有名店で食べた経験がなく甘すぎる調理で美味しくなかった。キスとコシアブラの揚げ物もベチャベチャ、「国産牛」の牛鍋は、すき焼きとしゃぶしゃぶの中間のような調理でこれも甘すぎ。黒七味を多用して食べきりました。

どこにも京料理の片鱗を見出せなかった「京加茂料理」でしたが、濃い、甘い、といった居酒屋料理には、同じく味が濃すぎる「純米無濾過生原酒」が合うのでしょうか。
こんな強い味の酒を置いている真の京料理店はないはずですので、「別天地」とは名古屋にある単なる田舎料理店と最終判断。
この店が真の京料理と思い込んではその後の外食人生を踏み外すでしょう。

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