居心地を犠牲にしてまで行くべき店か、四季ぼう坊

新橋赤レンガ通りで見つけたビジネス街の中国料理店、四季ぼう坊。店前には雑誌の掲載ページをこれでもかと張り出しています。こんな「客釣り」をしている店に旨いものなし、が友里の定説なのですが、中国料理に造詣が深いと言われる勝見洋一氏までが褒めている記事を見て、私は興味を持ちました。ネット検索すると称賛の書き込みの多いこと。「どっちの料理ショー」にも出演したようで、あの大味好きの「さとなお」氏まで褒めていたのが気になりましたが翌日ランチに飛び込んだのです。
うーん、なんと圧迫感ある店なのか。油がこびりついて滑る床、カウンターは清掃を考えて機能だけを重視したステンレストップ、と正にビジネス街の「チョイ食べ中華」の趣でありました。ランチは800円前後で、中国野菜炒めは850円を考えるとこんなものかと自分を納得させるしかない。夜の初訪問で衝撃を受けたという「さとなお」氏の評価に悪い予感を持ちつつ予約を入れたのは言うまでもありません。
夜の予約グループは2階の座敷テーブルへ詰め込まれます。狭さは覚悟していましたが予想以上に汚い。卓上の辛子は黒く変色していて使う気がしなかった。
メニューは全網羅的で豊富、フカヒレなど高級食材を除いて1000円前後と値付けはリーズナブルでした。我々は5000円コースに2000円の飲み放題を頼みました。前菜盛合わせのクラゲ、豚耳、蒸鶏などは量も多いが「味濃すぎ」で食べ切れません。「さとなお」氏が絶賛したのはこの味付けだからと納得。牛とブロッコリーの炒め物、揚げ物の餡かけもこの価格帯なら仕方ない調味料の添加で想定内のお味。麻婆豆腐は申し訳程度の花椒と味噌味だけで豆板醤の深みなく辣、麻が物足りない。土鍋はガス臭く、魚香茄子は甘いだけで酸味がなく、これでは学生街の中華と変わらないではないか。甕出し紹興酒もヘタっていて支払いは7000円強。これなら同じ街場の佇まいで同価格帯の「四川一貫」や「龍水楼」の方がはるかに良い食後感であります。各界有名人の絶賛に惑わされて夜に7000円以上も払いましたが、ランチがこの店の上手な使用法だと考えます。しかし、勝見さんや「さとなお」さんの舌、友里には理解不能であります。

店構えと価格がミスマッチ、東京バルバリ

ネットで評判の宝町駅近くの「東京バルバリ」。店構えや内装は居酒屋、支払額は高額ビストロ、そして肝心の料理は中途半端と食後感は良くありませんでした。ネットの書き込みから、自称農産物流通業者「やまけん」さんの絶賛ブログに釣られている人が多いことがわかります。かなりの宣伝効果があったようです。
1階はカウンター主体、2階はグループ対応のテーブル席で、どの卓にも灰皿が常備されているのを見て、食後感への期待は薄れました。
今回の訪問の主目的は、その店名にもなっている西崎ファームの「バルバリー鴨」。ネット販売もやっている生産量が多い鴨だと思うのですが、特定ブロガーたちの煽り宣伝がしつこいのでその検証です。しかし、初っ端から肩すかし、なんと、バルバリ鴨はツマミの串しかなく、「やまけん」さんが絶賛していたメインは品切れでした。前菜は1200円以下ながら、メインのアグー豚、子羊、短角牛、仔鳩は3000円前後と値付けはそこらのフレンチ顔負けの価格で、雰囲気とのあまりの乖離に驚きです。
前菜は食材の味を隠すほど加工し過ぎが目立ちました。オマールのサラダにカレー風味、水茄子には甘辛味、ウニと冬瓜に温玉と食材の質を問わない味付け調理でありました。所詮居酒屋と言ってしまえばそれまでですが、「ジャイアンシェフ」と称されている人の調理と考えるといかがなものか。
アグ―豚、短角牛などメインはそれなりでしたが、この価格の食材ならどこで調理しても大差がつかないレベル。ランチでも評判というシェフカレー、ドゥミグラスが入っているだけの黒カレーですが、甘みがあるだけでどうってことない。
居酒屋なのに日本酒が少ないのも疑問。わずか3種しかリストになく、そのうち1種が品切れでした。その反面、焼酎の品揃えが多いのは、日本酒より利益率を高く設定できるからなのでしょうか。
料理は和風テイストではなく欧風に仕上げておりますが、その完成度は価格を考えると低い。居酒屋がホームグランドの人と違って、ブラッスリーやビストロがメインの客には物足りない調理の店と言えるでしょう。日本酒が少ないので安めのワインを頼んで一人1万円超。予想通りCP悪く、品切れのバルバリ鴨を食べる為の再訪を諦めました。

バスク料理ではなくただの味濃いビストロ、ルル

ネットではかなり評判の広尾(地番は恵比寿)にある「ラ・ピッチョリー・ ドゥ・ルル」。19時から27時まで営業のピッチョリー(バスク地方の一杯飲み屋)で、フレンチ「シェ・トモ」の2号店であります。「ル・マエストロ ポール・ボキューズ東京」も任されていた市川知志シェフが関係するバスク料理店とネットで知り、期待して予約の電話を入れました。
クロスがなくテーブル含めて木がむき出しの内装にBGMはアコーディオンとかなりのディープ感。料理は2枚の黒板に定番とその日のお勧めが列記され、グラスワインは白赤とも10種ほど用意されており、ますます期待が膨らみます。前菜はブーダンノワールやラタトゥユ、豚足ゼリー寄せなどが1000円前後、メインはクネル(1350円)、シュークルート(1900円)、カスレ(2830円)と好きな料理が並んでいるのも嬉しい。と、ここで疑問が生じたのです。おいおい、俗にいうビストロ料理ばかりで厳密な「バスク料理」らしきものが見当たらないではないか。
調理スタッフが少ないのか皿出しは遅いですが、シェアを前提に、フォークとナイフが卓上に豊富にあり、取り皿が都度サービスされるのは評価できます。前菜が小ポーションなので支払を考えなければ多くの料理にチャレンジできるのも嬉しい。しかし肝心の料理の味は疑問な皿が続きました。ビストロ料理はワイルドというかしっかりした味付けが基本でしょうが、あまりにしつこい味の料理が多く、食べ続けていくとつらくなるのです。好きなリエットも進みません。ラタトゥユ、オムレツも後味がつらい。シュークルートもしかり。カスレはスープが多く味も濃すぎるので鴨コンフィの旨みを打ち消しています。ハモンイベリコも小さい欠片でしたから部位が悪かったのか。反面、ブーダンノワールやクネル、ポテトグラタンは特徴がなかった。
うーん、全体に必要以上に舌に残るというか、まるで業務用の出汁や調味料を使用しているかのような食後感でありました。店内は若い客ばかりでしたからこの味付けでいいのかもしれませんが、もう少し味に深みが欲しいものです。
6000円前後のフランス南西地方のワインを飲んで一人1万円突破。確認のため再訪しましたが、食後感は変わりません。