まるで観光地の詰め込み和食屋、とうふ屋うかい

ミシュランは、外人だけではなく和食に詳しくない日本人に対しても、大きな誤解を与えてしまいました。この店に1つ星をつけるならなら、東京の1万円以上の和食屋のほとんどに☆をつけるべきではないか。ミシュラン調査員、こけおどしの外観にまたまた惑わされたようです。
東京タワーのボーリング場跡地に、50以上の個室とテーブル席のホールを持つ巨大店。店前にはハイヤーや運転手付き自家用車が停車しています。行き帰りに車を使うほどの人たちが、なぜ「和食」としては安いこの店へ通うのか、理解できません。
迷路のようなアプローチを通る段階で、庭石、壁、塀の瓦など全体の普請が高くないことがわかりました。しかも建屋の手前に「土産専門」の小屋があるのです。こんな観光スポットのような仕掛け、舌の肥えた上客を相手にしていないのが見え見えです。レベルの低いミシュラン調査員が引っかかりましたけど。
夜の8400円、10500円、12600円から、一番高いコースを選定。先付けの海老芋の蕪蒸し、出汁に自信がないのかトロロ昆布を入れています。海老芋自体も質が悪い。進肴の田楽がこの店のウリなのですが、中庭に「田楽処」と称する焼き小屋を建て、客間からその調理を見せるパフォーマンスをしています。そんなに離れたところで焼いていては、客前へ運ぶ前に冷めてしまうではないか。造りのマグロ、海老、鯛も質が悪い。しかも混ぜ山葵でありました。あまりに情けない。貝柱真丈のお椀も出汁がしょっぱいだけで深みなし。八寸にあった蕎麦豆腐(ウニ乗せ)にも混ぜ山葵を確認。蕎麦の風味もなく凡庸の一言です。もう一つのウリである「豆水とうふ」、大豆の絞り汁に魚貝の出汁を入れた味わいで、出汁醤油と松葉昆布をかけるよう勧めますが、MSGに頼っているのが見え見えです。留肴の和牛炭火焼きも皿が冷たく肉も冷たい。〆の蟹せいろについていた香の物にもMSGが立派に降りかかっておりました。
普請が安いとはいえ、巨大な敷地にこけおどしの箱物で固定費がとられますから、1万円前後の価格設定でCP良い料理が提供できるはずがありません。
和食と思わず、単なる「豆腐料理」と考えてもわざわざ行くような店ではないでしょう。

リストには品切れのワインばかり、シェ・松尾

高級住宅街(松涛)の一軒家レストランという雰囲気でもレベルの低い料理をカバー出来ない1つ星フレンチ「シェ・松尾」。
ミシュラン紹介文には、スペシャリテの「牛肉のロッシーニ」を紹介しています。でも通常のコース(2万円)にはないんですね。ミシュランやHPでは、他に3万円以上のコースもあるように表記していますが、実際は2万円が主体でそれ以外は誰も頼まないとスタッフは言っておりました。交渉の末「ロッシーニ」を4000円の追加で了解してもらいました。
ミシュランは良いワインリストがあるとして「葡萄マーク」をつけていますが、調査員はこの店でワインをボトルで頼んでいないはず。というのはこのリスト、ソムリエは「更新していないのでほとんどのワインはない」と言いだしたのです。これって「ワインリスト偽装」ではないか。実際、一番安いブルゴーニュワイン(1万円前後)でさえ売り切れでしたから、
調査員はボトルを頼まずリストを見るだけだということがわかりました。
以前あったアラカルトをやめて1万6000円と2万円の2コースに絞り、現在は2万円コース1本にしてしまった営業は、客のことを考えた経営とは思えない。勿論肝心の料理はもっとダメ。
先付けの大根スープは滋味を感じず、車海老のマリネはわずか1尾。ソースやハーブを皿一杯に広げて小量をごまかしていました。北海道の牡蠣シャンパーニュ蒸しもバジルと豆乳の相性がよくない。ウニのフランはトロミのコンソメが不味く、セップ茸は常温への戻しが足りず調理したからか芯が冷たいまま。極小の鮟鱇ポワレも味わいを感じず、お目当てのロッシーニはトリュフ多めながら、冷め目の提供でまったく満足できなかった。
閑散とした店内に響き渡る空調吹き出し口の騒音の中の3時間。グラスシャンパンは確認もなしにヴィンテージ物(3000円)を出され、ロワールのグラス白ワインも2000円と高く、冷えすぎの一番安い赤のブルゴーニュワイン(1万円)を頼んで、ロッシーニの追加費用を入れて2名で8万5000円超はあまりに高過ぎです。料理がまったく駄目なだけに、雰囲気だけでのこの価格はCP最悪。星とった3ヶ月後でも我々入れて客わずか3組という不入りが、この店のすべてを物語っております。

奮発したのに期待はずれ、福臨門

ミシュランガイド2009年版に先駆けて11月13日に発売予定の「ガチミシュラン」(講談社)。今やミシュランウオッチャー第一人者(自称)である友里のミシュラン検証本であります。その中にミシュラン非掲載のオススメ店を載せることになり、まず思いついたのが巷で東京最高の中国料理店と評判の「福臨門 魚翅海鮮酒家 本店」です。並木通りに移転後初訪問と言うことで、数あるコースから4万2000円(上から2番目)に挑戦しました。
普請が安かった移転前と違って新店は豪華。4部屋ある個室は一見ガラス張りに見えますが、中の客が見えない仕掛けでビックリ。かなりお金をかけているようです。
まずは前菜3種。クラゲ、叉焼、すね肉のテリーヌはどれも美味しい。今夜は最高の中国料理が楽しめると胸がときめいたの
ですが、次の皿から一気に萎えてしまいました。
コースには「紅焼」とあるフカヒレ料理。醤油を使った調理ですが、事前に「上湯ベース」への変更を依頼しておきました。上湯で店の調理レベルを知りたかったからです。
果たして特別オーダーの上湯フカヒレ、最初に食した連れの言葉に私は腰を抜かしそうになったのです。「なんだ、上湯って味の素の味じゃない」。
本物の上湯がMSGスープであるはずがなく天下の福臨門が素人にもすぐわかる量を投入するはずがないと憤慨した私は、一口含んで連れの舌に感心しました。確かにかなりの魔法の粉の混入形跡を感じるのです。以前はこれほどの使用量を感じなかったので、「福臨門よ、お前もか!」と叫びたくなりました。醤油の使用は控えて貰いましたが、まさかここまで注文つけなければならないとは思わなかった。
続く北京ダック、金鶏の姿揚げ、干し鮑などはまずまずだったのですが、衣笠茸とツバメの巣にも添加物の混入を感じ取った次第であります。
その後はハタの蒸し物、ご飯もの、ツバメの巣入りの西瓜でコースは終了しましたが、支払額は酒類を入れて一人5万円を優に突破。食材が良いだけに手間暇かけた調理ならこの価格でも文句はでませんが天下の福臨門、いつの間にか年配客御用達の「桃花林」と同じような調理になっていたのには誠に残念でありました。勿論オススメ店として掲載するのをやめたのは言うまでもありません。