串揚げ系列の天然フグ屋、六本木 浜藤

ネットのグルメブログやレビューで人気がある旬の時期に半年しか営業しない店です。HPではフグ以外にも鰹節、昆布、玉子や野菜にも拘っていると力説していますが、このHPからダウンロードできる曲を聞くと、そんな拘りのある店だとは思えません。嘉門達夫が歌っている替え歌「浜藤てっちり行進曲」、「ゆけ!ゆけ!乾晴彦!!」(店主の応援歌)。おいおい、客単価3万円はする高額店でなぜこんな冗談みたいなことをするのか。ノーセンスでキワモノなだけではないか。そしてここからが問題。べた褒めしているブロガー達はこの店が串揚げの「法善寺串の坊」系列であることを知っているのでしょうか。宅配「ピザーラ」の親会社「フォーシーズ」経営の高級フレンチ「ジョエル・ロブション」を持ち出すまでもなく、廉価な店の経営会社が運営する高額店にCP良い店なし、は定説であります。半年しか営業しないのですから、年間の固定費を半年で回収しなければなりません。家賃は1年分支払わなければならないはずだし、休業中の従業員の手当てもどうするのか。「串の坊」で働かせると本体の人件費が嵩みます。半年だけの期間雇いの厨房スタッフでは腕のある人材を確保できないでしょう。この「半年閉店」は、残り半年で1年分の元を取るということですから、訪れた客が良いCP感も持つことは理論的にはあり得ません。
煮凝りと酒盗、湯引きが別皿で出た後の白子茶碗蒸しは、肝心の茶碗蒸しの出汁が弱い。刺身は玄海下関直送天然フグとありますが、冷えた皿にこびりついていましたから、かなり前に盛り付けたものでしょう。他の有名高額店と違い、薄い切り身であったのも質に自信がないからか。この薄さでは味がわからないと「ぶつ切り」を追加して天然とはいえ質の凡庸さを確認しました。白子焼きは大き目でしたが皮が厚く、から揚げもどうってことない。歌にまでなった「てっちり」、生米から造ったという〆のリゾットもフグ質の限界か滋味をまったく感じません。アイテムだけは盛り沢山のこの「特別コース」が2万1千円。最初から温いままでがっかりしたヒレ酒など酒類を頼んで3万円前後となりました。他の高額店より安い支払いでしたが、この食後感では価格に釣られて行くような天然フグ屋ではありません。

まったく評判倒れ、伊勢廣 京橋本店

友里征耶としてデビューしてから3年あまり、山本益博氏や犬養裕美子氏など飲食店に癒着して一般読者を裏切る「ヨイショライター」たちへの問題提起をコンセプトに私は店取材をしてきました。よって彼らが滅多に取り上げない焼鳥店はご無沙汰だったのですが、近著の「グルメバトル」で掲載することが決定した為、ブランクを取り戻そうと慌てて焼鳥行脚に入ったのです。比較のため掲載以外の店へもいくつか行った中、ネットの評判と私の印象があまりに食い違ったのがこの有名チェーン店「伊勢廣」の本店です。
別館もあるようですが、2階建て一軒屋はその日も超満員。1階のカウンターに首尾よく座れた私の結論は、価格の割にまったく旨くない焼鳥の一言でした。鶏1羽を丸ごと味わえると「ぐるなび」に載っていたフルコースが6300円。しかし、内臓系はレバーと砂肝だけで、今流行りの希少部位などはありません。本当に1羽を丸ごと仕入れて店で捌いているのでしょうか。ササミ、団子、ネギ巻き、皮、モモ、合鴨に手羽とスープでコース終了。追加は椎茸と軟骨しかありません。希少部位がなくタネ数が少なくても、肝心の焼鳥が満足するのなら文句はありません。しかし、この店のものはどれもまったく美味しくないのです。鶏自体の質が良くないようで鶏自体の旨みを感じません。そのかわり焼き上げた後にもタレに浸しますからベチャベチャで表面的には味濃すぎ。肉の旨みのなさをタレ味でごまかしているのでしょう。塩焼きもしかり。質が良くないのですべての焼鳥がタレ負け、塩負けしておりました。タレべったりの皿にそのまま塩焼きを置くのはいかがなものか。〆のご飯物はそぼろ丼がなく焼鳥丼や鳥茶漬けだけ。これ以上飽きる味の焼鳥丼を食べられるはずがなく、頼んだ茶漬けもこれまた美味しくありません。この濃いタレ味には日本酒が合わないと頼んだワインはロスバコスが3800円。焼鳥の値付けと違って安めの値付けには驚きましたが、それでも支払いは一人軽く1万円を超えてしまいました。同価格帯の麻布十番「世良田」とはまったく比べ物にならない悪い食後感。銀座の「鳥半」、新橋の「鳥小屋」などコースを3千円前後で提供する焼鳥屋の方が旨いのではないかと思うほどCP悪すぎです。

鮨屋か小料理屋か中途半端だけど・・・、おざき

和食で6年修業後、実家の寿司屋を手伝っていた若い主人が、ネガティヴな噂の多い「麻布十番 かどわき」跡に居抜きで今年オープンした「麻布十番 おざき」。13650円のコース1本ですが、ここはツマミを出す鮨屋というよりは握りを〆に出す小料理屋と考えてください。純粋な江戸前鮨屋と思って鮨通や鮨オタクが訪れるような店ではありません。カウンター6席、個室にテーブル1卓ですが、オープン当初に「東京カレンダー」で宣伝してもらったせいかいまのところ盛況です。
ツマミの合間に握りをちょっと出すというスタイルは「すし匠」系列の店ではよく見られます。しかしこの店は、鮪を2貫挟みますが7品ほど小料理が続いて、お決まりのような握りが8貫で〆となります。
訪問当時のメニューですが、ジュンサイと桃のジュレは桃が甘すぎ。定番というアン肝豆腐は、普通のアン肝の方が私は好み。濃厚な旨みが足りなく感じます。その次に天然マグロの握り2貫をはさみ、同じく定番の蟹ミソ入り毛蟹の甲羅蒸し焼き、秋田のフグとミンク鯨の刺身などが続きます。そしてゴマフグの白子焼き、鮑とフカひれの小鍋仕立て、ウニゼリー寄せ、最後の〆に握りが8貫。この価格から考えると料理は盛り沢山。毛蟹が小さい、白子はゴマフグか、握りに甘エビを出すのはいかがなものか、玉は出汁巻きではないか、といった文句をつけるつもりはありません。この価格でこれだけのアイテムの料理が楽しめるなら、目を瞑る範囲と考えます。出汁、煮切り、生姜と全体に甘めの味付けは好みの分かれるところ。私の好みではありませんが、最近の若手主人の鮨屋の傾向と言えるでしょう。玉も含めて握り鮨そのものは江戸前の拘りを感じませんが、7種ほどの小料理を含めてコース全体でこの設定価格を考えると、CPは悪いとは感じません。小瓶のビール、グラスワインにぬる燗を数本頼んで一人2万円弱。想定した予算をオーバーしたのは酒類が高いのでしょうか。主人は今のところ謙虚で店は満席。場所によっては2回転しておりました。早めに入ろうが遅めに入ろうが、1回転目は終わりが21時頃になるのが不満でありますが、江戸前に拘らずお酒と共に小料理と寿司を両方楽しみたい方にはおススメしていいお店です。