京都にある大阪風割烹、割烹やました

最近の和食はお任せコースばかり。チマチマした多皿の創作料理が多く、自分の好きな食材や調理で楽しむ選択肢がありません。せっかくカウンターに座っても、目の前では何もせず、ほとんど奥の厨房で完成した料理を出してくる臨場感のない店も多い。そんな店に不満を持っている方にはこの店をオススメします。
コースもありますが、昼も夜もアラカルト対応が可能で、カウンター割烹の醍醐味である臨場感を堪能出来るのが特徴。ミシュラン調査員が喜ぶお仕着せコース和食に飽きていた友里が、知人の紹介で訪問したのは祇園祭前の7月初旬の昼でした。

この時期は何といっても京都では鱧。隣のコースを頼んだ客はバットから取り出した造り置きの落しでしたが、我々はアラカルトで焼き霜も頼んだからか、水槽から取り出した鱧を目の前で〆て骨切りをはじめました。このあからさまな客区別から、この店は単品注文でなければダメだと感じ取ったのです。
鱧は本来皮目と身で火入れの度合いを変えるのですが、この店はどんと一気に熱湯へ投入。これを豪快というか無頓着というかは読者の判断に委ねます。梅肉の味が濃すぎましたが、骨切りパフォーマンスのおかげで落しはまずまず。焼き霜は炭をわざわざ客前へ持ってきてから炙りますから臨場感もたっぷり。殻付きトリガイ、稚鮎、キンキの煮付け、丸鍋など結構食べて飲んでの支払いが一人1万3000円チョイと濃い目の味付けと支払いは大阪割烹並みでそれなりに満足したのです。

他の季節の夜も試しておこうと2回目の訪問は今年になってから。今回も突き出しの3種盛りは凡庸ながら、目の前で炙る佐賀の鰤やモロコ、味わいは別にしてエンターテイメントとしては成功でしょう。個人的にはもっと分厚い鰤を刺身で食べたかったけど連れ達は満足しておりました。
味の染みこみが緩い焚合せや出汁が甘めの蕪蒸し、ウリの鯖寿司も私的には身薄く酢が弱いと感ましたが、この支払額なら文句を言うことは出来ません。シェアしたとは言え丸鍋などを頼んでの支払いが1万円前後。結構飲む人も居ましたから、結果的にはかなりCP良い劇場型割烹料理店であります。出汁を含め大阪割烹に近い調理と感じますが、アラカルト、臨場感、CP感に拘る方にはオススメです。

予想外にも食後感は悪くなかった、エキュレ

美食の王様こと来栖けい氏の経営とシェフが予約困難な3つ星店「カンテサンス」のスーシェフだったことがウリの西麻布のフレンチ。ヨイショライターだ、食事会開催でサヤ抜いているはず、と批判してきただけに、私の顔を知っている来栖氏の対応を連れの男性達は楽しみにしおりましたが、来栖氏はじめ男性スタッフの接客は終始一貫それは丁寧でありました。我々が王様厳選のデザート6種に特別なコーヒーもつくフルバージョン1万6000円コースを選択したのは言うまでもありません。

まずは「カリッとした脂」と称するハモン・イベリコの揚げ物。最近よく見るものでイマイチ。「カロチン」と称する人参スープにはミカンとカダイフで揚げたあんぽ柿が入っていてまったく理解不能。ここまでは予想通りのダメ出しでした。

「美白」とはカワハギのカルパッチョに肝とポルチーニのパウダーをかけたもの。これがフレンチかとの疑問もありましたが、塩も効いていてまずまず。続く「ホタテパン」はカリカリにしたパンでホタテを挟んだ一品。塩が利いていて最初の失点をこの2皿で挽回してしまいました。「シュー・クリーム」とは揚げた春キャベツ(シュー)にフォアグラを乗せたものでケイパーが利いていて○。「燻煙」は鰤に薫香をつけたポテトを泡状にしたものをかけてあります。凝りすぎで空回りと判断。肉料理は「来日」と名付けた鴨のローストです。好きではない低温調理でしたがこれまた塩が利いていて悪くはなかった。タルトタタン(と言っても林檎のアイス)に味濃い5種のパンを食べると1皿のポーションは小さいけど大食いの私でもお腹一杯となり、王様厳選のデザートは持ち帰ることになったのです。

顔バレなので塩を効かせた調理は特別待遇だったかもしれませんが、6500円のワインペアリング(白4種赤1種)もすごかった。有名造り手や特級畑のブルゴーニュワインまで出てきて、連れの喜びは半端ではなかった。これらの調理やサービスが恒常的なら友里的にオススメ店としたいところでしたが、2ヶ月前(11月下旬)に訪問した「すずきB」という放送作家の食べた料理と8皿中4皿被っている事を知りシェフの引き出しの少なさを再考して、「一回の訪問で充分」との評価に格下げです。

あの店は今、エノテーカ・ピンキオーリ 銀座

名古屋店とは違って、銀座店は料理がそれほど悪いとは思わないのですが、世間の目はやけに冷たい。2年ぶりの久々の訪問でしたが、この日もホールに客は数組。90年代は一世を風靡したイタリアンのグランメゾンなのに、それは寂しいディナーでありました。

冷たいのは日本の客だけではありません。ミシュランにこれほどコケにされた3つ星シェフがいたでしょうか。完全に埋没した「ミシュランガイド 東京版」ですが、2007年の初年度の熱気は大変なものがありました。春先の出版発表や秋の出版記念に世界の3つ星シェフを招聘。東京に提携店を持つ3つ星シェフは高い星格付けを願い馳せ参じたのは言うまでもありません。提携店であるフィレンツェの「エノテーカ・ピンキオーリ」からも、シェフのアニー氏とオーナーであるピンキオーリ氏の夫妻が駆けつけました。ところが蓋を開けると3つ星どころか現在までまったくの不掲載。食通から相手にされない汐留の「ゴードン・ラムゼイ」でさえ1つ星ですから、この仕打ちはひどすぎます。

思い切った支出の覚悟を持って訪問すればの話ですが、この店の一番のウリはワインサービスです。ボトル売りの値付けは安くはないですが、他店にないCP良いサービスがあるのです。「テースティングコース」と銘打つもので、一人1万円から設定されたワインのプリフィクスコースみたいなもの。白、赤ワインを3?4種選んで飲めるシステムで2名からのオーダーとなりますが、必ず新ボトルを目の前で抜栓し、おかわりも原則自由。普通のグラスワイン対応とは違うのです。2万円以上のコースでは、フランスやイタリアのレアワインをラインアップしているので、特に2名では1?2本分の支払いで4本以上が実質飲み放題と同じになるのです。酒量が多い有名ワイン好きにはたまらないシステムであります。

料理はアラカルトもありますが値付けが高い。コースにある料理と被りますから、1万円から2万円までの3コースの中から選んだほうが良いでしょう。限りなくフレンチに近い料理は以前ほどの主張を感じなくなりましたが、客が数組の閑古鳥店のレベルではない。ワイン好きの方たちの訪問で、ぜひこの店の閑古鳥を撃退していただきたいと考えます。