ただの海鮮系寿司屋だった、神田 すし昌

大手ファミレスの創業家に生まれながら自称食評論家として活動している横川潤氏。自分のバックと直接利害関係にある他店を論評することは、ダイハツの息子がトヨタや日産の車評論をするようなもので、公平性に欠けると思われがちですが、この人、原則的に「ヨイショ系」ですから心配は無用です。トラウマなのか生家と対極にあるグランメゾンに異常に甘いのも特徴。その彼が、「東京最高のレストラン」で高評価していたのがこの店です。寿司編のベストランキングをつくる上で外すわけにはいかないとのコメントに、知られざる名店かと飛びついた友里が甘かった。
まずは昼時に下見に訪れて店を間違えたかと思いました。昼は千円の寿司定食専門で、入りきれない客が店先に並んでいます。千円ランチの店がベストランキングに入るのか。入店を断念して帰宅後ネットで調べたところ、「ぐるなび」にクーポン券付で載っているではありませんか。上質のタネを使う高級鮨屋がクーポンを発行するはずがなく、結果は見えておりましたが、予約をして夜に再度訪問したのです。
1階がカウンターで2階が座敷になっている結構大箱な寿司屋。「大将」、「主任」と書かれたネームプレートつけている職人たちは体育会系のノリ。居酒屋風寿司屋のイメージです。煮込んだアン肝、蒸気で蒸したトロ、オリーブオイルのかかった茶碗蒸しなど目が点になるツマミが連続します。目先を変えた創作ツマミを出す店で「握り」に期待できるはずがありません。酢飯は一目で赤酢を使っているとわかる濃い色。しかし、肝心の味は塩も緩く特徴がありません。〆すぎたコハダは酢飯とバランス悪く、カスゴに乗せた甘すぎる昆布は余計。玉子は勿論この手の店ではお約束の「出汁巻き」でしかも梅味。干瓢も梅紫蘇を入れて巻くことを前提にしているようで、味が薄い。蒸鮑に柚子胡椒をつけるのもいかがなものか。ビールにお酒を4本、オミヤに太巻きをもらって一人1万円7千円の結論は、ただの街場の海鮮系寿司屋。決して鮨オタクや鮨通が好む店ではありません。天下がひっくり返っても東京の鮨屋10選に絶対入る店ではない。JCオカザワに続いて、寿司屋の評価がまったくあてにならないライターとして横川潤氏がわかっただけが収穫でした。

自己都合で客を侮っている、オオサコ

西麻布「ダックイ」の大迫シェフが銀座進出、とオープン当初はかなりのマスコミ露出で、移転は今のところ成功している「ドナ ステラ クッチーナ オオサコ」。でも、このシェフ、そんなに名前が売れていたでしょうか。銀座へ出れば誰でも即座に有名シェフになれるようです。
深夜までの営業をウリにしていますが、この店には大きな問題点があります。20名近いキャパに対するスタッフは、シェフ一人にホール一人だけ。カウンターなしのテーブル席だけですから、かなりの制約を客が受けることになります。シェフの調理の手際が悪いんでしょう、アラカルト対応にしては前菜、パスタ、メインと種類を絞っても、料理の出は異常に遅い。これでは深夜営業にしなければ客は食べ終わらない訳です。少しでも早くこなそうと考えたのが「パスタ1種をシェア」の半強制です。スタッフは「うちはポーションが大きいのでメインまで食べるならパスタは1種をシェアして充分」と強引に説得してきます。しかし隣の席のパスタは、ほとんど普通ポーション。前菜やメインの量も普通です。要は、客が各自パスタを頼んで段取りの悪いシェフがパンクするのを防ぎたいだけ。だいたいこの陣容で20名にアラカルト対応するのが無謀。BGMが煩いからか声の大きいスタッフは、「我々は食べきれるから2種お願いする」と言っても顔色変えて抵抗してきました。ポーションではなくスタッフの態度が大きいだけでした。
ワインサービスもひどいものです。ワインリストはなく客の嗜好を聞くふりをしますが、持ってくるのは味の傾向が違うワインが白、赤共2本だけ。種類を限定し在庫本数を抑え、小ロットで回転させたい思惑が見え見えです。スタッフ2名にワインが2種のイタリアン。人件費をケチって客を待たせる、パスタのオーダーを制約する、そしてワインも自己都合で客に選ぶ楽しみを与えない。こんな一般客の事を考えないシェフが造る料理に旨いものがあるわけがなく、人気の割に創作系なだけの普通レベルでありました。おしゃべり好きな女性客が主体なので、料理が遅かろうがワインが少なかろうが関係ないのかもしれませんが、まともなイタリアンとワインを望む方は、ストレスが溜まるだけなので、行く必要はありません。

とても食べきれる量ではない、アルキメーデ

神泉駅近くのこの店は、半地下の小さな店です。シチリア料理ですがプリフィクスのコース(6000円)1種しかありません。小学生以下の子供の入店は不可。アラカルトがないからでしょうが、この手の料理で入場制限をするのは残念であります。
最初に出る鹿熊豚のリエットとレバーペーストは他店でも出会えるレベル。しかし、その後続く料理に驚きです。突き出しの人参ズッパのあと、シチリア風の前菜が小皿で8皿以上出てきます。カツオ、トリッパ、カポナータ、トマトモッツァレラ、ナスのフライ、鰯などなど。どれもシチリアテイストであることは間違いなし。その後が本日のパスタと5種ほどから選んだパスタの2種が一皿に盛られて出てきます。ペスカトーレは傑出さを感じないまでもまずまずで、早、ここでかなり満腹になります。メインにウリの鹿熊豚のロースやハラミなど各部位のローストを頼んだのですが、これが半端な量ではありません。肉は旨みもあり悪くはないが大食いだと自負しているこの私が食べきれませんでした。全体に塩をきつめに効かした味付けも悪くはない。しかしシェフは大きな勘違いをしていると思います。少ないよりはいいですが、多すぎるのも考え物。味付けと量のバランス、つまりコース構成を考えていません。全体に濃い目の味付けの料理ですから、そうは食べられるものではないのです。特にメインの豚は、ジュに醤油かモロミのようなものを加えているように感じるほど味濃いものでした。これだけ濃いとかなり胃に負担がかかります。ほとんどの客が食べきれないと承知でなぜこれほどの量のコースを設定するのか。我々以外のグループはすべてドッギーバッグを頼んでいました。量を減らして価格を下げろといった野暮は言いません。量が多いことをウリにしたいのでしょうが、残してしまっては本末転倒。家に持って帰って食べてもおいしいはずがありません。シチリア料理はメニューから好きなものを選んで仲間とシェアして食べたいものです。メインに肉料理が多いですが、シチリア料理では魚介を中心にしていただきたい。多皿前菜とビッグポーションのメイン料理でそれほど盛況でない様子を見ると、今のところシェフの戦略は裏目に出ていると考えます。