再訪で評価をちょっと見直した、フロリレージュ

カンテサンス出身(元スーシェフ?)の店と聞くと皆さん、何を期待するでしょうか。
長時間ローストがウリでありますが、フレンチにつきもののソースにまったく拘らない3つ星シェフ・岸田氏。拘らないというより、修業していないから造れない(ソースどころか煮込みも一度食べましたが美味しくなかった)といった噂を業界で聞きます。そんな店で働いていた人がシェフのフロリレージュ、友里はまったく期待しなかったのです。

一昨年末の初訪問、逆の意味で期待はずれとならず、コース価格は1万500円と控えめでしたが、人参ピュレが甘すぎる足赤海老のコンフィに、メレンゲと一緒に食べろといわれたフォアグラは塩が緩くてワインがすすみません。
そしてこの時期苦みがないから使用したという蕗の薹を添えた真鯛、セロリのムースの鴨といずれも半生(低温ロースト)で野菜やフルーツのピュレやエスプーマだけで仕上げた「ソースなしで塩も緩いフレンチ」でありました。だいたい蕗の薹から「苦み」をとって何を求めるつもりなのか。
値付けの高いワイン(しかも1万円以下が少ない)を無理矢理飲んでの支払いが一人2万円台後半となり、再訪はあり得ないと店を後にしたのです。

ところが今年なって食べ仲間から料理が美味しくなったと誘われ、昨年の誓いを破って再訪したのがこの初冬でありました。
ホールの女性スタッフの態度の悪さ(愛想が全くなくそっけない)でカチンとなって着席。どうせ料理も去年と変わらないだろうと思ったのですが、食後感は大きく変わっておりました。

変なオリーブを塗り込んだトーストなどアミューズ系は変わりませんが、その後の料理は味濃く塩も強い。
蝦夷鮑のベニエ、焼き茄子とフォアグラ、鮪、鴨と続いた皿は、どれも塩強くワインを飲まずして食べられるものではありません。1皿単体で考えると悪くはないのですが、4皿も同じトーンが続くと胃の負担だけではなく精神的にも疲れます。飽きも来てしまうでしょう。
コースとしての完成度は未だ未だか。軽いタッチのカンテサンス風からの脱却を狙ったのかもしれませんが、客を落とす術は女性と同じ。押してダメなら引いてみな、ではないですが、味の強弱をつけたコース構成にすれば、より友里の評価も上がると考えます。

現在の集客状況がこの店の実力だ、野田岩 銀座

飲食業界の七不思議というのでしょうか、私には理解できない現象の1つが、東麻布の鰻屋「野田岩」の盛況さであります。
最近は「五代目」と枕詞をつけてきた自意識過剰の主人・金本兼次郎氏。
「天然鰻に拘っている」という文言だけでは物足りないのか、未だに「冬の時期は養殖鰻を出している」とか、箸袋には「肝などには釣り針が入っているかもしれませんので注意して下さい」との客釣りキャッチ、如何にも冬以外は天然鰻を出しているかと一般客に勘違いさせる商法をとっております。

しかし店内で多くの人が食している鰻重や蒲焼きは立派な「養殖鰻」。天然鰻の仕入れは僅かなので、オーダーしても女性スタッフは厨房へ確認しなければなりません。
それでもこの養殖鰻が美味しければ私も文句を言わないのですが、自称「2時間蒸し」の野田岩鰻、蒸し過ぎで食感がないだけではなく、肝心の旨みも抜け落ちております。
元から旨みのない養殖鰻を使っているのかもしれませんが、こんなフニャフニャで深みのない鰻の何処が良いのか。
店宣伝事業に特化した自称料理評論家・山本益博氏をうまく利用した宣伝手法も功を奏したのか、洗脳された味に無頓着な一般客で連日の商売繁盛。養子をとった五代目の娘さん、「ひらまつグループ」のマダムとタメ張るシャネラーだとも漏れ聞いております。

そんな過大評価鰻店が何を血迷ったか「次郎」と同じ銀座ビル地下に支店を出したのが今年半ばでありました。私が取引先を連れて訪問したのは今秋はじめの昼。銀座では客が居ないだろうと予想しての飛び込みでしたが、推測通り並ばずにすぐ入店できました。と言うより他に客は1組だけ。

本店と同じくメニューに明記されている肝焼きは何故か存在せず、天然の白焼き(3100円)、天然の蒲焼き(6000円)も本店と同じく淡泊で旨みを全く感じません。本来天然鰻は当たり外れが激しい食材で、そうは旨いものに出くわすものではありません。特に野田岩が仕入れる小さめの鰻に旨みを期待するのは厳しい。

本店と同じく蒸し過ぎで食感もなく旨みのない鰻を出す銀座店。野田岩の天然神話をそれでも信じたい人、牛肉含め柔らかいのが美味しいと勘違いしている人、そしてマスヒロさんの信奉者限定の鰻屋であります。

過小評価なのか客は少ない、アカーチェ

?「野田岩」や「カンテサンス」のように、美味しい料理を提供しなくても客が殺到する店が存在するというという不条理がまかり通る飲食業界ですが、逆に集客が芳しくないけど本当は美味しい店というのも僅かですが存在しています。
南青山にありながら足の便の悪いビル地下のイタリアン「アカーチェ」はその数少ない1店であります。
数年ぶりに訪問した夜、客は我々入れてわずか3組と寂しい限り。でも充分満足した食後感を持って店を後にすることが出来たのです。

料理はプリフィクス式で3コースの設定。8000円から1万円まで、各コースの違いは、前菜やパスタの皿数であります。いつもの通り一番上、1万円コース(前菜4皿、パスタ2皿、そして魚と肉をチョイスできる)を頼みました。

まずはプロシュートのムースと柿のピュレ。あまり好きではない取り合わせ(フルーツ)でしたが、生ハムの塩気に柿の甘さは悪くはなかった。
バーニャカウダも野菜の種類が多く野菜好きには満足することでしょう。

丸蟹のビスクスープはこの店の定番とのこと。非常に濃厚でありましたが、誰でも美味しく感じる味わいであります。そしてフォアグラのソテー、傑出さは感じませんでしたが、悪くはなかった。パスタを後回しにして出てきたのはイサキの香草焼き。魚料理はこれ1種でありますので、多くを期待してはいけません。

そしてメインはトリッパを選択。フレッシュなミントを最後に加えているのが特徴です。連れの牛頬肉の煮込みと共に、満足するメイン料理でありました。
パスタは定番の唐墨スパゲッティとピッチ(太めの麺)のトマトソース。腹具合に応じてパスタのグラム数の調整をしてくれるので、大食いの男性、小食の女性でも対応可能であります。

いずれもわかりやすい調理の料理。「シェ イノ」のようにほとんどの料理が定番ものなので季節感が出ておらず年に何回も訪問する必要がないことや、イタリアのディープな郷土色がないことなどから、オタッキーなイタリアン好きはリピートが難しいかもしれませんが、値付けの安いワインリストも良心的で、年に1回は再訪を繰り返したいと思った次第であります。
もちろん来年出版予定のオススメ本に掲載することに決めました。