まるで宴会場のような喧噪さ、菊乃井本店

拙著「ガチミシュラン」で菊乃井赤坂店の掲載を決めた際、読者からぜひ本店にも「真の京料理」があるかどうか確認しろとのオファーを受け突入した友里。結論を先に言わせていただくと「TV露出好きな料理人の店に美味いものなし」の定説通りでありました。
高台寺近く、アプローチもなかなかの外観は立派な料亭。予約時はフルネームを聞かれ、数日前には確認の電話がかかってくるのも高額店のお約束ですが、いかんせん雰囲気が悪すぎないか。部屋数は10以上あるようで、東京の料亭とは違うかなりの大箱。その多くの部屋から漏れてくる客の雄叫びが半端ではありません。まるでそこらの宴会場。料亭と銘打っている割に、料理は1万5000円から2万5000円までの4コースで部屋料なしの気軽さが、この雰囲気を呼び込んでいるのかもしれません。和久傳や吉兆の本店とはかなり雰囲気が違うようです。
最初で最後の訪問と割り切りこの夜頼んだのは最高値2万5000円コースのスタートは八寸。粘りすぎの唐墨に緩いアン肝、そして鴨肝松風や紅葉烏賊、松葉そうめんもまったく美味しくない。味濃いだけで手間をかけたように見えません。先付けのクモコの銀餡蒸しもどうってことないレベルでした。向付けの明石の鯛がこの日一番美味しかったのが唯一の救い。続いたシビは冷蔵庫で3日寝かした黄味醤油がしつこくて合わない。土瓶蒸しの出汁はまずまずながら長野の松茸や鱧の質は並。中猪口のイクラと山葵オロシの後の子持ち鮎にも予想通り何ら傑出さを感じません。驚いたのは焼き物。松茸に濡れ紙をかぶせ蒸し焼きにするのですが、肝心の松茸が乾燥していたからか紙が乾く前に取ったのに焦げていました。特に軸が乾燥していたのが新鮮ではない証拠。炊き合わせの穴子も良くなく、白菜のすり流しもイマイチ。〆の松茸ご飯も緩くて香りがほとんどしなかった。
仲居さんが足りないようでウォッチングがなくお酒の追加もタイムリーにままならない自称料亭の「菊乃井本店」。
サービス料15%で酒類が安いからか支払額は一人3万数千円でしたが、
内容は旅館レベルと大差ないものでありました。しかしこの料亭でもご飯の持ち帰りの折り箱代として300円を計上するせこさ、村田夫妻には再考を願いたいものです。

あの店は今・・・ トトキ

ワインを含めて少々値付けは高いフレンチだけど料理は美味しかった「レディタン・ザ・トトキ」。好評発売中の拙著「ガチミシュラン」(講談社)で、友里の推奨店として掲載しようと今夏再訪したのですが、高級食材偏重による高額化の割に、フレンチとは思えない味付け、皿出しの遅さ、CP劣化に掲載を断念したのです。
コースは7000円から3万円(スペシャリテのお任せ)まで6種。以前は高いコースでも2万円以内でしたから、高級食材を増やして客単価増を狙ってきたようです。
この時期オススメの焼尻島の仔羊(単品で9800円)の他、金華豚(5800円)、キャビア(20g1万8000円)、乾燥鮑の赤ワイン煮のリゾ
ット(8800円)など高い食材のオンパレード。私はこれらの高級食材を盛り込んだ3万円コースを選定しました。
とにかく皿出しが遅い。トマトやオリーブのアミューズがでてきたのが40分後。シェフのオマケというトマトのスープの後、1皿目の赤鮑のマリネが出てくるのに1時間半が経過しておりました。
今晩中に帰宅できるか心配になったのです。ウニと鱧のゼリー寄せの後、チンタネーゼ(イタリアの豚)のラルドとイベリコ生ハムと桃などイタリアンのような料理が続きます。高津川の天然鰻はレモン風味にコロンボというカレー風味のミックススパイスが?。そして焼尻島の仔羊、3万円のコースに5000円の追加で変更してもらったメインは、鞍舌肉、腿の他ハンバーグ(カレー風味)と量はありました。最後はブルゴーニュワインで煮込んだという干し鮑の赤ワイン煮。確かに滋味を感じるけど青梗菜も添えられて、カレースパイスを多用する料理といい、これでフレンチと言えるのだろうか。
入店してから店を出るまで何と4時間半。4人での訪問なので奥の小さな個室に入りましたが、テーブルウォッチングはなく、狭いので奥の客にカトラリーを配置するときスタッフのズボンが手前の客の皿やパンに触れるのは衛生上問題です。
相変わらずワインは他店より2?3割は高く、1万7000円の中堅のコースを頼んでも3万円は軽く突破してしまうでしょう。更なる高額化にオペレーションが追いつかず、支払額と食後感の乖離が激しくなったトトキ、残念ですがオススメ出来なくなりました。

天麩羅、サービスと見ていてあまりに痛すぎる、天ぷら ふる河

東京カレンダー12月号の「真・東京和食」特集に、この30年あまりで「みかわ」に2000回以上、「神田鶴八」と「コート・ドール」に400回以上、「誠」に300回以上、「水谷」に200回以上、「木屋町菊乃井」に150回以上通い続けた人がついに自分で天麩羅屋をオープンしたと紹介されていました。これら6店の高額店を少なくとも3450回行ったということは、年に115回の訪問。焦げすぎの「みかわ」の天麩羅を2000回も黙々と食べ続けた忍耐力に感心し、これだけ偏った店訪問をする拘りの塊の人の料理をぜひ食べてみたいと私は思ったのです。
油面からかなり奥に入った住宅街の一軒家。その食遍歴から偏屈な主人だとの予想は見事に大はずれ。夫婦(奥さんはなぜかコックコート姿)とも謙虚というか素人丸出し対応でありました。
その日の客は我々だけでしたが、オープンして1年が経つのにオペレーションがまったくダメ。未だに女将に主人は燗酒のつけ方はじめすべてについて指示をしております。その主人の段取りもプロとはとても思えません。
1万5000円のコースは千枚漬け、上海蟹の後「みかわ」で12回教えを請うた天麩羅が始まります。綿実油で揚げた天麩羅、キス、メゴチ、ハゼと衣は色濃い割に全然カラッとしておらず海老も尻尾は食べられない。皮をとった穴子や柿は面白いですが、蛤は衣が厚すぎで人参、ブロッコリー、蓮根もプロの天麩羅とは思えません。普通の穴子の天麩羅は出ず、〆は穴子の炊き込みご飯に穴子の天麩羅を刻んで乗せた丼物ですが、正直言って全然美味しくない。素人揚げでも未だかき揚げ丼の方がマシだったと考えます。
天麩羅、サービスと何をとってもプロとはほど遠い店。夫婦の必死さや直向きさをモロに感じ、「東京カレンダー」や「東京最高のレストラン」に付箋を貼った自店掲載部分をはにかみながら見せてくれる仕草を見ると、なんとも痛くてはっきり評価するのをためらってしまいます。結構飲んで一人2万円弱を安いと感じるか高いと感じるか。
それにしてもヨイショライターの大谷浩己氏、「東京最高のレストラン」で「そこらのプロの天ぷらよりおいしいのよ」って、彼はまともな天麩羅屋へ行ったことがあるのか大いに疑問であります。