寿司屋とは思わない方が無難、河庄

友里征耶の「銀座“裏”ガイド」というコラムを連載している「月刊めしとも」編集者の話では、「寿司特集」をするとダントツに実売数が伸びるとのこと。「洋食」や「焼肉」も人気だそうですが、「寿司」は別格だそうです。困った時は寿司頼み、他の月刊誌も頻繁に寿司特集を企画していますので食雑誌にとって救世主と言えるでしょう。

この不景気だというのに独立で増殖を繰り返す客単価1万円台後半の高額寿司屋。客激減で泣いている銀座でありますが、寿司屋だけは増えているのではないか。世にも寿司屋は不思議な商売だと思っていたのですが、銀座顔負けの請求額を誇る高額寿司屋が地方にいくつも存在していると聞いて私は驚きました。今年のテーマに地方の高額寿司屋訪問を掲げ、本日はその第一弾です。博多の「寿司割烹 河庄」は老舗で江戸前仕事をしない高額寿司屋とのネット情報から訪問を決めました。

カウンターは12席とキャパは普通ですが、店内は広い。普通寿司屋のカウンター内は「つけ場」と称して水回りとタネの保管とまな板くらいしかない狭いものなのですが、この店は厨房設備がつけ場にあるのです。やけにだだっ広く違和感がありました。
お任せでツマミから握りまで食べて飲んでの結論は、高いだけの生魚料理屋。高額寿司屋と思って飛び込んだら後悔することになるでしょう。
タネは九州ものが主体とのことですが、ツマミで食べた鯛、鮪、赤貝、サザエ、タイラガイとどれも印象に残りません。光り物では唯一鯖がありましたが、〆が緩すぎて私には合わなかった。フグ刺しも頼みましたが、専門店に適うレベルのものではなかった。

握りも予想以上に私の好みからははずれた出来で肝心の酢飯があまりに凡庸。酢や塩が緩すぎると言うより酢飯の素を使った家庭レベルの食後感でありました。米の上に魚が乗っているだけと表した方が良いでしょう。私が抱く高額寿司屋とはまったく別物の食べ物屋でありました。
支払い額は一人当たり2万数千円。他の2名はほとんどお酒を飲みませんでしたから、酒飲みの客単価は2万円台後半になると考えます。翌日の昼、古賀付近で立ち寄った街場寿司屋で食べた数千円のお決まりがやけに美味しく感じたことを付け加えさせていただきます。

立地の妙での過大評価の典型例、小松弥助

金沢市内で一番と言うより、「食べログ」で最高評価を得ている人気寿司店。
繁華街(片町)近くのAPAホテル内ということにまず驚き、実際の訪問でその外観に絶句しました。ガラス張りで雰囲気は喫茶店なのです。
主人が高齢だからか、遠方からの日帰り客が多いからか、この店は17時で店仕舞となります。12時のオープンと同時に10席のカウンターは月曜なのに予約客で即満席。再度私が驚いたのはそのうち6名が男性一人客でした。主人曰く、「東京の人が多い。あんたも東京だろう」と初っ端からカマされてしまった。

他の客が「握り」のお任せを頼む中ツマミからはじめた友里、「サビ抜き」をリクエストした隣客との会話で椅子から転げ落ちそうになりました。会社を休み東京から日帰りで来たという30歳前後の男性、年末に初訪問して感激し、間を置かず再訪したと言うので熱心な寿司好きだと思い愛想のつもりで「東京ではどこが好きですか」と聞いたその答えに驚愕。「寿司は好きではなく食べません。でもこの店の寿司だけ美味しく食べられるのです。」おいおい、寿司嫌いが好む寿司屋に俺はわざわざ来てしまったのか。この手の客に支えられただけの過大評価店なのかと後悔したのです。

評判の白子のすり流し、出汁が利きすぎで白子が埋没。蒸し鮑は深みのない味だけど前日の「あら輝」のフェアよりマシか。ヅケにコノワタを乗せてしまっては味濃すぎて肝心の鮪の風味を感じません。ヒラメも旨みを感じず、炙りトロは焦げ臭い。普段食べない甘エビは意外に美味しく感じました。

握りに移ってからも傑出さは見出せません。酢飯は味がしないとは言いませんがまったく特徴なし。ヒラメには梅肉、ヅケの小丼にはウニとトロロと大味好きな客を狙った手法にも疑問。ヅケもいやに旨みが強いなど、食材本来の旨みを引き出すのではなく旨みを加えるスタイルは、真の寿司好きには評価が別れると考えます。名物の「うなきゅう巻き」は鰻丼の味でしたし、ネギトロ巻きには見た目蛇腹の部位を使うなど、初心者向けの寿司屋と判断。光ものもなく、遠方から日帰りしてまで行く店ではない。ビールとぬる燗2本で1万円台半ばの支払いは、仕事のついでに寄ったから良いようなものの、わざわざ訪問する必要のない過大評価店と考えます。

鮨とスイーツのコラボ、ベルヴュー

不景気なので集客のため目先の変わった企画をひねり出したのでしょうか、ホテルニューオータニ。
「江戸前ディナー」と銘打った三日間限定の案内を見て私は驚きのあまり椅子から転げ落ちそうになったのです。

「江戸スピリットを生きる2人の美味職人」とのキャッチのホテル開業45周年イヴェント、なんとこの2月16日に上野毛から銀座へ打って出る人気鮨店「あら輝」の荒木水都広氏とホテルニューオータニのパティシエ・中島眞介氏のコラボなのです。スイーツに「江戸前」があるものなのか、いやそれ以前に鮨とスイーツのマリアージュが可能なのか。スイーツ3品入れて計9品のディナーが2万円(税・サ別)と割高に感じましたが、捨て石覚悟で私はこのイヴェントに潜り込みました。

まずは荒木氏の提供する蝦夷鮑の素蒸しと車海老のミソ和え。部位が小さく旨みをそうは感じません。つづく3皿は中島氏の作。亀戸大根“江戸の印籠”煮と称するものは、蒸した大根にアサリやシメジの細切れと荒木氏作の唐墨を乗せ、唐墨、白味噌、マヨネーズを和えたソースがかかっています。何とも不思議なお味。鰻豆腐は豆腐を使用した「もどき料理」。正直言って美味しくない。トマトのコンソメ“黄金の雫”は透明なトマト出汁にオマールとエシャロットを詰めたトマトが浮かんでおりました。

お待ちかね荒木氏担当の穴子の棒ずし、酢飯の塩が強く穴子とマッチしていない。これならツメを塗るべきでしょう。幻の卵焼も見た目は伊達巻きで全く傑出していない。
そして赤身、中トロ、トロの3ヶを荒木氏がテーブル前で握るパフォーマンスです。でもたいした握りではなかったのが残念。その後再び中島氏のスイーツ3皿でコースは終わりとなりました。鮨職人のイヴェントなのに、握りが3ヶで物足りない客には、2625円の追加費用で「あら輝」名物のチョモランマ(マグロを使った手巻き)が用意されています。

ぬる燗なくわずか1種の本醸造冷酒だけでは物足りず、甲州やシャルドネのグラスワインを頼んだ支払いが3万円前後。上野毛ではツマミと握りにぬる燗をかなり頼んでも2万円は超えませんでしたから、最悪なCPの江戸前ディナーでありました。ホテルのイヴェントにCP良い企画なし、新しい友里の定説です。