各地の郷土料理が味わえる、カシーナ カナミッラ

白金通りに1年前オープンしたイタリアン、「リストランテ カシーナ カナミッラ」。この店はイタリアへ料理研修やソムリエ研修を斡旋しているict食文化企画という有限会社が経営しております。料理人の1年研修の費用は140万円、ソムリエは半年で110万円だとか。昔は伝を頼って着の身着のままで渡航したと聞きましたが、最近はシステム化してお金さえ払えば受け入れ先を用意してくれるのですから随分楽になったものです。イタリアン業界で食べている会社が満を持して投入してきたシェフは、この研修制度の第一期生です。4年間イタリアで修業したシェフは、最近のトレンドとは違ったメニュー造りをしています。シチリアだ、リグーリアだ、ピエモンテだと地方の専門料理店が人気の中で、この店は北から南まで各地の郷土料理を満遍なく揃えています。総合商社、総合電気メーカー、百貨店など全網羅的な会社が伸び悩み、専門部門に特化した会社が勢いを増しているのは飲食店業界でも見られる傾向です。全体を網羅しようとすると万人受け狙いで軽い調理になりがちです。しかし、このシェフは、それなりに各地の郷土色を盛り込んだ料理を提供しているので客側からみれば1軒で各地の料理を食べられる使い勝手の良い店となっています。前菜、パスタは2千円前後、メインは3千円弱で魚のほか豚、兎、仔羊、馬、鹿と食材も揃い、調理も煮込みありグリルありと選択肢は多い。ウリの手打ちパスタに絡めた馬のラグーはしっかりツメてありなかなか。週刊誌で紹介されていたオリーヴやアーティチョーク入りの兎の白ワイン煮もディープな郷土色がでています。もも、ロース、レバー、ヒレ、腎臓と部位も豊富で一度は味わっていただきたい。その他馬や兎のグリルやローストにも満足しました。ワインリストは2種類。比較的廉価なワインリスト(といっても5千円から2万円くらいまで)は小売価格の2倍程度の値付けですが、レアワインリストは3万円を超えるものがほとんどと絶対価格は高いですが、市場価格とそれほど乖離しておらずワイン好きには見逃せません。専門料理店と同レベルの地方色を出した各地の料理が並び、ワイン好きにも対応できるワインストック。料理だけではなくワインに拘る方にもおススメです。

いつの間にか宮廷料理に変身した、銀座 南漢亭

相変わらず集客に苦しむ交詢ビルのレストランフロア。荻窪の韓国料理屋の支店の位置づけであるこの店も、「こんなはずではなかった」と頭を抱えているでしょう。交詢ビルオープン当時、マスコミの宣伝記事で私は「南漢亭」が「韓国宮廷料理」に「変身」している事を知り驚きました。荻窪の本店で食べたのは15年前くらいでしょうか。評価基準が明確でないシーラカンス評価本「東京いい店うまい店」で高評価されているのを見て食べに行ったのです。記憶はかなり薄くなりましたが、食べたのは焼肉主体。本でも焼肉が旨いとされていたはず。ユッケ、タン塩、カルビといわゆる「焼肉料理」を食べまくったのです。焼き肉以外の料理があっただろうか。ネットにあった11年前の「辛ミシュラン」取材関連の書き込みでは、荻窪の店は「韓国家庭料理」として紹介されていました。それがヤフーグルメなどでは「韓国宮廷料理の草分け的な店」として紹介されているのです。おいおい、15年前は焼肉主体だった店が韓国家庭料理を経てなんで宮廷料理の草分けになれるんだ?銀座出店でどさくさにまぎれて変身しただけではないか。
ダイニング系と間違う内装はまったく韓国料理とミスマッチ。昼はいくらか客がいるようですが、我々が行った平日の夜は他に2組しかおらず悲惨そのものでした。1万円の「宮廷料理コース」は春雨、人参などの和え物の雑菜、松の実粥、ナムル数種、九つの小皿に盛られた具をクレープみたいな皮に包んで食べる九節板(クジョルパン)、肉、魚、野菜を煎(ジョン)にして牛スープで煮る神仙炉、チジミ、プルコギ、参鶏湯にデザートで成り立っています。各皿の量は少ないですが、後半のスープ仕立てが効いてきて最後にはお腹一杯になります。しかし、このラインナップが「宮廷料理」と言えるのでしょうか。確かに神仙炉をはじめ味は悪くありません。しかし、人気TV番組「大長今」に出てくるような料理をイメージしていた人にはまったく期待はずれ。この程度の料理ならば、他の韓国料理屋でも出会えるものです。珍しくもなんともない。交詢ビルの集客力のなさに加えて、この1万円という韓国料理にしては高い値付けも後押しし、オープン以来閑古鳥が鳴き続けているのも仕方ありません。

馬肉だけが先走りしていないか、フレーゴリ

ジャンルはイタリアンだと思うのですが、今では馬肉専門店かと思うくらい馬に拘っている、恵比寿の小さな店であります。カウンターを入れて18席ほどのキャパをシェフ一人、サービス1人でカバーしていますが、銀座の「オオサコ」と違って調理の手際が良いのでしょう、客はほとんどストレスを感じず次々出てくる料理を食することが出来ます。
黒板メニューには、前菜、メイン共に「馬肉」の部位がかなり目立ちます。各種野菜、豚、鴨などの食材をあるのですが、ここまで「馬肉」が一人歩きしてしまいますと、この店で馬肉以外の食材を頼む気がしなくなります。
しゃぶしゃぶ屋で刺身だけ食べて帰る客や寿司屋で牛肉だけ食べて帰る客が居ないように、馬肉料理が売れて回転しているということは、換言すれば他の食材はあまり売れていない、つまり回転していないということです。
売れない料理より売れているものを食べたいのが人情。よって、この店では馬肉を主体に注文するしかありません。前菜には魚のマリネや野菜料理などが1500円前後でありますが、まずは馬肉のカルパッチョでしょう。2500円ほどしますが、馬のハツ、たてがみ、バラ、タン、ヒレが同時に楽しめます。和食系の馬肉専門店よりレベルが落ちるとJCオカザワは文句を言っていますが、イタリアンテイストにしてしまえば私にはこの質で充分。馬肉タルタルステーキは黒板にありませんが注文可、悪くはありません。白いんげんとトリッパの煮込み、馬のハラミの炭火焼、馬ほほ肉の赤ワイン煮などディープな料理は、全体的に塩がきつめです。ワインを飲まない方、弱い方には厳しいかもしれません。おっと、一応イタリアンですからパスタの事も書いておかねばなりません。黒板にはいくつかあり食べましたが、馬肉に隠れてまったく印象に残っていないのが残念です。3?4人の訪問で、馬肉を片っ端からシェアしまくってワインを結構飲んで一人1万数千円。ワインはリストがなく「オオサコ」と同じく半押し付け営業、頼む食材に限りがあるなどこの雰囲気のイタリアンとしては高めでありますが、抑えたキャパ、食材の特化をウリにする、ディープな味付け、と現在の繁盛店の見本となる営業。独立を考えている若き料理人にも参考になるでしょう。