グラナダを抜けて迷走してしまった鵜野シェフ、ラ・ボスケッタ

楽天の三木谷夫人の実弟が営んでいると言われている(株)グラナダ。「イゾラ」というピッツェリアのチェーン展開で当たり、今ではフレンチ、イタリアン、スパニッシュ、上海料理、居酒屋、蕎麦屋など40店舗に迫る多店舗展開会社になりました。楽天の色を隠してのこの急成長には驚きです。そのグループ内のイタリアン「キオラ」の総料理長だった鵜野氏がガラス食器販売会社とはじめたのがこの白金のイタリアン「ラ・ボスケッタ」であります。
プラチナ通りから路地を入った一軒家、3階建で1階はそのガラス食器のショールームですが、イタリアンの入り口とのマッチングが悪い。
予約の電話では最後の1組と言われたとの同伴者の話でしたが、その日のホールは最後まで半分も埋まりませんでした。この店も三越前の「フェアドマ」と同じく、テーブル席数の半分のキャパを満席と称する「満席偽装」の店なのか。
ハーブを多用した繊細ながらも主張ある料理のプリフィックスコースを提供し、私的には好きなイタリアンだった「キオラ」ですが、今度の店には駄目出しです。メインの選択肢が少ない3コース制で、7500円は5皿、1万円は7皿と多皿に改悪。1万5000円コースはカルタ ビアンカ(白紙のメニュー)と称して何も書いてありません。グラナダのフレンチ「カンテサンス」のプレゼンの完全なパクリであります。
ガラス食器で供される料理はまったく少量。最初の冷えすぎた生ハムで一気に期待は萎みました。2皿目の有機ニンジンのエスプーマ、もうこの調理法は賞味期限切れではないか。オマールのプリンも珍しくありません。ポーションが小さいのに半生にしようとして無理がでた太刀魚、最後の窒息鴨もわずか2片でしたから、造り置きではないか。2片だけを都度調理できるわけがない。ワインリストもプアの一言。イタリアンなのにイタリアワインはわずか2ページで40種ほどしかありません。フランス物が3ページ半ありましたから、何を考えているのか。厳選されたワインなら種類が少なくてもいいですが、目ぼしいものが少なく食指が動きませんでした。
料理駄目、ワイン駄目、客いない。グラナダからガラス食器販売会社への移籍が完全に裏目にでてしまったようです。

ファミレスより大箱でクオリティが保てるのか、ミュゼ

日本で一番流行っているフレンチではないでしょうか、「ブラッスリー ポール・ボキューズ ミュゼ」。新国立美術館内と注目される立地条件で180席強の大箱ホールは、ランチを入れて一日に3回転はしています。フランス料理界の重鎮で3つ星シェフのポール・ボキューズ氏と日本人初の1つ星シェフ平松氏率いるヒラマツグループのコラボレストラン。巷ではリヨン以外ではじめての出店と言われていますが、これは友里に言わせると「詭弁」そのもの。30年ほど前には銀座に「ポール・ボキューズ」というレストランが立派に存在、最近も客が入らず閉店しましたが、アークヒルズに「ポール・ボキューズ 東京」がありました。要は「ブラッスリー」としては初進出なだけであります。
「ブラッスリー」とは軽い食事やお酒が飲める庶民的なフレンチをいうはず。しかしこの「ミュゼ」は美術館内でファミレス以上のキャパ、荷物やコートを預かるスペースがない、狭いテーブルの詰め込み主義、とブラッスリー以下の環境やサービスなのに、夜はアラカルトで前菜が1800円、メインは3000円前後とそこらのフレンチ顔負けの高額設定であります。
30分前に並んだ私は、オープン直前のスタッフの言葉に驚きました。「本日から1800円のコースをやめ2500円だけになります」。高いコースに絞っても客足は落ちないと強気に出たのでしょうが、ランチ2500円でブラッスリーと言えるか。昼に唯一頼める単品スペシャリテ「トリュフ 卵の皿焼きフォアグラ添えソースペリグール」は、目玉焼き2枚を深皿にいれ、小さなフォアグラ角切れとスライストリュフ、ツメの緩いペリグーソースをかけて焼いただけのもの。これが4500円はあまりに高い。もっと手間をかけた料理を安い価格で提供しても客が少ないフレンチに失礼というものです。国立の建屋への出店は審査も含めて厳しい条件があるはず。平松氏の政治力は調理力のはるか上を行っていると考えます。ランチはともかく夜ならワインを飲むと1万円を軽く突破してしまう自称「ブラッスリー」。コートやバッグを足元に置く、誰が造ったかわからない大量生産料理、周りを見れば180名とファミレス状態、貴方はそれでもボキューズの名に釣られて食べに行きたいですか。

味のわからない業界人おススメ店の典型例、ステーキ 定谷

J.C.オカザワ氏から教えられた業界人や銀座のお姉さん御用達のジャンル不詳のコース料理店。秋元康氏、林真理子氏、そして清原選手も通うというこの店は入谷駅から徒歩10分、住宅街の中の一軒家であります。一応洋食にカテゴライズされると思いますが、価格設定はグランメゾン並みです。HPでは1万5千円、2万円、2万5千円の3コースとありますが、電話で主人に確認したところ、自称グルメの業界人たちが食べているコースは3万円以上のものだと言うのです。安いコースでは秋元氏や林女史の味センスのなさを糾弾できないと判断、無理して3万円以上のお任せコースを事前予約して友里は昨夏乗り込みました。
10席ほどのL字カウンターですが客入りは良くないのか店内は寂しい。ワインはカウンター横の棚に常温で保管されています。これでは高いワインを頼む気がしません。
料理は少量多皿コース。結論から言わせていただくと、この店の料理は鮑、牛ヒレ、牛タン、マツタケ、伊勢海老とアイテムだけは業界人が喜ぶ食材が出ますが、質は高くなく調理は家庭料理の延長線上のレベル。どこにも傑出さを感じません。
箸でも切れると評判の牛タンですが、茹でたものを炭火でさっと焼くだけですから当たり前です。シシャモは冷凍、早松(さまつ)は中国産ですから有難がる食材ではない。
絶賛のビーフカツは肝心の肉の旨みがない。蟹クリームコロッケは味濃く業界人好みなだけ。夏の方が旨いと主人が言っていたフグのタタキはまったく旨みを感じず、肉の刺身も同様。伊勢海老と早松天麩羅の素麺、ステーキと玉葱のサラダ、ヒレとアワビのステーキ、アワビとヒレのピラフなど成金が喜ぶ食材のオンパレードでしたがどれも満足しません。質に拘らず集めた高級食材を手間かけず調理しただけの家庭料理。調理法を変えても出る食材がほとんど重なるというセンスのなさ。いかに、業界人や作家が質や調理に関係なくこの手の食材がお気に入りであるかという証左と言えます。食材が落ちる安いコースは追って知るべし。
安いボトルワインにビール、グラスの白を頼んで一人4万円を軽く突破。フレンチのグランメゾンに相当する支払額で、街場の鉄板焼き以下の食後感。業界人や文化人の屯する店に旨いものなし、定説です。